【ショートショート】五月の桜
「東京、あと二週間くらいしたら桜咲くんだね」
私はスマホで調べた情報をポツリと口にした。光莉は目を丸くした後、苦笑した。
「え、本当? でもそんな早く咲かれても、お花見楽しめないなぁ」
卒業式を終えた私たちは、光莉の家の前の海辺に来ていた。光莉はこの北の大地を出て、大都会東京で歌手になる。光莉が動画を投稿していたのは知っていたが、それがスカウトに繋がるなんて思いもしなかった。
「1回だけ、お花見したね。一緒に」
「そうだね、1回だけ」
私はサッカー部のマネージャーで、部員から良いように使われていた。その違和感に気づいたのが光莉だった。
「ちゃんとサボれて偉かったね」
光莉は微笑んだ。ゴールデンウィーク中、私は一度だけ部活より桜を選んだ。いや、光莉を選んだのだ。
「光莉が『こんなのおかしい』って言ってくれなかったら、私あのままだったと思う」
私が言うと、光莉は照れくさそうに笑った。潮風が心地よかった。
「飛行機、何時だっけ?」
「明日の10時だから……8時には家出たいかな」
「はや。起きれるかな私」
「なんで茜が早起きするの」
小さく笑う光莉に、私はポツリと言った。
「見送らせてよ。親友の旅立ちなんだから」
「………………」
光莉はきゅっと唇をかんだ。
「やめてよ、寂しくなるから…………」
光莉はそう言って俯いた。新しい世界に飛び込むことは、誰だって怖いはずだ。私は明るく言った。
「こっちの桜、咲いたら写真送るね」
光莉は小さく笑った。
「…………ありがとう」
潮風が強くなってきたので、私たちは海辺から離れた。
あれから数年が経った。私はCDショップやSNSで、光莉の元気な姿を確認していた。
「隆弘、ちょっと待って」
私は足を止め、スマホを取りだし公園の桜を写真に収めた。送信すると、しばらくして返信が来た。
《やっぱり桜は五月だよね》
私は微笑んだ。お互い生活が変わっても、この関係は変わらない。風が吹き、桜の花びらが宙に舞った。私は空を見上げ、遠くに吹かれる花びらを見送った。

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参加させていただきました。
既存作と絡めて、楽しく書かせていただきました。
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