【小説】Roll(e) 第9話 課題
僕と美桜がヨーロッパから帰ってくると、季節は夏休みの直前になっていた。
母と美桜の父親がカンヌとファッションウィークの長期取材、ブランド100周年のPRとしての広報活動で、長く子どもたちだけで留守番させるわけにいかない。時差があるので、オンラインで授業の録画を見て課題をこなす、現地の学園提携の語学学校に短期留学する…ということで、出席扱いにしてもらうように話をつけたそうだ。
また、学園の理事長と校長、教頭にだけ、怜音さんを含む僕たち3人の芸能活動を報告し、誰にも口外しない、学校のブログなどのSNSには載せないなど…弁護士を介して秘密保持契約を結んだ。今後の活動で、万が一にも僕たちがこの学園に通っていると知られた時に、学園が大騒ぎになることに備えてのことだ。学園的にも、騒ぎは避けたいが、卒業生に人気のモデルを輩出したという実績もほしいところが本音だろう。ここが私立を選んで正解だったと思える柔軟さである。
ヨーロッパでは、カンヌでのレッドカーペット、合間に撮影、パリとミラノのファッションウィークと怒涛の仕事ラッシュで大きなうねりに流されるように過ごしていた。
世界中から向けられるカメラのフラッシュ、目映いばかりの有名俳優やモデルたち。見たこともない、経験したこともない眩しい世界を見てきた。同じ人間とは思えないほどの美しさに驚いたり、自分の不甲斐なさに落ち込んだり、美桜に励まされて、立ち上がったり…とにかく身体も感情も忙しくて自分を見失いそうになった。でも、約束通り、美桜がいつでも側にいて、僕を自分の中心に引き戻してくれた。このおよそ2ヶ月に及ぶ冒険で、美桜への気持ちはほのかに芽生えていた恋心が成長し、彼女への大きな信頼も増していた。
美桜は僕のことをどう思っているのだろうか?
僕はこのヨーロッパでの期間、美桜に頼りっきりで何か役に立てていたのだろうか?そんな自問自答を繰り返していた2ヶ月でもあった。
オンラインで勉強していたとは言え、久しぶりの登校は緊張する。
帰国して1日休日を取ったあと、普通登校に戻る前に定期テストを受けられなかった僕たちに対しての特別措置で、みんなとは別教室で1日中テストを受けた。
僕は一応、難関大コースで特待生なので、それなりの成績を残さないと学費の免除が無くなってしまう。母の負担が増えることは避けたい。ヨーロッパに行っている間も隙間時間を見つけては必死に勉強していた。
美桜はお気楽そうだったが、元々頭がいいのか、父親や自分の仕事で色んな国に行ったりしていたので、語学が堪能なのと、順応性が高く色んな国の勉強の仕方を身につけていたので、器用に短時間で勉強していた。お互いに問題を出し合ったりして、インプット・アウトプットできて、勉強がはかどった。
2人で努力した甲斐もあり、何とか成績も問題なくクリアする事ができた。僕も特待生をキープでき、母に迷惑をかけずに済むと安堵した。
やっと普通登校に戻ったのは、1週間後に夏休みを控えた頃だった。
久しぶりに登校すると、飯田繭夏が美桜に飛び付いてきた。
「もう!突然いなくなっちゃうし、連絡付かないから心配したじゃん!お帰り!」
「ごめん、ごめーん。急にうちの父親と光のお母さんが共通の仕事で、長期でヨーロッパ出張が決まって、バタバタ手続きして大人たちに連行されていったから伝えられなくてごめんね。時差もあるし、なんかあっちでも語学学校が忙しくて…連絡できなくて本当にごめん!繭!会えて嬉しい!」
「もう!会いたかったー!瀬尾!あんたですら会いたかったわ!美桜のことちゃんと守った?」
「あ…ま、守れたかどうかは分からないけど、どちらかというと、僕の方が助けられてばかりだったと言った方が正しいような気がする。僕が役に立ったと言えば、美桜が迷子にならないようにナビしてた事くらいかな…はは」
「それでいいのよ!美桜がヨーロッパとかで迷子になったら大変だもの。1人より2人で出歩いてる方が何かと安全そうだしね。2人ともお帰り!」
飯田のこの対応のお陰で、クラスのみんなも暖かく迎えてくれた。
「お帰り!」
「2人でヨーロッパとかいいねー!」
「ちょっと美桜、あっちでの話聞かせてよ♪」
「瀬尾くんもお帰りー」
「2人いなかったら、何か物足りなかったわ」
「そうだね、全員揃ってないと何か寂しかったね」
『幽霊くん』で存在感がなかった僕が、美桜のお陰で、いつの間にかクラスの一員として認識されていた事に、僕自身がとても驚いた。
「ねぇ、ねぇ!夏休み始まってすぐの週末?『海の日』だっけ?その日にある花火大会にみんなで行く予定なんだけど、2人も一緒に行く?瀬尾がいないと、美桜とか人混みで迷子になりそうだし。どう?」
「えぇー!花火大会?行きたいっ!行きたいっ!光、行くよね?ねっ?ねっ?ねーっ?」
「美桜うるさい。そんなに言わなくても行くよ」
「えっ⁉ほんと?一緒に行ってくれるの?繭、行けるって!浴衣着るよね?新しいの買っちゃおうかなー?」
「美桜、一緒に行けるの楽しみ!瀬尾、あんたも浴衣着ておいでよ!」
「え…っ?浴衣持ってないよ…それに着付けできないし…」
「じゃ、一緒に買いに行こっ!それかネットで探そうよ。着付けは、お父さんの知り合いにお願いしてみようかなって思ってるから、それも一緒にお願いしてみるね!」
「あ、お願いしてもいいかな?」
「オッケー!繭、楽しみなんだけどー!」
「私も楽しみ!じゃあ、今度の土曜日の夕方18:00に白山神社の階段の下に集合ね!」
そうして、忘れられない僕らの夏が始まった。

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