ぐひんの山 第九章 ぐひん様 ⑤
二階にいる父親は、どうやら行李や木箱の中身まで出して調べている様子だった。
「お父さん!」
思わず父親を呼んだ。
「なんだ?」
呼ばれて下りてきた父親も、床下の部屋に驚いたようでまじまじと覗いている。
「これはなんだ?」
「わかんない。座敷牢?」
父親が腕を組んで考え込んでいる。
「わからん。……明日は大晦日だし、雪が降ってなかったら蔵の中のものを全部出そう。そんときも手伝ってくれ」
腰を伸ばしストレッチし、父親が陽菜を見た。
「わたしが全部出しておこうか。それより座敷牢に下りてみないの?」
「座敷牢なんて、見なくていい。それより、今から用事があるんだが、おまえの軽を借りていいか?」
時計を見ながら父親が言った。
陽菜は玄関に置いてある鍵を取りに行き、父親に渡した。
「町に何の用事があるの? ぶつけたら弁償してね」
「ぶつけんよ。古道具屋とか回って見積もりをお願いしてみるつもりだ。本当に荷物を出すの、おまえだけで出来るか?」
「出来るよ。中身出したほうがいい?」
「じゃあ、頼む」
「夕方には帰ってくる」
陽菜は細い農道を下っていく自分の車を見送った。
「さてと」
陽菜がようやく一人きりで蔵の中を物色できることに小躍りした。自分の荷物から懐中電灯を取りに母屋に戻った。
懐中電灯を持って外に出て空を見る。雪はまだ降りそうにない。風は凍えるように寒いが、蔵の中だとそれほど寒くない。床をギシギシと鳴らし、蓋を開け放したままの地下へ下りていった。
懐中電灯で照らすと、木の格子がある以外は何の変哲もない、六畳ほどの部屋だった。右の片隅にあるのはおそらく便所だろう。左側を懐中電灯で照らす。厚みのある布団が一組畳んで置いてある。窓がない代わりに、壁にいくつもろうそくか何かが付けられる出っ張りがあった。
一体ここに誰を監禁していたのだろう。地下にあるのだから人に見せたくないものだったかも知れない。見せたくないものとはなんだろう。妾? 精神障害者? そのほかいろいろとあるだろう。
この部屋はいつ頃まで使われていたのだろう。こんなものが存在するならば、他の蔵にも同じようなものがあってもおかしくない。見に行けたらいいが、中に入るの危険だ。おそらく床が崩れて落下するかも知れない。
妾を閉じ込めるにしてもこんな場所を使うだろうか。普通は離れなどに住まわせると思った。
それなら、次の候補は精神障害者だ。明治くらいに私宅監置と言って、精神障害者を隔離するための監禁部屋があったとされている。陽菜はそれらに詳しくないが、精神障害者を閉じ込めるほうがしっくりくる。でも私宅監置は政府が認可したものだ、いちいち隠す必要があったかどうか謎だ。
他にも可能性はある。でもリンチするには上等な布団が置いてある。妾、精神障害者や問題児を監禁する以外にこの部屋が使われる理由はなんだろう。
陽菜は格子戸を開けられるか試してみたが、鍵がかかっているのか開けられない。父親が置いておった鍵束から鍵を探したが、見つからなかった。
この部屋は一体いつ頃まで使われていたのだろうか……。
陽菜はこれ以上座敷牢にいても仕方ないと思い、階段を上がっていった。
蔵に残された木箱や行李の中身を出して、埃を取り並べる作業に移った。父親が用意したのか、新聞紙を広げて、蔵の二階に並べていった。古道具屋に引き取ってもらえそうなものはなさそうだ。
けれど、行李の奥にさほど傷んでいない漆器塗りの食器がお膳と一緒に一式出てきた。子供用なのか小さな漆器類だ。磨けば、それなりに値が付くかも知れない。その木箱には他に日本人形やおままごとの道具などの子供のおもちゃがいくつか入っていた。
いずれも桐野家の子供のおもちゃかも知れない。しかし、こんな所に隠すように収納してしまうだろうか。このことを祖父母は知っていたのか。知っていれば、見せてくれたかも知れないが、蔵の中には入ってはいけない、見てはいけないと教えていたからには、見られたくないものの一つなのだろう。父親も知らないのであれば、これらはずいぶん昔のものかも知れない。
陽菜は考え耽りながら、木製の箱の中のものを拭きながら並べていった。
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