下町の印刷会社の孫だった僕は、渋谷でマーケティング会社を経営している。
僕の祖父は、浅草で小さな印刷会社を創業した。
決して大きな会社ではない。地域に根ざした、下町の印刷屋だ。それでも僕が子どもの頃、祖父の事務所で社長椅子に座ってコロコロしていると、知らない人に頭を撫でられた。
「一番孫のゆうすけ君は将来、おじいちゃんみたいな立派な社長になるのかな」町中の経営者にそう言われて育った。僕が小学4年生で「社長になりたい」と思ったのは、間違いなくこの祖父の影響だ。
ただ当時の僕は、祖父の仕事の本当の意味をわかっていなかった。印刷会社は紙を刷る会社だと思っていた。マーケティング会社を経営して7年経った今、ようやくわかったことがある。
印刷会社とマーケティング会社は、本質的には同じことをしている。
祖父は紙を刷っていたのではなかった
祖父は町内会の会長をやり、ライオンズクラブの会長をやり、浅草のお祭りの取りまとめ役もやっていた。
すると何が起きるか。
会社を作った人が、「下谷で仕事をするなら大吉さんに挨拶に行きなさい」と地域の人に言われ、祖父のところに相談に来る。
祖父は「この町を盛り上げてくれてありがとう。会社を作るんだったら、君の商売に繋がりそうな人を紹介しよう」と言って町の人々をつなぐ。その時に必要になるのが祖父が作る名刺だった。
地域の信金の偉い人が足繁く祖父の家に通っていた。紙を刷る仕事なんてそんなに儲かる仕事じゃないのに。大きなお金を借りる仕事じゃないのに。でも、そうじゃなかった。地元の商いを始めるすべての経営者が、祖父の元に集まっていたからだったのだと思う。
祖父はそこで得たお金を、浅草の祭りや神社に寄付していた。祭りが豪華になると町に人が引っ越してくる。町が盛り上がると、また新しい商売が生まれる。
このサイクルの中心に、祖父の印刷会社があった。
祖父は紙を刷っていたのではない。印刷というものを通じて、人と人をつないでいた。だから町中の人が祖父を知っていたし、仕事が途切れることもなかった。
「リードが取れた、解約します」への違和感
僕は今、マーケティング支援の会社を経営している。この業界にいると、毎日こういう言葉が飛び交う。リードが取れた。リードの質が悪かったから受注できなかった。もっとリードの質を上げなければ。
もちろん、広告を回すことも、テレアポをすることも、展示会に出ることも大事だ。僕らはその支援でお金をいただいている。でも、本当に大事なのはその奥にある人と人が繋がり、商いを始めるその過程にある。その入口に立っていない人たちに"リード"を渡しても、何の意味もない。
「この人たち、本当に素敵だな」「この会社に発注して良かったな」と思ってもらえた人と、いかに長くつながるか。そして、その人を自分の大切な人につないでいけるか。ビジネスはそうやって大きくなっていく。
僕自身、今Facebookで約2,200人の経営者とつながっている。全員、実際に会ったことのある人だ。毎月たくさんの経営者を人につないでいて、逆に「水島さんにつなぎたい人がいる」という紹介を毎月10人、20人といただく。「新規事業を始めるから、マーケティングの相談をさせてほしい」という連絡が、毎月5人から10人やってくる。
広告をかけているわけではない。祖父が浅草でやっていたことを、僕は東京のマーケティング業界でやっているだけだ。
マーケティングも、人と人をつなぐ仕事だ。
大吉印刷の孫として、僕はそれをやり続けたい。
