打順論 タナキクマルセイヤの是非について改めて考える
1番田中広輔、2番菊池、3番丸、4番鈴木誠也、カープファンにとっては鉄板のゴールデンラインです。3連覇を成した最強カープ打線も、現代においては見直しが入るのかもしれません。
古来から日本野球では、1番は出塁率と走力に優れた選手、2番は自己犠牲とテクニカルに優れたチャンスメーカー、ここまでをお膳立てに、据え膳の完成を待って3、4、5番のお出まし。チームの主軸打者であるクリーンアップで点をとりにいく、お膳立てと本命を順序良く並べるのが一般的なスタイルでした。
WBC、日本代表チームは用意ドンから最高級ステーキの大谷翔平さんが出てきます。打順編成において傑出した選手を3、4番ではなく1、2番、もしくは2、3番に置く、というのは世界的な定石になりつつあります。テクニカルな戦術で相手を陥れるよりも、長打を繋いで効率よく点を取る、かつ長打を打てる選手にできるだけ打席をまわそうということです。
日本代表打線において、頭三つ抜けている大谷翔平さんは、二塁打を打ってひとりでチャンスメーク、もしくはホームランを打ってひとりで点を取るなど、わざわざお膳立てをしなくても攻撃を加速させることができる選手です。
せっかくの大谷さんの打席なのだから、どうせなら走者をためて、チャンスを広げてまわしたほうが、という考え方もあるのですが、スチール、バント、エンドランなど、テクニカルな作戦には失敗のリスクがついてまわりますし、基本的に勝負を避けられることのないノーアウトランナー無しの曲面は考えようによってはチャンスです。
そして、台湾戦で大谷さんがグランドスラムを放ったように、試合が始まって打順が巡れば、1番打者にもチャンスでまわってくることはざらにあります。
2016~2018 3連覇中のタナキクマル(田中、菊池、丸)と鈴木誠也さんの力関係は、年度ごとに異なりますが、鈴木誠也さんが4番に完全定着した2018シーズンを例に考えてみることにします。
田中広輔さんは出塁率とスピードに優れた典型的なリードオフマンタイプです。16~18シーズンは打率こそ.265 .290 .262 と、3割に届くことはありませんでしたが、選球眼の良さと、ガンガン踏み込んでいくタイプであるがゆえの死球の多さも手伝って、出塁率は.367 .398 .362 と高次元で安定しています。2017年は35盗塁で盗塁王も獲得しており、チャンスメーク、スピードともに申し分ない切込隊長です。

菊池涼介さんはツボにはまったときの長打、球界屈指の精度を誇る犠打、右打ちを兼ね備えたトリッキーな打者です。2016年は反対方向への安打を増やし、最多安打を獲得するなどキャリアハイを記録しましたが、2017、2018と数字を落としています。原理原則というよりもその場の反応、嗅覚に従ってプレーするような選手で、年度ごとにムラのあるタイプです。

丸佳浩さんは全方向に長打を打てるパワーヒッター。特にマツダスタジアムの特性を活かしてレフトへの本塁打を量産し、2018年にキャリアハイとなる39本塁打を記録しました。なおかつ選球眼と出塁能力については田中広輔をも凌ぎます。2018年の四球数は記録的です。(2018年 出塁率.468 四球130)2014年に盗塁王を獲得しましたが、純粋なスピードよりも敵の隙を突く走塁センスに優れた選手であり、田中さんや菊池さんと連動した走塁で敵守備陣を攪乱するシーンもしばしばでした。

今やMLBカブスの主力選手であり日本人No.1右打者の鈴木誠也さんは、当時からパワーとスピードともに圧倒的で、日本トップクラスの外野手として最高の評価を得ていました。急激な肉体改造によりコンディションを崩したり、精神的な未熟さゆえに沼に入ると長引くなど課題もありながら、未完成がゆえにまだまだ未知の潜在能力を秘めていました。

2018年シーズンにおいて、ともに低調だった田中菊池とは対照的に、丸さんと鈴木さんはともに3割30本、OPS1.000をクリア、凄まじい暴れっぷりでセリーグの投手達を蹂躙しており、誰がどうみてもカープ打線の飛車角はこのふたりでした。
田中広輔 打率.262 10本塁打 60打点 OPS .745
菊池涼介 打率.233 13本塁打 60打点 OPS .656
丸佳浩 打率.306 39本塁打 97打点 OPS 1.096
鈴木誠也 打率.320 30本塁打 94打点 OPS 1.057
現代風にならうと菊池さんを下位に下げて、丸さん、鈴木さんの打順をひとつずつあげる。もしくは丸さん、鈴木さんで1、2番を組むようなプランも挙がってくるのかもしれません。この頃のカープには彼らの打順をあげても、クリーンアップに松山竜平さん、安部友裕さん、新井貴浩さん、ブラッド・エルドレッドさん、サビエル・バティスタさんらクラッチヒッターを並べることができるので、なおさら理に適うものです。
以前、統計や傾向に対する依存でプレーする選手、マネジメントする監督コーチの思考発想が放棄されていることについて悲哀の記事をあげましたが、この打順編成の変化については好意的にとらえています。むしろこれについては思考をとめないからこそ形を変えてきていると思うからです。昔ながらの様式美のような打線が廃れていく寂しさはありますが、現状に疑問をもって良い方法を探す、というのはあるべき形だと思います。
とはいえテクニカルな戦術に意味がないわけではないのです。野球は立ち止まり、次の一手を思考する、その間が生まれるスポーツです。一、三塁のシチュエーションが攻撃側にとって最も理想であり、守備側にとって対処が困難とされるのは、内野手がそれぞれ反対方向に進む走者をケアしなければならないからです。打球に対するチャージ、送球先、走者の行方、様々な要素に対して守備側の思考を強要することができます。
思考を強要されることによりプレーの選択と精度に揺さぶりがかかります。盗塁に関しても失敗のリスクを考慮してその有効性が議論されるケースがありますが、この場面スチールがある!となればセカンドショートはベースカバーのケアに重心が引っ張られます。ただし安易にポジションを空ければエンドランで狙われる場合もあり、この点も考慮しなければなりません。
走者のスピードを考慮すれば当然バッテリーの組立にも影響します。投手はモーションをコンパクトに、なおかつ規則性が出ないように注意を払います。捕手は1球受けるごとに一塁走者を確認し、リードが大きければ即座に牽制球を放ることもあります。ミスの起きやすい咄嗟のプレーです。
選手の消耗は体力面にフォーカスされる場合がほとんどですが、人間同士で行う以上、思考による消耗がない、というのはあり得ません。野球は力のぶつけ合い、体力のぶつけ合いであると同時に思考の奪い合いでもあると考えています。
作戦を実行する、もしくはなんらかの作戦があると思わせることには、局面によって守備側にノイズを与えること、試合を通して思考のスタミナを奪うこと、両面で効力を持ちます。これらが数字になって出てくることはありませんが、確実に存在する野球の要素だと考えています。
幹となる体力、技術あってのことであり、策ばかりが先行するのもよいことではないので、これも結局塩梅の問題ではありますが、数字に表れるフィジカルの要素ばかりが評価され、こうした野球が軽んじられてしまうのも、気分がよいものではないのです。
