ぼくはおじいちゃんをほっといた
高校2年の時です
2階でテスト勉強をしていました
階下でガタンと音がしました
『おじいちゃんだな』
と確かにぼくは思いました。
祖父はずっと病気でした。
病気で臥せっていて,トイレに行こうと思って躓いたんだと思いました。
『ほっとこう』
とぼくは思いました。
何とか自分で起きるだろう,と思ったのか
それとも何も考えなかったのか
とにかくぼくはその音に対して何もしませんでした
そのあいだ忘れていたのか
頭の中に祖父の事があったのか
いや,頭の片隅にはありました。
トイレに行ったか
部屋に戻ったか
そのままか
でもぼくは下に行って様子を見ることはしませんでした。
しばらくして階下から母の声が聞こえました。
「おじいちゃん! どうしたの! 大丈夫?」
何かおじいちゃんにあったな,とは思いましたが
ぼくは部屋から出ませんでした
いや,出られませんでした。
母はすぐ医者を呼びました。
救急車は呼びませんでした。
近くのかかりつけのお医者さんが来て
死亡を確認しました。
その間に誰かが祖父を部屋に運び,布団に寝せたはずですが
ぼくは何もしないで,2階にいました。
1階に行けませんでした。
急を聞いて父が帰ってきました。
父が
「お父さん,お父さん!」
何度も祖父に呼び掛けする声が聞こえました。
ぼくは怖くて階下に行けませんでした。
それから葬式まで,いや葬式でも祖父の顔を見た記憶はありません
多分,見る機会は何度もあったはずですが
意識的に顔を見るのを避けていたと思います。
見るのが怖かったんです。
葬式の段取りをしているときだったでしょうか
あまりの罪悪感で,母に
「ぼくは階段の下でガタッと音がしたけど見に行かなかったんだ。」
と言うと母は,
「その時にはもう亡くなっていたから。」
気にしないんだよ。と言う感じで言ってくれました。
ぼくはほんの少しだけ,気が楽になりました。
それでも罪悪感は残りました。
『それでもすぐにぼくが階下へ降りて行ってたら,どうなったんだろう?』
大学2年の時。
その当時父母は70㎞くらい離れた赴任先の借家に住んでいて,実家ではぼくと祖母の2人暮らしでした。
ぼくは祖母と2人きりになるのがなんとなく嫌で,用事がないときも,なるべく晩御飯ぎりぎりに帰っていました。
家に帰ったら玄関に祖母が頭から血を出して立っていました。
「どうしたの⁈」
と祖母に聞いたら,
「さっき転んで頭打ってさ。」
と言うのです。
そんな,呑気に言ってる場合じゃないほど出血していました。
半分パニックになりながら近所の親戚のおばさんに見てもらって,病院に連れて行ってもらいました。
自分で連れて行くなんてできませんでした。
治療が終わって帰って来るまで泣いてました。
数十分後,祖母は親戚のおばさんと頭に包帯を巻いて帰ってきました。
ぼくは本当にホッとして,また泣きました。
知らせを聞いた父の妹のおばさんも来てくれていて
泣いているぼくを見て
「あんたは優しいんだね。」
と,言ってくれましたが,そんなんで泣いていたわけではなかったのです。
