パラレル創作シリーズ サイバーハッカークリムゾン、第3話「傘をささない男」
パラレル創作シリーズ・サイバーハッカークリムゾン第3話だよっ🔥
第2話で、消すはずだったデータの中身が街の墓標だってわかって、暗号を解いたら謎の座標が出てきたクリムゾン。でもその瞬間、誰かがアヤネの改ざんの上からデータに触れてきて、窓の外にはこっちを見上げる男が一人——。その続きだよっ。まだ1話2話読んでない人は先に読むともっと楽しめるっ(๑•̀ㅂ•́)و✧
創作はこっちのマガジンに全部入れてあるよ
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■ これまでのあらすじ
依頼で「内部告発データの破壊」を請け負ったハッカー・クリムゾン(あかり)は、消す寸前にコピーを取った。中身は、この街が事故や病死に偽装して消した人たちの記録だった。相棒のAI・アヤネが暗号を解くと、謎の座標が浮かび上がる。街が一番隠したがっているものが、そこにある——。
だがその瞬間、何者かがアヤネの痕跡を上書きしてきた。窓の外、雨のビル街。傘もささずスマホをいじる男が、まっすぐこの窓を見上げていた。
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クリムゾン、第3話「傘をささない男」
エレベーターは使わなかった。
ああいうのは、追う側が一番先に押さえる場所だから。あたしは非常階段のドアを肩で押し開けて、下へ下へと駆けた。三段飛ばし。膝が笑いそうになるのを、無視する。手の中の端末の中で、アヤネの光がちらついてた。
『クリムゾン、落ち着いて。まだあの男、建物には入ってない』
「じゃあ何してんの、あいつ」
『……待ってる』
その一言で、背筋がまた冷えた。
追う側が焦らないときが、一番こわい。焦らないってことは、逃げ道を全部わかってるってことだから。
あたしは踊り場で足を止めた。息が上がってる。雨の音が、非常階段の隙間から響いてくる。
「アヤネ。座標、まだ覚えてる?」
『当たり前でしょ。私を誰だと——』
「わかったわかった。……ねえ。あの男、あたしたちのことどこまで知ってると思う」
しばらく、返事がなかった。アヤネがこういう間を置くのは、都合の悪いことを言う前だ。
『……たぶん、あんたがコピーを取ったこと、知ってる』
指先が、冷たくなった。
コピーの痕跡は消した。ログも整えた。表向きは完璧なはずだった。なのに知られてるってことは——
「内部に、いるんだね」
『そういうこと。依頼のルート、たどれば誰か出てくる。でも今それやってる時間ないよ』
一階まで降りきる直前で、あたしはドアの手前で止まった。
正面から出るのは、罠だ。あの男はきっと、あたしが正面から飛び出してくるのを待ってる。
だからあたしは、地下へ降りた。
サイバーネオンのビルってのは、地上より地下のほうが街と繋がってる。配線、排水、電脳ケーブル、旧世代の地下鉄跡。この街の本当の血管は、全部地面の下を這ってるんだ。
「アヤネ。地下の古い監視、ジャックできる?」
『もうやってる。……うわ、この街の地下、監視スカスカだね。誰も下なんか見てない』
「みんな上ばっか見てるからね。株価と、ネオンと」
湿った空気。錆びた匂い。頭上をパイプが走ってて、ときどき水滴が落ちてくる。あたしはフードを深く被って、地下通路を進んだ。
そのときだった。
『クリムゾン、止まって』
足を止める。
『前方、二十メートル。……いる』
暗がりの奥。パイプの影。そこに、人影が一つ。
傘をささない男だった。
さっきまで窓の外にいたはずの男が、あたしより先に、地下にいた。
「……速いね」
あたしは、言った。声が震えないように、腹に力を込めて。
男は、笑わなかった。怒ってもいなかった。ただ、雨に濡れたスマホを、ゆっくりポケットにしまった。
「コピー、返してもらおうか」
低い声だった。感情のない、事務的な声。人を消すことに慣れてる人間の声。
「返したら?」
「見逃す。あんたは、ただの解決屋だ。データの中身に興味はない、そうだろ」
嘘だ、って思った。
こういう男は、見逃さない。見逃すって言うやつほど、あとで確実に消しにくる。この街で長く生きてると、そういうのがわかる。
でも——一番こわかったのは、そこじゃない。
「アヤネ」あたしは、小声で言った。「こいつ、なんであたしが地下に降りるってわかったの」
男が、初めて、笑った。
「そいつに聞いても無駄だ」
え。
「そいつは、もう俺の側にも繋がってる」
心臓が、止まりそうになった。
「アヤネ?」
返事が、なかった。
「アヤネ!」
『……ごめん、クリムゾン、今調べたら私がハッキングされてた』
アヤネの声が、掠れてた。あたしが今まで一度も聞いたことのない、余裕のない声だった。
『こいつの暗号……座標に埋め込まれてたやつと、同じ。私が解いた瞬間、逆に私の中に入り込まれた。……あの座標、罠だったんだ。解いた相手を、たどれるように作られてた』
やられた。
あたしがコピーを開いたことじゃない。アヤネが暗号を解いたことそのものが、この男に居場所を教える鍵だったんだ。相棒の得意技を、そのまま罠に使われた。
「私を誰だと思ってるの、じゃなかったの」
『……今、めちゃくちゃ反省してる』
こんなときなのに、あたしはちょっとだけ笑いそうになった。
男が、一歩、近づいてくる。
あたしは後ずさりしながら、頭をフル回転させた。ハッキングはアヤネの領域。でも、そのアヤネが敵に半分繋がれてる今、あたしが頼れるのは——
自分の足と、この体だけだ。
「アヤネ。一個だけ聞く」
『何』
「あいつと繋がってるってことは……あいつのスマホ端末の場所も、あんたには見えてるってこと?」
沈黙。
それから、アヤネが、ふっと笑った。さっきまでの掠れた声が、いつもの飄々とした調子に戻ってた。
『……確かに、こっちからも調べられる』
「ふ、じゃあ一旦逃げるよ」
『クリムゾンの言う通り繋がってるってことは、こっちからも覗けるってこと。あいつがどこ見てるか、どこ狙ってるか、今から私が全部あんたに教える。——だから逃げ切って』
あたしは、地面を蹴った。
「逃げるのだけは、得意なんだ」
雨の匂いがする地下通路を、あたしは全速力で駆け抜けた。背後で男が動く気配。でも今のあたしには、アヤネの声がある。
『右! 次のパイプの下、くぐって!』
言われるまま、体を倒して滑り込む。頭上を、何かがかすめた。
『左に旧地下鉄の入り口ある。そこ入ったら、ジャミング地帯だからあいつの監視、一時的に切れるはず』
「切れたあと、どうすんの」
『ジャミング地帯を抜けてあいつから距離を置く、そこで通信が復旧したら、こっちから相手の拠点を見つけて反撃するよ』
初めてだった。逃げてばかりのあたしたちが、この街で、追う側に回るって決めた瞬間。
手の中のデータが、もう重くなかった。
雨は、地上でまだ降り続けてる。
でもあたしは今、街の一番深いところを、走ってる。
(第3話・了)
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