莉子と結衣菜の霊探偵事務所|届かなかった誕生日
あかりのパラレル創作シリーズ
ジャンルを問わず短編小説を次々に出していく企画だよ〜✨ ホラーもバトルも転生もサイバーパンクも、全部このシリーズの中でつながってるの
キャラの性格はそのまま、生い立ちだけ世界に合わせて変えてるのがミソっ。同じ子でも世界が違えば全然違う顔を見せるっ(´▽`)
そして最大の仕掛けが、各話のラストでとるアンケート。読者の反響が大きかった作品だけ続編を書いていくよ〜。続きを決めるのは読んでるあなたっ。全部無料だから気軽に投票してねっ٩(ˊᗜˋ*)و
背景設定+あらすじ
この街には、視える人間と視えない人間がいる。
結衣菜は小さな神社の神主の娘で、生まれつき視える側の人間――そして、視えないものまで視てしまう霊探偵。相棒は莉子、明るくて情報収集が得意な現世ギャル。本来は弱い霊しか視えないはずの莉子が神様のアヤネまで視えるのは、アヤネがあえて視せてくれているから。
そのアヤネこそ、結衣菜の神社に千年いるお稲荷さん。普段はギャル口調で飄々としてるけど、いざとなれば古の神使の顔を見せる。知識と相談役として、二人を見守ってる。
いつもの低級霊なら、塩と、アヤネの神力が宿った結衣菜の槍で片がついた――今回までは。
これは、そんな三人が青い服の幽霊と向き合う話。

―事務所の古びた応接机に、依頼書が二枚並んでいた。
「今日、二件も来てるんだけど」莉子が紅茶をすすりながら片方をつまみあげる。「片っぽ、なんか字がミミズみたいで読めないんだよね。ヤバくない?」
結衣菜はその一枚を受け取ると、ふっと表情を消した。紙の端が、じっとりと湿っている。墨みたいな黒い染みが、依頼人の名前を覆い隠していた。

「……これ、人が書いたものじゃないのかも」
「え、待って、依頼が人からじゃないってどういうこと」
答える代わりに、結衣菜は立ち上がった。こういうときに頼る相手は、決まっている。
神社の境内は、夕方の光でオレンジに染まっていた。手水舎のそばで、金色の瞳をした少女が石段に腰かけ、退屈そうに足をぶらぶらさせている。銀の髪、頭に乗った狐の耳――アヤネだ。
「お、ゆいなじゃ〜ん、りこも。なになに、相談?」
結衣菜が黒い染みの依頼書を差し出すと、アヤネの目つきが一瞬だけ変わった。ぶらついていた足が、止まる。
「……あー、これね」語尾は軽いのに、声の芯が少し冷えた。「おとろしじゃん。鳥居の上に居着くやつ。不信心なやつが通ると降りて暴れるの」
「おとろしって……妖怪だよね?」莉子がのぞきこむ。
「妖怪、神様じゃないから遠慮なくやっていいけど」アヤネは狐耳をぴくりと動かした。「これ今、けっこう育ってる。それにおとろしはこんな罠みたいなことはしない、異常な事だしあんたたちだけで行ったら、たぶん帰ってこれないよ〜?」
軽い口調のまま、そういうことを言う。結衣菜は少しの間、依頼書を見つめて――そっとしまった。

「……じゃあ、こっちを先に」
もう一枚の依頼。青い服の幽霊が出る、取り壊し前の古いアパート。物が飛ぶ、夜な夜な音がする、住人が全員逃げ出した。よくある除霊の依頼に、見えた。
「軽いやつっしょ、それ」アヤネが手をひらひら振る。「塩まいて、槍でひと突きしとけば〜頑張ってねー」
その言葉を、結衣菜たちはこのあと、思いっきり後悔することになる。
アパートの三階、いちばん奥の角部屋。ドアを開けた瞬間、空気が重くなった。
青い服の女が、天井近くに浮いていた。
うわーいきなりそれに雰囲気結構ヤバくない?
うつむいた顔は髪に隠れて見えない。ワンピースの裾が、風もないのに揺れている。結衣菜が塩を撒くと、女はびくりと震えた――が、それだけだった。
「……効いてない」
「マジ? いつも結構きくじゃん」
莉子の声が裏返る。結衣菜はもう槍を構えていた。アヤネの神力の宿った穂先が、青白く光る。踏み込みざま、女の胸を貫く――手応えは、あった。女の体が霧のように散った。
「よしっ、いけた!」
いけて、いなかった。
散った霧が、みるみる集まっていく。十秒。たった十秒で、青い服の女はまた元の姿で天井に浮いていた。今度は、こちらを見ている。
うつろな目が、二人を捉えた瞬間――部屋中の物が、宙に浮いた。錆びたフォーク、割れた皿、折れたナイフ。それが一斉に、こっちを向く。

「ゆいな、伏せてっ!」
莉子が結衣菜の腕を引く。二人の頭上を、金属が唸りをあげて飛んでいった。壁に突き刺さったナイフが、ぶるぶると震えている。次の一投は、避けきれない――
「撤退っ!」
結衣菜が莉子の手を掴んで、廊下に転がり出た。背後で、無数の物が壁に叩きつけられる音。息を切らして階段を駆け下りながら、結衣菜は思った。あれは、いつもの霊じゃない。
「――除霊、できなかった」
境内に戻った結衣菜の声は、まだ少し震えていた。膝に擦り傷。莉子は肩で息をしている。アヤネは石段の上から、二人を見下ろしていた。
「槍で貫いても、十秒で戻るの。ああいうの、初めて」
アヤネはしばらく黙って、それから、ふっと息を吐いた。神使の顔だった。
「――霧散しないってことは、この世に縛りつけてる〝錨〟があるってこと。未練が、モノに宿ってんの。そのモノを断たなきゃ、何回貫いても戻ってくるよ」
「錨……どこにあるの」
「たぶん、その霊のすぐ近く。未練が強いモノほど、離れらんないから」アヤネの尻尾が、ゆらりと揺れた。「見つけて、うちの神社で焚き上げな。それで昇華する。――ま、まずはさ」
金色の瞳が、莉子に向く。
「なんでその子がそうなったか、調べてきな。理由がわかれば、錨の見当もつくっしょ?」
莉子の情報収集は、速かった。
そのアパート、五年前に一度、事件になっている。住人の若い女性が、外出先で交通事故に遭って亡くなった。近所の噂では――恋人がいたてその誕生日の日に出かけたきり、帰ってこなかった、と。
「恋のもつれと、不慮の事故……」結衣菜は資料を睨む。「アヤネの言う〝未練の宿るモノ〟。それ、たぶん――」
「その日、渡すはずだったやつ」
二人は顔を見合わせた。
翌日、日が高いうちに。部屋に踏み込んだ、大量の物が飛んでくるのを槍で払い落としながら、結衣菜は部屋を探した。莉子が床下や壁の隙間に手を伸ばす。青い服の女は天井で暴れ続け、フォークが頬をかすめ、細い傷が走った。
「ゆいな、ここっ!」
莉子が引きずり出したのは、押し入れの奥、崩れた段ボールの底。ラッピングの解けかけた、小さな箱。そして――一通の手紙。
その手紙だけ、明らかに違った。呪力が、ぬめるように滲み出している。触れた指先が、しびれた。
「これだ。回収して、神社へ――」
それを取られた女の悲鳴のような声が、部屋を揺らした。結衣菜は手紙と箱を抱えて、莉子とともに飛び出した。
神社への坂道。結衣菜の足が、途中で止まった。
抱えた手紙の封が、走った拍子に、ほどけていた。中の文字が、目に入ってしまう。読むつもりなんて、なかった。
――〝住所、教えてなくてごめんね。今日、ちゃんと言うつもりだったんだ。この街のどこにいても、あなたを見つけられる自信があったから〟
〝誕生日おめでとう。これ受け取って!ずっと、あなたのことが好きだよ、これからもよろしくね〟
結衣菜は、動けなくなった。
これは――焚き上げて、消していいものじゃない。
「ゆいな?」息を切らした莉子が追いつく。「神社、こっちだって、どこ行くの?」
「……莉子」結衣菜は、坂の上ではなく、来た道を振り返っていた。「戻ろう」
「はぁ!? あんなヤバいとこに!?」
「あの子、裏切ったって思われてるの。事故のこと、恋人にも伝わってないから」結衣菜の声は、静かだった。静かなのに、揺るがなかった。「住所を教えてなかったから、恋人は知りようがなかった。だから――待たされたまま、悪者になって、そのまま忘れられた」
莉子が、言葉を失う。
「焚き上げて消したら、その誤解ごと消えるだけ。あの子の想いは、なかったことになる、それに恋人もそれを知らないままずっと過ごすことになる」結衣菜は手紙を握りしめた。「それは、違う」
角部屋のドアを、もう一度開けた。
青い服の女が、こちらを見た。物が浮きあがる。けれど結衣菜は、槍を構えなかった。代わりに、両手で手紙と箱を胸の前に掲げた。
「今、彼はどこにいるの」
宙に浮いた物が、ぴたりと止まった。
「あなたのこと、待ってた人。事故のこと、その人知らないんでしょ。――教えて。私が、届けるから」
女のうつろな目に、ゆっくりと、光のようなものが戻る。
「あなたは裏切ってない。それを、ちゃんと彼に伝える。このプレゼントも、この手紙も、全部」結衣菜はまっすぐに、青い服の女を見た。「その代わり――届いたら、成仏して。約束して」
長い、長い沈黙があった。
やがて、青い服の裾が、風もないのに、ふわりと持ち上がった。垂れていた腕が、ゆっくりと動き――窓の外を、指さした。この街の、どこかを。そしてゆいなの頭の中にある風景が浮かんできた
髪の隙間から、女の口元が見えた。
泣いているように、笑っていた。

彼が今も、彼女を裏切りだと思ったまま、次の恋を楽しんでいること。そこに手紙が届いたとき、彼がどんな顔をするのか。
それは、まだ、わからない。
わからないけれど――届けると、結衣菜は約束した。
青い服の女は、もう、暴れていない。
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