『勇者、ハローワークに行く』導入回
魔王を倒した勇者は、履歴書でつまずいた
魔王を倒した。
世界は平和になった。
そして勇者は、仕事を失った。
そんなところから始まる物語を、新しく書きました。
タイトルは、
勇者、ハローワークに行く
第1巻のサブタイトルは、
魔王討伐は職歴になりますか?
です。
これまで灯雨文庫では、静かな夜に寄り添うような短編集を多く作ってきました。
雨の日の古本屋。
旅先で出会う人情。
亡くなった人との再会。
絵や料理や本を通して、少しだけ心がほどける物語。
そういう“静かな短編集”を中心にしてきました。
でも今回は、少し違います。
舞台は異世界。
主人公は、魔王を倒した勇者。
そして彼が向かうのは、王都公共職業相談所。
いわゆる、ハローワークです。
勇者レオンは、かつて世界を救いました。
魔王を倒し、空を覆っていた黒い雲を晴らし、人々に平和を取り戻した英雄です。
けれど、戦いが終わって三年。
世界が平和になったことで、勇者の仕事はなくなりました。
魔物退治の依頼は減り、護衛の仕事も少なくなり、報奨金も底をつきます。
かつてはどこへ行っても、
「助けてください」
「来てください」
「守ってください」
と求められていたレオン。
けれど平和な世界では、誰も彼を呼びません。
それは、本当は喜ぶべきことです。
でもレオンは、ふと思ってしまいます。
自分はもう、必要ない人間になったのではないか、と。
そんなレオンが、ある日、職業相談所を訪れます。
履歴書の職歴欄に、何を書けばいいのか。
「魔王討伐」
「世界救済業務」
「チームリーダーとして四名の仲間を統率」
たしかに嘘ではありません。
でも、それをそのまま履歴書に書いて、伝わるのか。
面接で退職理由を聞かれて、
「魔王が死んだためです」
と答えていいのか。
勇者という肩書きがなくなったあと、自分は何者として生きればいいのか。
この物語は、そんな問いから始まります。
一見すると、かなり変な設定です。
勇者がハローワークに行く。
聖剣を傘立てに置かされる。
面接でつまずく。
職業訓練で敬語を学ぶ。
通信端末で自分の名前を打ち間違える。
笑える場面も多いです。
でも、この物語で書きたかったのは、ただのギャグではありません。
本当に書きたかったのは、
役目を終えた人が、そのあとどう生きるのか
ということでした。
何かを頑張ってきた人ほど、
それが終わったあとに、立ち止まることがあります。
仕事。
子育て。
介護。
夢。
部活。
受験。
大きな責任。
誰かのために頑張っていた時間。
それが終わったとき、ほっとするはずなのに、
同時に、自分の居場所がなくなったように感じることがある。
もう自分は必要ないのではないか。
次に何をすればいいのか。
これまでの経験は、これからの自分に使えるのか。
レオンは勇者ですが、悩んでいることはとても人間らしいです。
魔王は倒せた。
でも、履歴書は書けない。
世界は救えた。
でも、自分の明日のことはわからない。
そのギャップが、この物語の中心にあります。
第1巻では、レオンが職業相談員・白井と出会い、少しずつ自分の経験を見つめ直していきます。
魔王討伐は、ただ「魔王を倒した」という出来事ではありませんでした。
仲間と協力したこと。
怖くても前に進んだこと。
村人の話を聞いたこと。
泣いている子どもを励ましたこと。
失敗しても、次の日にまた歩いたこと。
大きな英雄譚の中に隠れていた、小さな経験。
それをひとつずつ言葉にしていくことで、レオンは少しずつ気づいていきます。
勇者という肩書きがなくなっても、
自分が歩いてきた道は消えないのだと。
この物語には、かつての仲間たちも登場します。
魔法使いのミラ。
僧侶のエマ。
盗賊だったガルド。
彼らもまた、魔王討伐後の世界で、それぞれの再出発をしています。
ミラは教師に。
エマは診療所の先生に。
ガルドは防犯アドバイザーに。
一見、みんなうまくやっているように見えます。
でも実際には、それぞれに迷いや痛みがあります。
戦いで得た経験をどう伝えるのか。
治せない心の傷とどう向き合うのか。
消えない過去を、どう使い直すのか。
レオンは仲間たちと再会する中で、自分だけが立ち止まっていたわけではないと知ります。
みんな、平和になった世界で、別の形の戦いを続けているのです。
そしてレオンは、職業訓練を受け、面接に落ち、また立ち上がりながら、ある仕事に出会います。
それは、元冒険者や元兵士たちの再出発を支える仕事。
魔王を倒したあとの世界にも、救われていない人がいる。
戦いが終わったからこそ、行き場を失った人たちがいる。
レオンは、剣を振るう勇者ではなく、
誰かが今日できるところまで戻るのを隣で支える人になっていきます。
この作品は、今までの灯雨文庫の静かな短編集とは少し違います。
タイトルも表紙も、いつもより強めです。
設定もかなり変わっています。
異世界で、勇者で、ハローワークです。
でも、根っこにあるものは、やっぱり灯雨文庫らしいと思っています。
傷ついた人が、少しだけ前を向くこと。
自分の過去を、別の形で持ち直すこと。
完璧ではなくても、今日できるところから始めること。
笑えるのに、少し胸が痛い。
変な設定なのに、どこか自分の話にも思える。
そんな一冊を目指しました。
第1巻の冒頭イメージ
勇者レオンが、職業相談所の窓口に座っている。
鎧姿のまま、履歴書を持って。
聖剣は、受付で「危険物です」と言われ、傘立てに置かれている。
相談員に聞かれます。
「こちらの職歴について、少し詳しくお聞きしてもよろしいですか」
レオンは答えます。
「魔王を倒しました」
「はい」
「世界を救いました」
「はい」
「以上です」
けれど、相談員は静かに言います。
「世界を救ったこと自体より、その中で何をしてきたかが大事になる場合があります」
その言葉から、レオンの再出発が始まります。
こんな方に読んでほしいです
少し変わった異世界ファンタジーが読みたい方。
笑えるけれど、最後には少し温かい物語が好きな方。
仕事や再出発をテーマにした物語が好きな方。
今の自分に何ができるのか、少し迷っている方。
そして、
「冒険が終わったあとも、人生は続く」
という言葉が、少し気になる方へ。
Kindle版について
『勇者、ハローワークに行く Vol.1|魔王討伐は職歴になりますか?』は、Kindleで配信中です。
Kindle Unlimitedでも読めます。
魔王は倒せた。
面接は、落ちた。
そんな勇者の、少しおかしくて、少し切ない再出発の物語です。
気になった方は、ぜひ第1巻を読んでみてください。
Kindleはこちら
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最後に
勇者の物語は、魔王を倒して終わることが多いです。
でも本当は、
魔王を倒した翌日にも朝は来ます。
お腹も空く。
家賃もかかる。
履歴書も必要になる。
自分が何者なのかわからなくなる日もある。
それでも、人生は続いていく。
この物語は、そんな「冒険のあと」の物語です。
今までの灯雨文庫とは少し違う新シリーズですが、
読み終えたあとに、少しだけ心が軽くなるような一冊になっていたら嬉しいです。
