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名作は、いまも私たちの中を歩いている

「名作、いまを歩く」というシリーズについて

昔読んだ物語が、大人になってから急に違って見えることがあります。

学校の教科書で読んだときは、よくわからなかった。
有名な作品だから読んだけれど、どこか遠い話のように感じた。
登場人物の気持ちよりも、テストに出る言葉や作者名のほうを覚えていた。

そんな名作が、ある日ふと、自分のことのように感じられる。

あの人の嫉妬は、自分の中にもある。
あの人の後悔は、今なら少しわかる。
あの人が選べなかったことを、自分も選べずにいる。

名作は、古い本棚の中に眠っているだけのものではないのかもしれません。

形を変えて、時代を越えて、
いまを生きる私たちの心の中を、静かに歩き続けている。

そんな思いから、
「名作、いまを歩く」
というシリーズを作ることにしました。


名作を「現代の悩み」として読み直す

このシリーズでは、昔から読み継がれてきた文学作品や物語を、現代の暮らしの中に置き直していきます。

ただし、元の物語をそのままなぞるわけではありません。

大切にしたいのは、物語の筋よりも、そこにある人間の悩みです。

たとえば、才能を信じながらも本気で試すことが怖い人。
正しくありたいのに、生活の苦しさの前で揺れてしまう人。
約束を守りたいのに、どうしても間に合わない人。
帰る場所があると思っていたのに、そこがもう昔とは違っていた人。
優しさを伝えられないまま、取り返しのつかない後悔を抱える人。

時代や服装や言葉は変わっても、
人の心の奥にあるものは、意外なほど変わっていないのかもしれません。

だからこそ、名作は今も読まれ続けているのだと思います。


第1巻は『山月記』に着想を得た物語です

シリーズ第1巻では、中島敦『山月記』に着想を得ました。

タイトルは、

『何者かになれると思っていた』
山月記を現代に置いたなら

です。

『山月記』と聞くと、学校で読んだ記憶がある方も多いかもしれません。

自分には才能があると思っていた。
けれど、その才能を本気で試すことが怖かった。
認められたいのに、失敗するのが怖い。
だから挑戦しないまま、自分の中だけで誇りを守ろうとする。

この第1巻では、そうした心を、現代の会社員の物語として描いています。

かつて小説家を目指していた三十五歳の会社員。
書かなかった原稿。
匿名で誰かを批判する夜。
昔の友人との再会。

山の中で虎になるわけではありません。
けれど、誰かの成功を見たときに胸の奥で牙をむくものがある。

それを、現代の「虎」として描きました。


名作は、答えではなく問いを残してくれる

名作を読むと、すっきりした答えが手に入るとは限りません。

むしろ、胸の奥に小さな問いが残ることがあります。

自分は本当に挑戦しているだろうか。
正しさだけで人は生きていけるのだろうか。
あのとき伝えなかった言葉は、どこへ行くのだろうか。
変わってしまった場所に、もう一度帰ることはできるのだろうか。

そういう問いは、少し面倒です。
すぐには答えが出ません。

でも、その問いがあるから、物語は読み終わったあとも心に残ります。

「名作、いまを歩く」では、そうした問いを、現代の私たちの生活の中にそっと置いてみたいと思っています。


これから扱っていきたい名作

このシリーズでは、さまざまな名作を現代の物語として描いていく予定です。

『羅生門』
正しくありたい。でも、正しさだけでは生きられない。

『走れメロス』
信じてくれた人のもとへ、間に合わないかもしれない夜を走る。

『浦島太郎』
帰る場所があると思っていた。けれど、そこはもう昔のままではなかった。

『竹取物語』
どれほど大切に思っても、引き止められない人がいる。

『ごんぎつね』
優しさが届かないまま、取り返しのつかない後悔だけが残る。

『蜘蛛の糸』
差し伸べられた救いを、自分だけのものにしようとしてしまう。

有名な物語だからこそ、そこにある感情は多くの人に届くはずです。

そして、その感情を現代の言葉で描き直すことで、
「昔読んだ話」が、もう一度、自分の物語として立ち上がるかもしれません。


古い物語を、いまの言葉で

名作を現代風にすることは、名作を軽く扱うことではありません。

むしろ、昔の物語が持っていた力を、今の私たちの暮らしの中でもう一度確かめる作業だと思っています。

教科書の中で読んだ物語。
昔話として聞いた物語。
有名だけれど、実はちゃんと読んだことがない物語。

それらの中には、今の私たちにも響くものがたくさんあります。

仕事に疲れた夜。
SNSで誰かの成功を見て苦しくなる時間。
家族とうまく話せない日。
昔の夢を思い出して、少しだけ胸が痛む瞬間。

そういう日常の中で、名作はふいに顔を出します。

あの物語は、昔の誰かの話ではなかった。
今の自分にも、少し関係があった。

そう思ってもらえるシリーズにしていきたいです。


第1巻について

シリーズ第1巻、

『何者かになれると思っていた』
山月記を現代に置いたなら

では、才能、自尊心、嫉妬、臆病さ、そして再出発を描いています。

何者かになれると思っていた。
でも、本気で試すことだけが怖かった。

そんな思いに少しでも覚えがある方に、そっと届けば嬉しいです。

Kindleはこちらです。

Kindle Unlimitedをご利用の方は、追加料金なしでもお読みいただけます。


おわりに

名作は、古いままでも美しいものです。

けれど、現代の光を当ててみると、また違う表情を見せてくれます。

かつて読んだ物語を、いまの視点で。
昔からある問いを、いまの言葉で。
遠い名作を、今を生きる誰かの物語として。

「名作、いまを歩く」
少しずつ、歩かせていきます。

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