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ノンフィクション小説:キメラの城 ~ウイルスの魔術師たち~

【作品概要】

本作品は、公開されたメール、論文データ等の事実関係に基づき構成されたノンフィクション・ノベルです。 米国の公衆衛生のトップ、野心的な仲介者、そしてウイルスの権威たちが、いかにして「禁断の研究」に手を染め、国民の血税を使って怪物(新型コロナウイルス)を生み出したのか。その軌跡を描いた・・・短編小説です。

RaTG13「COVID-19」が完成し、世界に拡散するまでを描きました。

【主な登場人物】

アンソニー・ファウチ(Anthony Fauci) アメリカ国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)所長。アメリカの感染症対策のドン。表向きは国民の健康を守る聖人だが、裏では機能獲得研究(GoF)の熱心な推進者。自身の権威維持と予算獲得のためには手段を選ばない冷徹な支配者。

ピーター・ダザック(Peter Daszak) 非営利団体「エコヘルス・アライアンス」代表。ファウチの資金を武漢へ流す「仲介屋(ロンダリング係)」。科学者というよりはセールスマン。パンデミックの恐怖を煽り、巨額の助成金を引き出すことに快感を覚えている。

ラルフ・バリック(Ralph Baric) ノースカロライナ大学教授。「コロナウイルスの帝王」。ウイルスの遺伝子を自在に組み替える技術を持つマッドサイエンティスト。「自然界の進化を待つ必要はない、私が進化させる」という傲慢な思想を持つ。

石正麗(Shi Zhengli) 中国・武漢ウイルス研究所(WIV)研究員。通称「バット・ウーマン」。バリックの技術を継承し、現場でウイルス製造を実行する。功名心が強く、人民解放軍との繋がりも噂される。

ステファン・バンセル(Stéphane Bancel) フランスのビオメリュー社出身、現モデルナ社CEO。武漢のBSL-4建設に関わり、パンデミック前に特許を取得するなど、ビジネスチャンスを虎視眈々と狙う。

第1章:悪魔の契約(2014年・ワシントンD.C.)

「アンソニー、まずいことになった。オバマ政権が神経質になっている」 NIAIDの執務室。重厚なマホガニーの机を挟んで、ピーター・ダザックが眉をひそめた。

アンソニー・ファウチは眼鏡の位置を直し、手元の書類から目を離さずに答えた。 「機能獲得研究(Gain of Function)の一時停止措置のことか? そんなものはただのポーズだ。大衆は愚かだ。彼らは『パンデミックが怖い』と脅せば、喜んで財布の紐を緩める。

「ああ、だが資金の流れが止まれば、我々の『PREDICT(感染予測)』プロジェクトも干上がってしまう。未知のウイルスを特定し、それが人間に感染するように改造して、先回りしてワクチンを作る……この崇高なミッションが」

ダザックの口調には、科学的使命感というよりは、巨大なビジネスチャンスを逃すまいとする焦りが滲んでいた。ウイルスハンターとして名を馳せた彼にとって、ウイルスは研究対象である以前に「商材」だった。

ファウチは顔を上げ、冷ややかな笑みを浮かべた。 「ピーター、君は商売人としては優秀だが、政治家としては二流だな。アメリカでできないなら、外でやればいい」 「外?」 「中国だ。武漢だよ」

ファウチは机の引き出しから一枚のファイルを取り出した。 「彼らはハングリーだ。そして規制も緩い。人権? 安全基準? あそこではそんなものは些細な問題だ。私がNIAIDの予算から君のエコヘルス・アライアンスに助成金を出す。君はその金を『コウモリの研究』という名目で、武漢ウイルス研究所に流せ」

ダザックの目が輝いた。 「なるほど。資金洗浄(マネーロンダリング)ならぬ、研究洗浄(リサーチロンダリング)というわけか。アメリカの税金を使って、中国で危険な実験を行う。もし事故が起きても、アメリカの責任にはならない」

「その通りだ。それに武漢には優秀な駒がいる。石正麗だ。彼女なら、ラルフ・バリックの技術を吸収して、素晴らしい成果を上げるだろう」

ファウチは窓の外、広がるワシントンの空を見上げた。 「我々は神の御業(みわざ)を代行するのだよ、ピーター。自然界が数百年かけて行う進化を、数年で終わらせる。これこそが科学だ」

二人の男の薄汚い合意によって、パンドラの箱の鍵は開けられた。国民が汗水たらして納めた税金が、国民を殺すことになる兵器の開発費へと変わった瞬間だった。

第2章:洞窟の闇、遺伝子の闇(2012-2013年・中国雲南省)

湿った空気が肌にまとわりつく。中国雲南省、墨江(モージャン)の銅鉱山跡。 ヘッドライトの光が、無数の影を照らし出した。天井を埋め尽くすのは、おびただしい数のコウモリだ。

「先生、これだけの数がいれば、必ず見つかります」 防護服に身を包んだ助手が、興奮した声で石正麗に告げた。

「ええ。アメリカからの資金提供(グラント)を切らさないためには、もっと強力な、もっと人間に近いウイルスが必要なのよ」 石正麗は網にかかったナカキクガシラコウモリを鷲掴みにし、慣れた手つきでスワブ(綿棒)を尻に突っ込んだ。

この鉱山では、以前、清掃作業員たちが謎の肺炎で死亡していた。その原因を探るという名目で、彼女たちはここに来ていた。だが、真の目的は「原因解明」ではなく「原石の発掘」だった。

数日後、武漢の研究室。 シーケンサー(遺伝子解析装置)が弾き出したデータを見て、石正麗は息を呑んだ。 「ビンゴだわ……」

彼女が見つけたウイルス株、コードネーム**『RaTG13』**。 RaはRhinolophus affinis(ナカキクガシラコウモリ)、TGは採取場所、13は2013年。 その遺伝子配列は、既知のSARSウイルスと似て非なるものだった。

「これならいける。バリック教授の技術を使えば、これを人間に感染する『完璧なウイルス』に仕立て上げられる」

彼女はすぐにピーター・ダザックにメールを送った。 『ピーター、素晴らしいサンプルが手に入ったわ。これで次のフェーズに進める』

ダザックからの返信は早かった。 『でかした、石。ラルフ(バリック)には話を通してある。彼の持つ”魔法”を君に伝授する手はずだ。これからの研究は、公式には”自然界のウイルス調査”だ。だが実質は……わかっているね?』

石正麗は薄暗い研究室で、モニターに映るRaTG13の文字列を指でなぞった。 「機能獲得(Gain of Function)……神の領域へ」 彼女の野心が、中国の片田舎の洞窟から世界を破滅させる歯車を回し始めた。

第3章:フランケンシュタインの実験室(2015年・ノースカロライナ大学 / 武漢)

ラルフ・バリック教授の研究室は、ウイルス学者たちにとっての聖地であり、同時に禁断の魔境でもあった。 彼は「逆遺伝学(リバース・ジェネティクス)」の天才だった。ウイルスの遺伝子をバラバラにし、ブロックのように組み替えて、全く新しいキメラ(合成生物)を作り出す。

「いいかね、石(シー)。ウイルスというのは鍵と鍵穴の関係だ」 バリックはホワイトボードに図を描きながら、訪米していた石正麗に講義を行っていた。 「コウモリのウイルスは、そのままでは人間の細胞(鍵穴)には入らない。スパイクタンパク質(鍵)の形が違うからだ」

「ええ、存じています。だからこそ、先生の作った『MA-15』が必要なのです」 石正麗は貪欲な目つきで言った。 MA-15。それはバリックがSARSウイルスを改造し、マウスを確実に死に至らしめるように強化した、致死性の高いマウス用ウイルスだった。

「そうだ。このMA-15という強力な『ボディ(骨格)』に、君が持っているSHC014やWIV1、あるいはRaTG13由来の『スパイク(鍵)』を移植する。そうすればどうなると思う?」

バリックは悪戯っぽい笑みを浮かべた。 「人間を襲う能力を持った、殺傷力の高いハイブリッド・ウイルスの完成だ」

それはまさに、メアリー・シェリーが描いたフランケンシュタインの怪物そのものだった。 アメリカの税金がダザックを経由して支払われ、アメリカの最高峰の技術が中国の研究者に供与される。

数ヶ月後、二人は共著で論文を発表した。 『SARS様コウモリコロナウイルスは、ヒトへの感染能力を持つポテンシャルがある』

一見、警告のように見えるこの論文は、実際には「我々は自然界のウイルスを改造して、ヒトに感染させることに成功した」という勝利宣言だった。 論文の謝辞(Acknowledgment)には、はっきりと記されていた。 「本研究は、NIAID(ファウチの研究所)およびエコヘルス・アライアンス(ダザックの団体)からの資金援助を受けて行われた」

「素晴らしい成果だ」 ワシントンのオフィスで、ファウチはその論文を満足げに眺めた。 「これで『パンデミックの危険性』を議会に説得できる。予算はさらに増えるだろう」

しかし、彼らはまだ満足していなかった。 自然界のウイルスにはない、ある「決定的な機能」を付け加える計画が進行していたのだ。 それが、フーリン切断部位。ウイルスが細胞に侵入する効率を劇的に高める、悪魔の合鍵。

「ラルフ、ピーター。次のステップだ」 武漢に戻った石正麗は、手に入れたRaTG13の遺伝子配列を前に、次なる実験の準備を進めていた。 彼女の背後には、フランスの協力で建設中だった新しい巨大な塔――**BSL-4(武漢国家生物安全実験室)**の影が迫っていた。

その建設に関わった企業のトップ、ステファン・バンセル(後のモデルナCEO)は、この動きを静かに見つめ、2019年に向けてある特許の出願を急がせていた。 「急げ。じきに『それ』は必要になる」

悪役たちの歯車は、2019年の破局に向けて、音もなく、しかし確実に噛み合い始めていた。

第4章:バベルの塔の完成(2017-2018年・武漢)

長江のほとりにそびえ立つコンクリートの要塞。武漢国家生物安全実験室、通称「P4ラボ」。 2017年の開所式には、フランス政府の高官たちが晴れやかな顔で出席していた。かつてシラク大統領が協力を約束し、フランスの技術の粋を集めて作られた、アジア初の最高レベルのバイオセーフティ施設だ。

だが、式典の裏で、建設に関わったフランスの技術者たちは不安を口にしていた。 「中国側は我々を徐々に排除している。施設の管理体制が不透明だ。あれだけの設備を、彼らが正しく運用できるのか?」

その不安をよそに、石正麗はこの城の女王として君臨した。 2018年、施設が正式稼働すると、彼女の研究はさらに加速した。

「所長、ダザック博士からの新しいリクエストです」 助手が差し出したレポートには、ぞっとするような実験結果が記されていた。 ダザックが資金提供した新たなキメラウイルスの実験結果だ。

『ヒト細胞を持つマウスに感染させ、致死率を測定する』

石正麗は、ケージの中のマウスを見つめた。人間の肺と同じ受容体を持つように遺伝子操作されたマウスたちだ。 彼女が新たに作り出したキメラウイルスを吸入したマウスたちは、苦しげに呼吸し、次々と動かなくなっていく。脳までウイルスに侵され、眼球が白く濁っていた。

「成功ね……。致死率75%以上」 石正麗は冷徹に記録した。 これは自然界には存在しない殺人ウイルスだ。もしこれが外に出れば、人間社会はどうなるか? しかし、彼女の心にあったのは恐怖ではなく、科学者としての歪んだ達成感と、スポンサーであるアメリカへの報告義務だけだった。

「これでまた、次の予算が下りるわ」

彼女は知らなかった。あるいは知っていて無視していたのかもしれない。 最高レベルのBSL-4施設が完成しても、日々の実験の多くが、安全基準の低いBSL-2やBSL-3で行われているという、現場の杜撰な実態を。 悪魔は、最新鋭の要塞の中ではなく、もっと身近な、手洗いをサボるような小さな隙間に潜んでいた。

第5章:予言する商人(2019年3月・アメリカ)

「SARSコロナウイルスの再出現、あるいは意図的な放出が懸念される」

2019年3月28日。 世界がまだ「COVID-19」という言葉さえ知らなかった頃、一人の男が奇妙な特許出願書類にサインをした。 ステファン・バンセル。バイオテクノロジー企業「モデルナ」のCEOだ。

彼はかつてフランスのビオメリュー社にいた頃、武漢のP4ラボ建設に関わっていた。武漢で何が行われているか、誰よりも敏感な立場にいた男だ。

「ステファン、まだウイルスも流行していないのに、なぜこんなに急ぐんだ?」 部下が怪訝そうに尋ねた。

バンセルは洗練されたスーツの襟を正し、低い声で答えた。 「市場(マーケット)は待ってくれないんだよ。いいか、mRNAワクチンという技術は素晴らしいが、今まで一度も認可されたことがない。だが、もし『緊急事態』が起きればどうだ?」

「緊急事態?」

「そうだ。世界中がパニックになり、既存の審査基準がすべて吹き飛ぶような事態だ。その時、我々が唯一の解決策を持っていれば、モデルナは世界一の企業になる」

彼が出願した特許には、偶然とは思えない記述があった。 『意図的な放出(accidental or intentional release)』。 自然発生ではなく、何者かが放出することを前提としたような言葉選び。

「武漢からの論文数が異常に増えている。彼らはもう、リーチをかけているんだ」 バンセルは確信していた。 石正麗やバリックたちが作り上げようとしている「傑作」が、間もなく完成することを。そしてそれが、彼のビジネスにとって最高の起爆剤になることを。

彼は未来を予言したのではない。 作られている未来を知っていたのだ。

第6章:禁断の鍵「フーリン切断部位」(2019年秋・武漢)

2019年後半。武漢ウイルス研究所の空気は張り詰めていた。 石正麗の手元には、数年前に採取した『RaTG13』があった。ヒトへの感染力はあるが、パンデミックを起こすには決定的な何かが足りない。

「バリック教授の理論通りなら、ここに『切れ込み』を入れればいいはず……」

彼女が注目したのは、ウイルスのスパイクタンパク質にある特定の領域だった。 そこに、**フーリン切断部位(Furin Cleavage Site)**と呼ばれるアミノ酸配列(PRRA)を人工的に挿入する。 この配列は、SARS系のコロナウイルスには自然界では存在しない。しかし、エイズウイルス(HIV)や猛毒のウイルスには見られる特徴だ。

これがあることで、ウイルスは細胞膜を溶かす酵素「フーリン」を利用し、驚くべき効率で人間の細胞内に侵入できるようになる。まさに、どんな扉も開けるマスターキーだ。

「やってみる価値はあるわ」

遺伝子編集技術を使えば、文字を打ち込むようにウイルスの設計図を書き換えられる。 彼女はRaTG13の遺伝子配列に、自然界ではあり得ない4つのアミノ酸を挿入した。

培養皿の中の細胞が、劇的な反応を示した。 改変されたウイルスは、かつてないスピードで細胞に感染し、増殖を始めたのだ。

「完成した……」 彼女は震える手で顕微鏡を覗き込んだ。 それはもはや、コウモリのウイルスではなかった。 コウモリ由来の骨格に、人工的な武器を搭載した、対人用生物兵器。

後に**「SARS-CoV-2」**と名付けられる怪物が、産声を上げた瞬間だった。

だが、この時、彼女は気づいていただろうか? 実験室の排気ダクトのフィルターが劣化していたことを。 あるいは、実験動物の死骸処理業者が、小遣い稼ぎのために動物を市場に横流ししていたかもしれない可能性を。 あるいは、研究員の誰かが、無症状のまま感染し、週末の賑わう武漢の街へ繰り出そうとしていることを。

パンドラの箱は、静かに、しかし確実に開いていた。 アメリカの税金で作られ、フランスの技術で建てられた城で、中国の手によって生まれたキメラが、世界を飲み込もうとしていた。

第7章:天空の監視者(2019年8月・バージニア州)

アメリカ、バージニア州。国家偵察局(NRO)の解析室。 無数のモニターが並ぶ薄暗い部屋で、一人の分析官が眉をひそめていた。彼が見ているのは、中国・武漢の上空から撮影された最新の衛星画像だ。

「おい、これを見ろ。武漢の病院が異常だ」

同僚がモニターを覗き込む。 「駐車場か?」 「ああ。特に武漢ウイルス研究所周辺の病院だ。8月に入ってから、車の数が急激に増えている。昨年の同時期と比べると倍以上だ」

彼らは画像を切り替え、過去数週間のデータを時系列で再生した。 7月までは閑散としていた病院の駐車場が、8月に入るとまるで洪水のように車で埋め尽くされていく様子が映し出された。

「インフルエンザの季節にしては早すぎる。それに、Baidu(中国の検索エンジン)の検索トレンドもおかしい。『下痢』や『咳』というキーワードの検索が、このエリアだけで爆発的に増えている」

「研究所で何かが起きたのか?」 分析官は、武漢ウイルス研究所(WIV)の画像を拡大した。 そこには、普段は見られない検問所のようなバリケードや、防護服を着た作業員と思われる人影が映り込んでいた。あわただしい人の動き。そして、ある区画だけ、携帯電話の位置情報データが突然途絶えている。

「バイオハザードか……」 同僚が呟いた。 「報告書を上げるか?」 「ああ。だが、上(ホワイトハウスやNIH)がどう動くかはわからん。ファウチの連中がこの研究所に資金を出しているのは公然の秘密だからな」

彼らの報告書は「極秘(Top Secret)」のスタンプを押され、ワシントンの奥深くへと吸い込まれていった。 地上の人々が知る由もない遥か上空から、衛星だけが静かに、パンドラの箱が開いた瞬間を目撃していたのだ。

第8章:見えざる聖火(2019年10月・武漢)

武漢市内に突如として現れた巨大なスタジアムと選手村。 「第7回世界軍人運動会(ミリタリーワールドゲームズ)」。平和の祭典という名目で、世界109カ国から約1万人の屈強な軍人アスリートたちがこの地に集結していた。

アメリカ、フランス、イタリア……各国の精鋭たちが競い合うその裏で、選手村の診療所は異様な事態に見舞われていた。

「おい、また熱発か?」 アメリカ軍チームの医師は、次々と運び込まれてくる選手たちを見て首を傾げた。 「症状はインフルエンザに似ているが、高熱と咳が異常に長く続く。それに、味覚がおかしいと訴える者もいる……」

当時はまだPCR検査キットなど存在しない。「悪い風邪」か、あるいはマラリアか。医師たちは解熱剤を処方することしかできなかった。 しかし、選手たちの体内で暴れ回っていたのは、数キロ先の研究所で石正麗が生み出し、すでに8月から市中へ漏れ出していた、あの「キメラ」だった。

「中国側は妙に落ち着いているな。選手村の消毒も、異常なほど徹底している」 フランスの選手団長は、防護服のような装備で清掃を行う中国人スタッフを見て違和感を覚えた。 彼らは知っていたのだろうか? すでにこの街の空気が汚染されていることを。

閉会式を終え、選手たちはそれぞれの母国へと帰還していった。 彼らが持ち帰ったのはメダルだけではない。肺の奥深くに潜んだ、見えない時限爆弾だ。

フランスへ、イタリアへ、そしてアメリカへ。 最強の体力を持つ軍人たちは、自らが「スーパースプレッダー」となり、ウイルスを世界各地の軍事基地やコミュニティへと運び込んだ。 後にヨーロッパやアメリカで爆発的な感染が確認された時期を逆算すると、この大会が起点であったことは明白だった。

武漢の市場で騒ぎになる数ヶ月前、ウイルスはすでに「聖火」のように世界中へリレーされていたのだ。 石正麗が実験室で震えることになるのは、このすぐ後のことである。

第9章:静かなる漏洩(2019年12月・武漢)

武漢市内の華南海鮮市場。師走の喧騒に包まれた市場には、生臭い匂いと人々の熱気が立ち込めていた。 しかし、その熱気の中に、目に見えない「何か」が混じり始めていた。

武漢ウイルス研究所から数キロ離れた病院で、一人の研究員がひっそりと息を引き取っていたことは、まだ誰も知らない。公式には「ただの肺炎」として処理されたが、彼の肺は真っ白に石灰化していた。

12月30日深夜、石正麗の電話が鳴った。 「海鮮市場で原因不明の肺炎患者が多発しています。サンプルの解析を頼みたい」 電話の相手は地元の疾病予防管理センター(CDC)だった。

研究所に駆けつけた石正麗は、送られてきた患者の検体をシーケンサーにかけた。 モニターに塩基配列が表示されるまでの数時間、彼女は祈るような気持ちだった。 「どうか、私のウイルスではありませんように……」

しかし、結果は残酷だった。 モニターに映し出された配列は、彼女が数ヶ月前に作り出したあのキメラウイルス、RaTG13改変体と96%以上一致していた。 特に、彼女が手作業で挿入したあの「フーリン切断部位」が、嘲笑うかのようにそこに存在していた。

「漏れた……」 彼女は椅子に崩れ落ちた。 バイオセーフティレベルの低い実験室での操作、ずさんな廃棄物処理、研究員の感染。 心当たりはいくらでもあった。

彼女はその夜、一睡もできなかった。 恐怖心からではない。 「どうやってこれを隠し通すか」という計算で、頭がフル回転していたからだ。

彼女はまず、研究所のデータベースにアクセスした。 これまで集めたコウモリウイルスのデータ、実験記録、そしてRaTG13に関する詳細なログ。 エンターキーを押すたびに、歴史の真実がデジタル空間から消去されていった。

第10章:沈黙の共謀(2020年1月・ワシントンD.C.)

年が明け、ウイルスの猛威は海を越え始めていた。 ワシントンD.C.のNIAID本部でも、アンソニー・ファウチの元に不穏な報告が届いていた。

「所長、ウイルスの遺伝子配列が公開されました。これを見てください」 部下が差し出したデータを見た瞬間、ファウチの顔色が変わった。 専門家でなくともわかる不自然な挿入配列。自然界での進化では説明がつかない特徴。

「これは……人工的(Engineered)に見える」 彼自身のメールボックスに、スクリプス研究所のウイルス学者からのメールが届いていた。 『このウイルスの特徴の一部は、人工的に作られた可能性が高い』

ファウチは即座に受話器を取った。相手はイギリスにいるピーター・ダザックだ。 「ピーター、武漢で何が起きた? 君たちがやった実験が表に出たのか?」

電話の向こうで、ダザックの声も震えていた。 「アンソニー、落ち着いてくれ。もしこれが実験室由来だとバレたら、私も君も終わりだ。エコヘルス・アライアンスへの助成金も、NIHの予算も、すべて吹き飛ぶぞ」

「わかっている。だからこそ、今すぐ『物語(ナラティブ)』を作らねばならん」

2020年2月1日、緊急の電話会議が開かれた。 ファウチ、ダザック、そして世界的なウイルス学者たちが回線に繋がれた。 最初は「人工説」を疑っていた科学者たちも、ファウチの威圧的な説得と、今後の研究費への無言の圧力の前に沈黙した。

結論は決まった。 「このウイルスは自然由来である。コウモリからセンザンコウ、そしてヒトへ。実験室由来説は陰謀論である」

ダザックはすぐに行動に移した。権威ある医学誌『ランセット』に掲載するための声明文を起草したのだ。 『我々は、COVID-19が自然由来ではないとする陰謀論を強く非難する』 彼は世界中の科学者に署名を求めた。その裏で、自分が武漢の研究に資金を提供していたという利益相反(COI)は隠蔽したまま。

「これでいい。真実は闇の中だ」 ファウチは執務室で深呼吸をした。 彼は国民に向かって、聖人のような顔で語りかけた。 「マスクは必要ありません(当初の発言)。これは自然界の脅威です」

彼らはウイルスの封じ込めよりも、真実の封じ込めに全力を注いだのだ。

第11章:恐怖という名の通貨(2020年春・世界)

世界は閉ざされた。 ロックダウン、無人の街、マスク姿の人々。恐怖が地球を覆い尽くした。

しかし、その恐怖の中で、笑いが止まらない男がいた。 ステファン・バンセル。モデルナのCEOだ。

「見たまえ、この株価を!」 彼の会社の株価は、パンデミック宣言と共に垂直に上昇していた。 彼らが用意していたmRNAワクチン技術。 通常のワクチン開発には数年かかるが、彼らはウイルスの遺伝子情報が公開されてから、わずか数日でワクチンの設計を完了していた。まるで、最初から答えを知っていたかのように。

「アンソニー(ファウチ)のおかげで、審査はファスト・トラック(優先審査)だ。治験? 動物実験? そんなものは走りながらやればいい。世界中が『救世主』を求めているんだ」

一方、PCR検査キットも飛ぶように売れていた。 ドイツの研究チームが発表したPCR検査法は、またたく間に世界標準となった。 しかし、その検査は、感染していない死んだウイルスの破片や、ただの風邪ウイルスにさえ反応してしまうほど感度が高すぎた。

「陽性者=感染者」という誤った図式が作られ、メディアが毎日のように「今日の感染者数」を報じる。 数字が膨れ上がれば上がるほど、恐怖は増幅し、人々は救いを求めてワクチンに群がる。

それは、完璧なビジネスモデルだった。 恐怖という名の通貨で、彼らは莫大な富と権力を手に入れた。

武漢の石正麗は、英雄として扱われる一方で、当局の厳重な監視下に置かれた。彼女が口を開けば、中国共産党もアメリカのNIHも共倒れになるからだ。 「沈黙こそが金」 彼女はそう自分に言い聞かせ、今日もまた、さらに強力なキメラウイルスの研究を続けている。

そして、ラルフ・バリックは次の論文を書いていた。 『次なるパンデミックに備えて』

彼らの欲望は、まだ満たされていない。 倉庫には、さらに致死率の高いウイルスが、出番を待って眠っているのだから。

疲れるお話に今夜もお付き合いくださりありがとうございました♡♪

※小説の中では、ウイルスが漏れた・・・ということにしてありますが、しかし、私の中ではウイルスは意図的に撒かれたのだと確信しています。ファウチらは当然、バラ撒くつもりで動いていたんです。でも、それを書こうとするとお話が長くなってしまうため、ここでは止めておきました。だって、ファウチやゲイツを操っている人たちのお話までしなければならないんですからね。マジで人口削減をしようとしている変態たちのことまで・・・(>o<)

そういうわけで、施設から漏れた・・・漏れない・・・はともかく、ウイルスがキメラだったってことを何も知らない人たちに知って貰うのが先決だと思いました。私は小説家ではないのでわりと気楽に書けるのが強みです。

ナカキクガシラコウモリが新型コロナのベースとなってました。グリーン~イエロー~レッドへ


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