掌編 「もうサンタさん」 #風まかせ文芸部 #サンタさん
夕暮れの商店街は、シャッターの降りた店が並び、かすかに焼き芋の香りが漂っていた。人通りはまばらで、風が紙くずを巻き上げながら通り過ぎていく。
その一角、小さな公園のブランコに、一人の少年が座っていた。まだ小学校低学年くらいだろうか。赤いニット帽を目深にかぶり、手袋越しに鎖を握って、ゆっくりと前後に揺れている。
ブランコの軋む音が、静まり返った空気にかすかに響く。彼の足元には、誰かが落としていった飴の包み紙がひらひらと舞い、やがてベンチの下に吸い込まれていった。
少年の目は、遠くの空を見つめていた。冬の空はもう群青に染まり、街灯がぽつぽつと灯り始めている。けれど、その光は彼の心には届かないようだった。
彼の胸の奥には、言葉にならない何かがあった。友達と喧嘩したのかもしれない。あるいは、ただ世界が少しだけ冷たく感じられたのかもしれない。
風が吹くたびに、ブランコの鎖が冷たく鳴った。少年はそれに合わせて、ほんの少しだけ足を動かす。まるで、誰かと会話をしているかのように。
その姿は、まるで時間から取り残されたようだった。
サンタクロースはにっこりと笑い、その少年に問いかけた。
「誰かを待っているのかな?」
「ううん、違うよ。誰も待ってない。ボクを待っている人はどこにもいない。だから、ボクは誰も待ってないんだ。」冷めた口調で言う。
「ねぇ、サンタさん、どうしたらサンタさんみたいになれるかなぁ?誰からも待ち焦がれられるような存在に。」
「ホッホッホー、実に簡単だよ。」サンタは髭を撫でながら声高に笑う。
「さあ、君に問題だよ。 3+3=サンタさん、だとしたら…」
少年は首をかしげたが、すぐに目を輝かせた。
「(3+3)+(3+3)+(3+3)=は?」
「タクサンサンタさん!」少年は元気よく答えた。
「正解!」サンタは嬉しそうに拍手をした。
「じゃあ、これはどうかな?
(3+3)+(3+3)+(3+3)+(3+3)+(3+3)+(3+3)+(3+3)+(3+3)+(3+3)+(3+3)+(3+3)+(3+3)…=は?」
少年は少し考えてから、にやりと笑って言った。
「モウタクサンタさん!」
「おお、正解!ではでは〜、最後の問題。
(3+3)−1=は?」
少年は一瞬だけ真顔になり、そしていたずらっぽく答えた。
「1本取られたサンタさん!」
サンタは「ホッホッホー!」と大笑いしながら、赤い帽子を脱ぎ、そっと少年の頭にかぶせた。
「ホッホッホー、君、合格だよ。今日からもうサンタさんだ。」
少年も「ホッホッホー」と笑い返す。
その笑い声は、雪の降る空にふわりと溶けていった。
こうして、“3+3=サンタさん”の魔法の計算式は、 笑顔とユーモアと共に、またひとりの心に受け継がれた。
今日もどこかで、誰かがこの不思議な式を口にしているかもしれない。
ホッホッホー…
あとがき
iさんの企画『風まかせ文芸部』お題「サンタさん」に参加させて頂きました。ダジャレベースです。
