ショートショート 「お宝くれない?」 #3つのお題に空想のひらめきを【第26回】
片桐みかんさんの企画『3つのお題に空想のひらめきを』第26回に参加させて頂きます。
3つのお題
お題①:「星屑のティアラ」
お題②:「紅(くれない)の羽を持つ時鳥(ほととぎす)」
お題③:「こぼれ月の魔法瓶」
『お宝くれない?』
静まりかえった国立近代美術館の展示室。
天井のスポットライトが、空っぽのガラスケースを虚しく照らしている。
その沈黙を破ったのは、警備員の叫びだった。
「やられた〜!」
展示の目玉、幻の宝飾品『星屑のティアラ』が忽然と姿を消していた。
警報が鳴り響き、数分後には刑事と鑑識がゾロゾロと現場に押し寄せる。
足音だけが、静寂を乱す。
「また…あいつだなぁ…」佐々木鑑識官は、展示ケースの前にしゃがみこみ、床に落ちた一枚のカードを拾い上げた。
そこには、紅(くれない)の羽を持つ時鳥(ほととぎす)の絵と、赤い口紅で書かれたメッセージ。
『お宝紅💋』
「ふざけやがって!“お宝くれない”って…ダジャレかよ!」 青木刑事がカードを睨みつける。
展示室には足跡ひとつ残されていない。
天井は高く、窓もない。
防犯カメラは一瞬のノイズを最後に沈黙していた。
「ドローンか?それとも…空を飛ぶ魔法使いじゃないと無理な犯行だな…」
佐々木は呟きながら、ポケットから小さな小瓶を取り出した。
琥珀色のガラスに、子どもの描いたような月とうさぎの絵。
蓋を開けると、ふわりと香りが漂う。
「じゃあ、こっちも魔法使いますか…」
「なにやってんですか?」
青木が訝しげに覗き込んだその瞬間だった。
佐々木は人差し指を天に向け、ゆっくりと、まるで時が止まったかのように振り下ろす。
その指先は、青木の額をピタリと指した。
「犯人は青木。お前だ」
「えっ…なんで、なんで俺が犯人になるんっすか!?」
青木の顔がみるみる青ざめていく。
「ニオイだ。俺は鑑識だ。物証以外は信じない。お前のニオイと、このカードのニオイが一致した…」
「なに犬みたいなこと言ってんすか?さっき触った時に移ったかもしれないじゃないですか!」
佐々木は目を閉じ、静かに言った。
「お前、セキセイインコ飼ってんだろ?」
「え!? なんでそれを…」
青木の顔は青から白へ、まるでグラデーションのように変わっていく。
「ニオイはさぁ、言葉のように嘘はつかないんだよ。 太陽の匂い、メープルクッキーのような甘い香り、コーンのような香ばしさもある。 間違いなくセキセイインコのニオイだ」
「さっきの怪しい小瓶は…な、何んすか?そもそも怪しすぎますよ!」
「あれ?孫からの還暦祝いのプレゼントだよ。 ただの小瓶に孫が絵を描いてくれたんだ。俺は勝手に『こぼれ月の魔法瓶』って呼んでる。 中身はコーヒー豆。これで臭気のリセットができるんだよ」
その笑顔は、孫を溺愛するおじいちゃんそのものだった。
青木はその場に膝をつき、
そして、ピクリとも動かなくなった。
「……それ、ハシビロコウやん」
誰かがぽつりと呟いた。
展示室に再び静寂が訪れる。コーヒーとセキセイインコの香りを微かに漂わせて…。
完
(本文1155字)
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