掌編 「天空のリング」 #【第30回】3つのお題にひらめきを
アントニオ猪木は、雲の上の待合室で試合を待っていた。そこは、試合の前に戦士たちが集う場所。その空間には、三つの椅子と、ひとつの扉があった。
椅子に腰かけているのは三人の男。
ひとりは、赤いタオルを首にかけた男、闘魂・アントニオ猪木。
もうひとりは、プロレスのレフリーユニフォームに身を包んだ男、伝説のボクサー・モハメド・アリ。
そして最後のひとりは、軍服を着た巨漢、元ウガンダ大統領イディ・アミン。
「よう、アミン。あの時は結局、試合は実現しなかったな」猪木がふっと笑った。
アミンはふてぶてしく鼻を鳴らし、椅子の背にもたれた。
「お前が怖気づいたんだろう。俺の右フックを見て、腰が抜けたか?」
「いや、あの時は政治がリングに上がりすぎた。お前の国の情勢が、試合よりも危なかったんだ」
アリが口を挟んだ。その声には、かつての軽やかなリズムが残っていた。
「お前ら、まだそんなこと言ってるのか。俺はレフェリーとして準備万端だったんだぞ。防弾チョッキまで用意してたんだからな」
三人は顔を見合わせ、声を上げて笑った。
その笑い声は、雲を揺らし、空に溶けていった。
あの幻の一戦は、約束の消えない手紙として今、天空のリングで開かれようとしている。
猪木が立ち上がる。
その動きは、若き日のようにしなやかで、どこか神々しかった。
「さて、そろそろ行くか。リングが呼んでる」
アリがにやりと笑い、アミンが肩をすくめる。
その仕草は、まるで昔からの仲間のようだった。
「その前に、これを返しておくよ」
アリがポケットから取り出したのは、かつて猪木が彼に贈った指輪だった。
銀色に輝くその指輪には、小さく「闘魂」と刻まれている。友情の証として渡された、あの「猪木の指輪」だ。
「”闘魂”はやっぱお前が一番似合う。試合には、これをつけていけ」
猪木は指輪を受け取り、ゆっくりと指にはめた。
ぴたりと嵌ったその瞬間、空気がわずかに震えた。
「ありがとう、チャンプ。じゃあ、行こう」
扉が音もなく開いた。まばゆい光が差し込み、三人の影が長く伸びる。その先には、雲を割って現れた天空のリング。ロープは金色に輝き、観客席にはかつての戦士たちがずらりと並んでいた。
割れんばかりの歓声が天を裂いた。
永遠に語り継がれるであろう約束の戦いが、今、始まる。
完
(本文935字)
あとがき
片桐みかんさんの企画『【第30回】3つのお題にひらめきを』お題①:「雲の上の待合室」お題②:「消えない手紙」お題③:「木の指輪」に参加させて頂きました。知る人ぞ知る幻の一戦が天空のリングで開かれるという話。年齢層高めじゃないと分からないって?私もそうでした。今回のキラーワードは「木の指輪」。それを無理矢理、猪木の指輪に変換。そこからアントキオ猪木で色々調べたら幻の一戦が出てきたんで、物語のベースとして使わせて頂きました。ウルフアロンさんの活躍もあってプロレスブーム来るかもしれませんね。
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