ショートストーリー 「カヴェルノ」 #3つのお題に空想のひらめきを
片桐みかんさんの『第18回 3つのお題に空想のひらめきを』に参加させて頂きます。お題は下記の通り。
お題①:「風船の行方」
お題②:「月の鏡」
お題③:「約束の駅」
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僕は、約束の駅――上有住駅(かみありすえき)に降り立った。
今は亡き親友ケンジとの、果たされぬままになっていた約束を胸に抱いて。
ケンジは筋金入りの鉄道ファンで、宮沢賢治をこよなく愛していた。
彼が病に倒れる前、二人で「絶対に行こう」と誓った場所。 それがこの駅だった。
夢は潰えたが、僕はひとりでこの地に来た。
乗ってきた電車は、銀色の車体に、銀河と星を思わせるブルーとイエローのラインが走る。
岩手の第三セクターと聞いていたから、もっとくたびれた車両を想像していた。
だがその姿は、まるで銀河を走る列車のように美しかった。
ホームに降り立つと、思わず息を呑む。
さすが秘境駅。周囲には何もない。
風の音だけが、遠くの山肌を撫でていた。
時刻表を確認すると、次の電車まで四時間以上。
乗り遅れたらどうなるのかと、背筋が冷える。
だが、本当の目的地はすぐそこにある。
『滝観洞』――徒歩二分、ち、近い。
石灰岩でできた鍾乳洞で、最奥部には落差29メートルを誇る国内最大級の洞窟内滝『天の岩戸の滝』があるという。
僕は、ボコボコとした湿った岩道を踏みしめながら進む。
ひんやりとした空気が肌を撫でる。
だんだんと、滝の音が耳に届き始める。
水の轟きが、心の奥にまで響いてくる。
狭い道がふいに開けた。
目の前に広がるのは、蒼く照らされた高さ60メートル、周囲50メートルのドーム状の空間。
その中心、大理石の裂け目から流れ落ちる滝は、まるで銀河の奔流。
水は光をまとい、滝壺には月の鏡のようなやさしい輝きが揺れていた。
水泡は、どこへ向かうとも知れぬ風船のように、ふわりふわりと舞っている。
僕は、轟音と飛沫に身を委ね、そっと目を閉じた。
浮かんできたのは、ある日のケンジだった。
「ありがとう」
彼は、静かにそう言った。
ケンジが亡くなってから、僕を支配していたのは後悔だった。
それが、暗い暗い岩戸の奥に、感謝の気持ちまでも押し隠してしまっていたようだ。
「こちらこそ、ありがとう」
僕は、心の中でそう返した。
カベェルノ――この洞窟は、僕たちをやさしく包み込んでくれていた。
銀河鉄道の夜の終着駅のように。
完
(本文919字)
あとがき
今回は真面目に書きました。行ったこともない実際にある場所を描くのは初めてでドキドキしました。素敵なお題ありがとうございました。また参加させて下さい。
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