ショートショート 「読まない人」 #風まかせ文芸部 #書斎
悩んでいた。
書斎を作るかどうか。
どーしても欲しい。
だって、書斎って“大人の秘密基地”じゃないか。
今の住まいは築25年、4LDKに小さな庭。
家族の部屋はあるが、自分の部屋はない。
いや夢も、居場所も、ない。
そうだ。庭に書斎小屋を作ろう。
善は急げ。
軍手をはめ、雑草を抜き始める。
名前も知らぬ草たちが、根を張っていた。
それでも、私は整地する。
ここが、未来の司令室になるのだ。
背後に気配。
振り返ると、妻が立っていた。
「…あんた何してるの?」
眉間にシワ。声は玄関タイルのように冷たい。
「書斎、作ろうかと思って…」
冷蔵庫のコンプレッサーのような振動からの、ガスボンベ的な高圧な溜め息。
「うちのどこにそんなお金があんのよ!」
「それに、あんた本読まないでしょ?」
た、確かに…。
私は抜いた雑草を、丁寧に埋め直した。
まるで、夢の墓標のように。
その夜、私はネット注文をした。
『妻の取り扱い説明書』という本を。
まずは、ここから…。
完
(本文450字)
あとがき
風まかせ文芸部さんの企画に参加させて頂きました。いつもお題ありがとうございます。好きな作家さんと気になる本を読む程度の私も『書斎』ってなんか憧れます。でも結局現実には難しかったりします。なので夢と現実と寓話、希望と皮肉を私なりにまぜまぜしてみました。次のお題も楽しみにしています。
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