ショートショート 「好き化粧」 #毎週ショートショートnote #好き化粧
選挙事務所の奥、夜更けの会議室。壁一面に貼られた小選挙区の当選者ボードに赤いバラのシールが、まるで血管のように日本列島を覆っている。
総理はその前に立ち、薄く笑った。静まり返った室内に、ヒールが床をこする音だけが響く。
「この時期の選挙には批判が多かったものの、結局は大勝…フフフ。見てよ、幹事長。この一面の当選バラを。私のことスキスキスキスキ好き化粧を…フフフ」
幹事長は背後で腕を組み、ゆっくりと頷いた。
「総理、圧巻ですね」
総理は机の上に置かれた小さなコンパクトを手に取る。金色のケースに刻まれた商品名は《好き化粧》。“誰にでも好意を持ってもらえる”という、半ば冗談のようなキャッチフレーズが添えられている。
「それもこれも、このファンデ《好き化粧》のお陰ね」総理は鏡に映る自分の顔を指先で軽くなぞる。
「結局、国民は見た目重視なのよ。政策は二の次。消費税減税なんてやったって、他で搾取されるのにね、ヒヒヒ…」
幹事長はボードを見上げ、口角をわずかに上げた。
「絶対的安定多数…これで“アレ”もいけますね」
窓の外では、深夜の街灯が残雪を照らし、ぼんやりと滲んでいた。
化粧の下に隠された本心や真実は、まだ誰にも見えない。
それがあらわになる日は…この雪溶けのように、そう遠くない。
完
(本文533字)
あとがき
田原にかさんの企画『毎週ショートショートnote
』お題「好き化粧」に参加させて頂きました。政治的意図はありません。特定の人をアレコレいうものでもありません。ただのエンタメ、フィクションです。いや、本当。
