ショートショート 「神絶ち」 #3つのお題に空想のひらめきを【第33回】
チリリリリリリィ…チリリリリリリィ…
黒電話が、急かすように音を響かせていた。私はただ、じっとそれを見つめていた。受話器を取る気はない。どうせ神さまだろう。
いいざまだ。
足元には、粉々に砕けた”どこでも鏡”。私はその破片を、なおも踏みつけていた。床に散った鏡の破片が、天界の夕焼けの光を受けて、まるで星屑のようにきらめいている。
神さまは万能ではない。
結局、人類を不完全なまま創造してしまったのだから。
そして、私は七回目の人類として、神さまのすぐ側で仕えていた。故に神の背中を見て、その背中がどれほど頼りなく、どれほど無能なのかを…私は知っている。
今日、神さまは”どこでも鏡”を使って、ご自分が「失敗作の楽園」と呼ぶ地へと旅立たれた。
あの歪んだ時間の流れる異空間へ。
神さまは万能ではない。
この鏡がなければ、こちら側にも戻れない。
神とは、実に笑える存在だ。
だから私は、神が消えた直後、鏡を床に叩きつけた。そして、踏みつけた。何度も、何度も。
「ピー…、おい、ナナコ!どうなってる、そっちに戻れないぞ…何かあったのか?」
黒電話が神さまの留守電を自動再生した。
その声は、いつもより少しだけ焦っている。
「ハハハッ」私は堪えきれず、笑いが漏れた。
鏡の破片が、私の足の裏に刺さる。けれど痛みはなかった。
「さようなら…神さま」私はぽつりと呟いた。
「本当に万能なら、自力で帰って来て下さい…」
私は振り返らず、神の家を出た。
扉の向こうには、風の匂いがした。
それは、神の下僕としては決して感じることのなかった、自由の匂いだった。
完
(本文650字)
あとがき
片平みかんさんの企画『3つのお題に空想のひらめきを【第33回】』お題は…
お題①:「神さまの留守電」
お題②:「七回目の人類」
お題③:「失敗作の楽園」
でした。お題④の画像のイメージも入れて書いてみました。画像は片桐みかんさんの記事を確認してみて下さい。今回も難題でしたが、ヘンテコ話に組み上げてみました。また、よろしくお願いします。
