ショートショート 「ライフワーク」 #せりふ三題噺
浜辺の波打ち際をゆっくり歩く。
お目当てはシーグラス。淡く鈍く光る唯一無二のガラス片を集めるのが、私のライフワーク。
ふと、光るものが視界の端で跳ねた。駆け寄ると、それは歪んだグラス。
グラスはグラスでも―眼鏡だった。
浜辺には、いつだって様々なものが打ち上げられる。
目の前には将棋の駒まで転がっていた。
「なんでこんなものが?」と思うより先に、『伝説の海岸将棋』佐藤九段の姿が脳裏をよぎり、フフ、と笑みがこぼれる。
目的の収穫がなくても楽しめるのが、この散策。
しばらく歩くと、見慣れない巨大な物体が打ち上げられていた。
生き物?だったもの? トド? まさか、日本で?
脳裏に憶測が次々と駆け寄る。私は恐る恐る歩み寄った。
「調べないほうがいいよ」
「近寄らないほうがいいよ」
別の私が抑止を促す。それでも私は足を止めなかった。
それは、経年劣化でボロボロになった合皮のような表面をしていた。
薄っすらと動いている。生きている―そう思った瞬間、それは立ち上がり、私に襲いかかってきた。
数十メートルはあるだろうか。
日本古来の海坊主だと理解するまで、時間はかからなかった。
フフ、とまた笑みが出る。
私のライフワークは、シーグラス集めだけではない。
―その刹那、一筋の閃光が走った。
海坊主は悲鳴をあげる暇もなく真っ二つに裂かれ、激しい地響きとともに浜辺に倒れ込んだ。
手元で鈍く光る漆黒の魔剣を鞘に収め、私は髪をかき上げる。
私はヘカテ。
無敵の女王。
完
(本文607字)
あとがき
はらとけいさんの企画『せりふ三題噺』に参加させて頂きました。
■セリフ
「調べないほうがいいよ」
■三題
・合皮・シーグラス・将棋
実際の伝説『伝説の海岸将棋』とギリシャ神話をミックスしてみた。
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