ショートショート 「ゴメイトウ」 #せりふ三題噺
五月晴れの朝だった。
空はどこまでも澄み、風は新緑を揺らしていた。公園の片隅で、四十代の男が倒れていた。パジャマ姿のまま、静かに、まるで眠りの途中で世界から切り離されたように。
新米刑事は腕を組み、空気の匂いを確かめるように深く息を吸った。
「これは密室殺人事件ですね…」
その言葉は、青空に向けて放たれた独り言のようだった。
「どこが?」
文鑑識は、光を反射する空を見上げたまま返す。
「地球という閉ざされた惑星内での事件です。犯人は地球上にいます」
「え…、お前正気か?」呆れた声は乾いた空気にスッと溶ける。
新米刑事は気にも留めず、被害者の衣服に目を落とす。
「パジャマが文鳥柄?こんないい歳したおじさんが?そして、地面に書かれた”いちご”の文字…これはダイイングメッセージ?」
「ほぉ~……それで?」
「彼はエスパーです。いわゆる超能力者ですね。
スタイリッシュな七三分け、整えられた爪先、しかし眉毛は手入れしない。これは典型的な能力者の傾向です」
「で…?」
「そうか!彼は…予知夢で自分が殺されることを知っていたんだ!相手が警察関係者で簡単なダイイングメッセージでは隠蔽されることを恐れて、”パジャマ”と”文鳥”と”いちご”に隠したんだ!」新米刑事は、何かを掴んだように目を輝かせる。
文鑑識は青褪めた顔で見つめるだけだった。
「異質なほど可愛いパジャマは予知夢の能力者である証。文鳥は犯人の名前。“いちご”は苺じゃなく“一語”。つまり文鳥の“文”。犯人は……文鑑識、あなたです!」その指先は、風の中で震えていた。
文鑑識は、ただ沈黙した。
そこへ田中班長が歩み寄り、短く息を吐いた。
「とんだ御迷答だな!誰だ、こんな馬鹿を刑事にしたのは。お前は外れろ」
新米刑事は肩を掴まれ、現場から遠ざけられていった。だがその背中は、まだ何かを信じているように見えた。
「すみません、文さん。若いのが無礼を……最近の若いのは、どうも思考が突発的で」
「いや、いいんだよ。様々な観点から事件を見る目は、大切だから」文鑑識は微笑んだ。
「では、鑑識は引き上げます」
そう言って現場を離れた。公園を抜ける道は、陽光に満ちていた。木漏れ日が揺れ、足元に文鳥の影のような模様を落とす。
歩きながら、文鑑識は胸の奥で小さく呟いた。
「御名答、おめでとう!」
その声は、誰にも届かず、風に溶けていった。
完
(本文966字)
あとがき
はらとけいさんの企画「せりふ三題噺」に参加させて頂きました。一見全てが御迷答のように見えて実は御名答だったというオチ…でした。
■セリフ
「おめでとう!」
■三題
・いちご・パジャマ・文鳥
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