ショートショート 「おてあげですね」 #アマノ文筆クラブ
冬の夕暮れ、窓の外はすっかり暗くなり、教室の蛍光灯が白く静かに灯っていた。英会話教室の一室では、数人の生徒たちが丸テーブルを囲み、講師のジョン先生の話に耳を傾けていた。
「おてあげですね、はい」
ジョン先生が両手を軽く挙げながら、にこやかに言った。
「お、おてあげ…で…すね」
一人の生徒が、たどたどしくも真剣な表情で復唱する。
「はい、上手ですね〜」 先生は満足げに微笑んだ。
すると、別の生徒が手を挙げて尋ねた。
「せんせい!どんな時、使います…か?」
「That's a good question! よい質問ですね!」
ジョン先生は嬉しそうに頷き、少し身を乗り出して話し始めた。
「先日、先生は満員電車、crowded trainで痴漢、molesterに間違われました。You've got me wrong…」
教室内がざわつく。
「Just、おてあげですね。I'm at my wit's end.」
「おぉ、た、大変でしたね…先生」
生徒たちは驚きと同情の入り混じった声を漏らす。
「今回はもちろん無罪、innocence。でも、私は両手をあげて喜びました。I raised my hands in joy」
「え…?」
一瞬、教室内に奇妙な沈黙が流れる。
「私はMなので、I'm a masochist」
ジョン先生はニヤリと笑い、冗談めかして肩をすくめた。
「“Hands up!”なんて言われただけでエキサイティングしちゃいますよね…」
その瞬間、生徒たちは顔を見合わせ、苦笑いを浮かべながら、声を揃えて言った。
「おてあげですね」
完
(本文656字)
あとがき
甘野充さんの企画『アマノ文筆クラブ』お題「おてあげですね」に参加させて頂きました。
