ショートショート 「戦場カメラマン」 #オリジナル
舞台の上に立つ戦場カメラマンは、ライトに照らされて柔らかく浮かび上がっている。
「なぜ危険な戦場でカメラを撮るのか?」
彼はその質問をオウム返しし、満面の笑みを浮かべた。
その笑顔は、幾度も死線をくぐり抜けてきた人間のものとは思えないほど、丸く、温かかった。
「私は戦争を無くしたいんです」
大きく手を動かしながら、まるで手話のようなオーバーリアクションで、ゆっくりと語り始める。
その熱がじわりと伝わってくる。
「戦争の悲惨さ、特に現地の子供たちが置かれている状況を世界中に伝えたい。そして、戦争が無くなったら“学校カメラマンになる”。それが僕の夢なんです」
静まり返った会場に、彼の声だけが真っ直ぐ落ちていく。
「私は子供が好きなんです。戦争が終わった地域の学校に写真を撮りに行くことを続けています。平和の素晴らしさを、子供たちの笑顔を撮って伝えたいんです」
その瞬間、僕は胸の奥がざわついた。
恥ずかしさが込み上げてきたのだ。
僕の中には、ずっと「戦場カメラマンは戦争を食い物にしている」というレッテルがあった。どんな綺麗事を言っても、戦場の写真で生計を立てる彼らは偽善者だと、どこかで決めつけていた。
でも、目の前の彼は違った。
「石の上にも十五年」彼の師匠の言葉だという。
その言葉の通り、彼は十五年もの間、一度も写真が採用されなかった。それでも彼は、港でバナナをコンテナに積み込む仕事をしながら、コツコツと写真を撮り続けた。日の当たらない地道な線上を諦めずに歩き続けた。
…。
だが、胸の奥に小さな棘のような違和感が残った。
「何が?」
自分に問い直す。
思い出したのは、別の講演で彼自身が語った言葉だった。
「ファクトとフェイク。取材をする上で気をつけなければいけないこと。特に“気持ちの良い情報”には気をつけなければいけない」
確かに、彼はそう言っていた。
人は“心地よさ”に流されると、事実よりも自分に都合の良い物語を信じてしまう。
フェイクニュースに最も弱くなるのは、実は自分の価値観に合う情報を疑わずに受け入れてしまう瞬間だ。
だから、僕は一歩引いた。
戦場カメラマンの美談から。
その熱に飲み込まれそうになる自分から。
舞台の上で彼はまだ語っている。
その声は温かく、会場の空気をやわらかく震わせていた。
けれど僕は、静かに息を吸い込み、心の中で距離を測り直す。
照明で光輝く彼を見つめながら、
僕は自分の“心地よさ”を疑っていた。
完 (本文997字)
あとがき
フジテレビの『テレビ寺子屋』の渡部陽一さんの講演を見て書いてみた。2回に分けて放送したものをミクスチャーしてみた。一番凄いなって思ったのは戦争が無くなったら学校カメラマンになりたいと言っていた事。戦場カメラマンという仕事の先の夢を語る彼に脱帽しました。ショートショートなので最後は物語上で距離をとってしまったけれど、彼は本物のジャーナリストだと思った。
あと、
最近更新が遅くなったのはただ仕事が繁忙期でnoteにかける時間が少なくなっただけです。今日も休日出勤…。来月から戻ります。多分…。
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