掌編 「幻想のアスレチック〜まだ物語にならない場所で〜」 #3つのお題に空想のひらめきを
「ようこそ、幻想のアスレチックへ!」
深夜、霧のようなスポットライトがゆっくりと舞台を照らす。観客席は闇に沈み、ただ一筋の光が、中央に立つ挑戦者を浮かび上がらせる。
「今宵、挑戦者・akashiba555が挑むのは、現実と夢の狭間に築かれたステージ!ここは、言葉が意味を拒んだ場所。目の前に広がるのは、意味が生まれる前の風景。ただひたすら、前に進むだけだ!」
その名も…
『まだ物語にならない場所で』
金属の軋む音とともに、1stステージ「空想の入口」のゲートがゆっくりと開く。霧が足元を這い、空気が一瞬、静止する。
プ、プ、プ、ポーン。
「さぁ、スタートの合図だ!」
挑戦者が勢いよく飛び出す…かと思いきや、ぴたりと足を止める。足元に、古びた封筒が一通。蝋で封がされたそれを、慎重に拾い上げる。
「これは…ただの手紙じゃない。”空へ宛てた手紙”だ。この手紙が届く先は、まだ見ぬ物語の始まりだ!」
ガチャン!
突如、照明がすべて落ち、舞台は漆黒に包まれる。天井から吊るされた月型のランプが、淡い光を放つ。
「お〜、ここで一気に照明が消えた!空間は静寂に包まれる。ここは星明かりの書斎。夜の帳が下りる中、月の光だけを頼りに、宛名のない手紙を運べ!その姿はまるで、月影の郵便局員だ。」
書斎の奥、ゆらめくカーテンの隙間から、一本のローリング丸太が現れる。下には、黒く光る湖。水面は微動だにせず、まるで眠りを拒んだ鏡のように、挑戦者の心の奥底を映し出す。
「さぁ…、挑戦者は一本のローリング丸太の上を歩いていく…。一瞬のミスが全てを無に変える!落ちれば待っているのは、眠りを忘れた湖…!」
観客の息が止まる。挑戦者は一歩、また一歩と慎重に進む。だが、次の瞬間…
「おっと!急に猛スピードで渡り出す!影を落とさない子供のような軽快さだ!あ!…あ〜、っと渡りきった〜!」
ストン。
ポストの前に立ち、手紙を差し込む。カチリ、と鍵が回る音。静かに、しかし確かに、1stステージクリアの合図が響く。
「凄い!1stステージクリア〜!」
歓声が闇の中から湧き上がる。だが、休む間もなく、次のステージが口を開ける。
「そして、続けざまに2ndステージの門が開く…!」
目の前に広がるのは、無数の歯車が噛み合い、時を刻む迷宮。天井高くそびえる時計塔が、不気味な存在感を放っている。
ギィ、ギィ、ギィ〜…
「お〜っと、その時計塔のひみつの扉が開いたぞ!」
中から現れたのは、巨大な瓶。中には金色の砂と、風を閉じ込めた瓶が傾き、砂がゆっくりとこぼれ始める。
「さぁ、砂が落ちきらないあいだに、歯車のラビリンスを乗り越えて、次の扉を開けろ!」
だが…
「…ん?どうした挑戦者…。動かないぞ…記憶の森の奥で考え事か?時間は待ってくれない。どうした!?どうした!?挑戦者!」
観客がざわめく。歯車の回転音が、まるで心拍のように高鳴る。
ガチャ、ガチャ、ガチャ、ガチャン!
「な、なんと!ステージのパイプを外したぁ〜!!そして歯車にぶっ刺したぁ〜!」
ブス!ガガッガガッ…ギギイギキーィ…
「完全に止まった歯車の上を悠々自適に歩いて渡る挑戦者…、そして天井に吊るされた“はじまりだけを開ける鍵”を軽々と取る!」
観客は息を呑む。実況席も沈黙する。
「これは真実か幻か?ありなのか?なしなのか?そう、ここは幻想のアスレチック。これは書かれなかった方の世界。論理も通じない、純粋な直感の勝負の場所!いいんです!これでいいんです!」
――その瞬間。
「カット!カット!馬鹿、駄目に決まってんだろ!」
総合監督の怒声が響く。照明が点き、スタッフが慌ただしく動き出す。撮影は押しに押し、監督の目に朝日が差し込む。スタジオの天窓から差し込む光が、埃を金色に染める。
眩しさに目を細めたその時…
ボンッ!
負荷のかかったモーターが火を噴いた。火花が散り、ステージ下のマットに燃え移る。冬の乾いた風が火を煽り、赤い炎がアスレチックの道をなぞるように走る。
「ファイヤーロードだ…!」
誰かが呟いた。火花が描く軌跡が、まるで次なる物語の地図のように、朝の闇を裂いていく。
火花が道を教える朝…
それは、実に焦げ臭い朝だった。
完
(本文1692字)
あとがき
片桐みかんさんの企画『3つのお題に空想のひらめきを【第28回】』に参加させて頂きました。
SASUKEをモチーフに全部盛りに挑戦してみました。花が道を教える朝…これが一番難しかったです…。
※フリガナがふれないので一部修正しました。
