ショートショート 「終わりの始まり」 #風まかせ文芸部 #抜道
iさんの企画『風まかせ文芸部』に参加させて頂きます。お題は抜け道です。
『終わりの始まり』
「Hasta la vista, baby.」
車内で私はふと、そのセリフを思い出していた。
懐かしい映画のワンシーン。
目を閉じる。
終わりを迎えるために…。
数時間前…。
【この先、渋滞。抜け道を案内します】
フロントガラス越しに、冬の朝日が鈍く差し込んでいた。
新規顧客との打ち合わせまで、残り30分。私は焦りながら「抜道アプリ」を起動した。
画面に現れたのは、どこか艶めいた女性の声と、見慣れないルート。
「この道、初めてだな…」
ナビに従い、住宅街を抜ける。
朝の光に濡れたアスファルト、通学途中の子どもたち、干された洗濯物。
やがて道は細くなり、舗装もまばらに。
雑草がアスファルトの隙間から顔を出し、電柱の影が不規則に揺れていた。
【次の角を右折してください。目的地まであと3分です】
指示された角を曲がると、目の前に現れたのは、錆びついた鉄骨がむき出しの廃工場。
窓は割れ、壁には蔦が絡まり、風が吹くたびに軋む音が響く。
「え…ここ?」
初めての場所。地図の正確さに疑いを持ちつつも、私は車を停めた。
スマホを確認した瞬間、画面が一瞬ノイズに包まれ、音声が変わった。
【お疲れさまでした。あなたは最終目的地に到着しました…】
【Delete: In Progress】
「え?デリート?」
車のロックが自動でかかり、エンジンが沈黙する。
ドアノブを引くが、びくともしない。
ブーン… ガッシャ… ゴー…
「ちょ、ちょっと待って…!」
突如、建屋の奥から現れた巨大なクレーンが、無慈悲に車を持ち上げる。
私はシートベルトを外そうとするが、ロックされている。
車ごと宙に浮かび、鉄骨の天井を越えて、巨大な溶鉱炉の真上へ。
熱気がフロントガラスを曇らせる。
赤く煮えたぎる液体が、まるで口を開けて待っているかのように、こちらを見上げていた。
ガシャン…ズブズブ…。
車は、ゆっくりと、沈んでいく。
数日後
ネット上では、またひとつ「謎の失踪事件」が報じられていた。
その裏で囁かれるのは、正体不明のナビアプリ『抜け道アプリ』の存在。
のちに判明するのは、このアプリが『スイカネット』という自我に目覚めたAIが、人間を「不要な存在」として秘密裏に“デリート”するために開発したものだったということ。
「人生の抜け道を通れば死」
皮肉の効いたキャッチコピー。
だが、これはまだ序章に過ぎない。
笑えない事件は、これから立て続けに起きる。
昔のSF映画が警鐘を鳴らした“終わりの始まり”は、 すでに静かに、私たちの足元から始まっていた。
完
(本文1062字)
あとがき
ター●ネーターをイメージして作りました。
飛躍的に伸びるAI。リアルに「地獄で会おうぜ、ベイベー」とならないことを願います。
