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【創作大賞2026】フールフールフィールド

1時間ドラマ尺 脚本 
■フールフールフィールド■
 
【あらすじ】
矢野あかり(22)は、お笑いコンビを組んでいたが、熱すぎる想いや口の悪さにより、相方に解散を告げられ、途方に暮れていた。
矢野の唯一の癒しは、隣人の松木学(25)とベランダで煙草を吸いながら話すこと。
ある日、矢野はオーディションライブのために仮の相方として松木を漫才に誘うことに。
ゴミ屋敷に住む松木の秘密、矢野に振りかかる不運。お笑いが二人を救い、二人がお互いを救った、再生と友情の物語。

【人物関係表】

矢野あかり(22) ボケ担当
松木学(25)   ツッコミ担当
徳田将暉(27)  あかりの恋人
棚田菜乃花(22) あかりの元相方
バイト仲間A(21)バイト仲間

〇カフェ(昼)
 矢野あかり(22)と棚田菜乃花(22)がテーブ 
 ルに置かれたノートパソコンを挟み、向かいあ
 う。
 棚田は矢野の顔色を伺うように。
棚田「どう?」
   矢野、ノートパソコンを棚田の方に乱暴に
   押す。
矢野「読めた……けどなにこれ」
棚田「面白いと思ったんだけど」
矢野「(溜息)素人以下じゃない?本当にどんな感
 性してんの」
棚田「ごめん」
矢野「結局私がネタ書いてばっっかり!一回くら
 い自分で考えて笑いとってほしい」
棚田「(声が小さくなる)や、矢野に頼らずにウケ
 たことだってあるよ」
矢野「いつ??私それ知らないんだけど」
   棚田、苦しそうに胸元を掴んでいる
矢野「私達何回オーディション落ちてると思って
 るの?菜乃花のやる気がないせいだからね!!
 ほんとちゃんとしてよ!」
   棚田、ドンと両手で机を叩いて身を乗り出
   す。
棚田「いっつも私のせい!!!あんたの台本が悪
 いことだってあるし!あんたがぜっっんぜん面
 白くない時もあるじゃん?!」
矢野「はあぁ?!」
棚田「あんたのその高圧的なところも本当に嫌
 つ!!怖いの!!最近横にいるだけでも震える 
 ようになったんだよ?!もう一緒には漫才でき 
 ないから!」
矢野「……解散ってこと?」
棚田「そうだね」
   矢野、叱られた子供のように。
矢野「……分かった……あの……ごめんね?」
   棚田、溜息をつき立ち上がる。
棚田「……さようなら」
   棚田、ツカツカと歩き、去る。
   矢野、テーブルに伏せて。
矢野「(涙声)やっちゃった……」

〇矢野の部屋(夕方)
  矢野、玄関を開け部屋に入り、流れるように
  ベッドにドサッと横たわる。
矢野「終わった……」
  矢野がボーっと天井を見ていると、隣の部屋
  からガラガラとベランダの窓を開ける音がす
  る。
  矢野は、身体を起こすと煙草とライターを手
  に取り、ベランダの窓を開けて外に出る。


〇矢野の部屋 ベランダ(夕方)
  矢野、煙草に火をつけて吸う。寂しげに。
矢野「……しみるなぁ」
  仕切りの向こうで、煙草を吸っている隣人の
  松木学(25)の声だけが聞こえる。
松木「おつかれ」
矢野「……おつかれ」
松木「あれ、なんか落ち込んでる?」
矢野「うん……解散した」
松木「おお!コンビ?おめでとう!!」
矢野「ムカつく」
松木「(笑って)だってずっとここで悪口言ってた
 し。良かったんじゃないの?」
矢野「これからの相方探しが大変なの!」
松木「お前のパワハラに耐えれるやつを探すの?
 無理そー」
矢野「ほんとむかつく!今すっごい楽しそうな顔
 してるでしょ!」
松木「してないって!」
   矢野が柵から見を乗り出し、松木を見る
   と、小汚い姿でニヤニヤと笑っている。
矢野「(嫌な感じで)きったない顔」
松木「ほんと正直な。最初にベランダで会った
 時も、顔に残念でーすって書いてあったけど」
矢野「だって隣人がヒキガエルだとは思わないじ
 ゃん」
松木「ひっでぇー」
矢野「でも声と性格は良いってたまに褒めてるで
 しょ?プラマイゼロ」
松木「ゼロになんないから!お前は天性のパワハ
 ラ野郎だよ」
矢野「……だから、解散したんだよね」
   松木は矢野の落ち込む顔を見て。
松木「可哀想だけどな」
矢野「相方が?」
松木「違う、お前も」
矢野「なんで?」
松木「いや、お笑いに真っ直ぐ過ぎておかしくな
 ってるだけだろ?」
矢野「……うん」
松木「自分がお笑いで救われた分、皆を救いたい
 って言ってたじゃん……口が悪いだけでお前は良
 い奴だよ」
矢野「ありがとう」
松本「次は同じ熱量できてくれる奴と組めたらい
 いな」
矢野「うん」
   二人は煙草をふかす。

〇矢野の部屋(夜)
   矢野、スマホを見て頭を掻きむしる。
   スマホには芸人仲間に送った相方への勧誘
   と、相手からの断りの文面。
矢野「どうしよう……」
   矢野、スマホで他の人を探し、電話をかけ
   る。
矢野「お疲れ様!はなやん?あのね今すごい困っ
 てて、明日オーディションライブなんだけど解
 散しちゃってさ……うん、ああ。分かった……ま
 たね」
   矢野、電話を切って、ベッドに倒れる。
矢野「だよねー……でも、諦めたら……(溜息とともに)次は2ヶ月後……」
   隣の松木の部屋の玄関のドアが開く音がす
   る。
   矢野、カッ!っと目を開き、バッと立ち上
   がる。
矢野「ヒキガエルーーー!!!!」
   矢野は、バタバタと玄関に向かって走り出
   し乱暴にドアを開けて出る。

〇矢野の部屋の前のアパートの廊下(夜)   
   矢野、松木の部屋のインターフォンを連
   打。ドアをガンガン叩く。
矢野「おい!!(表札を見て)松木っていうんだ!       
 松木!?おーい!松木!」
   松木、急いでドアを開ける。矢野を見て。
松木「何何何?!うわ!生、生!全身見るのはじ
 めてなんだけど」
矢野「きっしょい感想」
松木「何の用?結構近所迷惑なんだけど」
矢野「いや、この臭いの方が迷惑じゃない?ゴミ
 溜めてんの?」
   松木の部屋の玄関からはペットボトルが詰
   められたゴミ袋がちらっと見える。
松木「まぁ……で、何?」
矢野「お願いがあるの」
松木「俺に?」
矢野「明日、オーディションライブがあるんだけ
 ど、手伝ってくんない?」
松木「いや、俺……なんもでないから……結構ポンコ
 ツなんだよ」
矢野「大丈夫!いける!スーツ持ってる?」
松木「一応」
矢野「じゃあ完璧!現地集合ね!」
松木「えっ、(笑いながら)もう拒否できない感
 じ?」
矢野「できない!場所とか時間送るからライン交
 換して」
松木「え、ああ……ライン……これ」
   二人はスマホでやり取り。
矢野「できた!じゃあ!明日!ね」
松木「……おう」
   矢野、自分の部屋に入りドアをバタン!と
   しめる。
   松木は口が開いている。

〇松木の部屋(夜)
   松木、部屋に入りドアを閉める。
松木「ぶっ壊れ機関車かよ」
   松木、玄関から歩き部屋の前で立ち尽く
   す。
   部屋はゴミ屋敷のように汚い。
   松木、ゴミをまたぎながら、棚の前に向か
   う。棚の上には女性と松木が写る写真立て
   がある。

〇劇場 楽屋(昼)
   芸人と芸人志望者がネタ合わせをして過ご
   している。
   松木は喪服を着て現れる。
   矢野は驚いて。
矢野「スーツってそれ?!喪服じゃん!」
松木「普通のは太って着れなかった。で、なんの   
 手伝いなの?」
矢野「(小声)手伝いっていうかね」
松木「何?」
矢野「えっと、一緒に漫才をやってほしいの」
松木「はぁ?!いや、やったことないし!!な、
 何時から?!」
矢野「えへへ、五分後」
松木「何考えてんの?!」
矢野「バイト代出すから!一万!」
松木「お金じゃなくて!」
   矢野はパン!と手を合わせて頭を下げる。
矢野「一万円分喋ってほしい!ほんと、ほんとそ
 れだけでいい!」
松木「(溜息)俺が面白いこと言えると思う?」
矢野「いつも通りでいい!私とベランダで煙草を
 吸ってる時と同じ感じでいいの!お願い!」
松木「……分かった……どうしたらいい?」
   矢野、満面の笑みで顔を上げる。
矢野「ありがとう!今から舞台袖に行くから!こ
 っち!」
   矢野、松木を強引に連れて行く。
松木「怖いわぁー」

〇劇場 舞台袖
   舞台では前のコンビが漫才をしている。
   矢野も松木は小声で話す。
松木「すげー……」
矢野「袖からあんまり出ないようにして」
松木「あ、ごめん」
矢野「前のコンビが帰ってきて、出囃子がなった
 ら出て行くからね」
松木「やばい、めっちゃ緊張する」
矢野「ふふっ私が面白くするから、大丈夫」
   前のコンビが「ありがとうございました」
   と言いパタパタ戻ってくる、次の出囃子が
   鳴る。
矢野「いこ」

〇劇場 舞台
   出囃子と共に、矢野と松木がセンターマイ
   クの前に立つ。
矢野「どうもー!魔神どんぶりの矢野と」
松木「あっ」
矢野「このヒキガエルみたいなのが松木ですー」松木「だ、誰がヒキガエルだよ」
矢野「最近ストレスがすごくてさ」
松木「前の相方に殆どパワハラみたいな事してた
 のに?ストレスないだろ」
矢野「お客さんの前で言うー!?」
   松木は身体をお客さんではなく矢野に向け
   ている。
松木「それで解散して、素人の俺誘って今じゃん」矢野「でも芸人出来てるよ?」
   松木、ひょうきんな動きと声で。
松木「え〜?」
   客席から笑い声。
矢野「出来てなかったわ」
松木「お笑いって難しいな」
矢野「お笑いについて教えてやるから今土下座し
 な」
松木「ここでもパワハラかよ」

〇劇場 舞台袖
   ブリッジが鳴り、矢野と松木、バタバタと
   戻ってくる。
   矢野は小声で松木に
矢野「すごいすごい!笑ってたよお客さん!」
   松木はボーっとしている。
松木「うん」
矢野「松木めっちゃ良かったよ!」
   矢野、松木の肩をパン!と強く叩く。
松木「うん……」
矢野「大丈夫?なんかぼーっとしてる?」
松木「お客さん……笑ってたなって」
矢野「ふふっ。ね」
松木「なんか、良かった……」

〇劇場 楽屋(昼)
  芸人達が談笑。ガヤガヤしている。
  二人は自分の鞄から飲み物を出して飲む。
松木「現実に戻ってきたって感じ」
矢野「分かる。あ、これ、バイト代」
   矢野は一万円札を松木に渡す。
松木「いい」
矢野「え、なんで?」
松木「一万円分、話せてないから」
矢野「喋ってたよ!!オーディション落ちちゃっ
 たけど、すごいワクワクしたし、私は払いた
 い」
松木「分かった。じゃあ半額で」
矢野「うん!もらってもらって!」
   矢野は財布をさぐる。二人は笑顔。

〇松木の部屋(夕方)
  松木、ゴミの上に荷物をドサッとおろす。 
  立ったまま今日の漫才のくだりを口ずさむ。
松木「(小声)……誰がヒキガエルだよ……パワハラ
 ……」

  〈フラッシュ〉
   笑う客席の人達。ライトを浴びる松木。

   松木、ボーっと足元のゴミを見つめる。
松木「片付けるか」
   足元のゴミを拾う松木。

〇矢野の部屋(夕方) 
   玄関から入ってくる矢野。
矢野「楽しかったー!」
   矢野がベッドの近くに荷物を降ろすと、隣
   の部屋のベランダの窓が開く音がする。
   嬉しそうな矢野。
矢野「ふふ」

〇矢野の部屋 ベランダ(夕方)
   矢野、ベランダに出て煙草に火をつけて吸
   う。隣のベランダには松木。
矢野「笑いがとれたあとの煙草はうまい!」
松木「(笑って)本っ当にうまい!」
   矢野と松木は柵にもたれて話す。
矢野「おつかれ、今日はありがとうね」
松木「おう、俺も楽しかったわ」
矢野「楽しめたなんてすごいじゃん。あ!聞い
 て!今からバイトの夜勤なんだけど、同じ時
 間に入る子がすごいミスする子でさぁ」
松木「パワハラチャンスの話し?」
矢野「しないって!最近言い方めっちゃ気をつけ
 てる!!」
松木「お得意のやつなのにー?」
矢野「もうー」
   二人はケラケラ笑う。

〇矢野のバイト先 居酒屋(夜)
T「1ヶ月後」
   客と店員の大きな声で賑わう店内。
   矢野はカウンターにもたれかかり溜息をつ 
   く。そこへバイト仲間Aが声をかける。
バイト仲間A「なんかあったの?」
矢野「あー……全然新しい相方が見つかんなくっ
 てさぁ」
バイト仲間A「ふーん、難しいもんなの?」
矢野「声かけれる人は皆かけたけど、駄目だっ 
 た。もっと楽屋とかで話しとけば良かったなぁ」バイト仲間A「んー、ちょっと休んだら?」
矢野「休むと次のライブまで二ヶ月も空いちゃう
 し」
バイト仲間A「頑張りすぎだって!もっと気軽に 
 考えなよ!」
矢野「気軽?」
バイト仲間A「ずっとするわけじゃないでしょ?
 芸人」
矢野「いや、一生の仕事だと思ってるけど」
バイト仲間A「(笑って)まさか。好きなことして
 生きるのはさ、めっちゃ素敵だなって思うよ。 
 でも結婚して子供ができることを考えたら……ち
 ょっと……でしょ?」
矢野「いや、復帰してる人もいっぱい……」
   店長がカウンターに料理を乗せる。
店長「三番テーブル!持ってって!」
バイト仲間A「はーい!」
   バイト仲間Aは客席へ。
矢野「あっ……」
店長「矢野さんはもう上がっていいよ」
矢野「……はい…お疲れ様でした」
   店の扉が開く。松木が来店する。
松木「まだ、開いてます?」
矢野「松木?」
松木「えっ、ここでバイトしてたんだ?」
矢野「うん」
   矢野、松木に近づき耳元で。
矢野「呑むならこの店やめといた方がいいよ」
松木「え?何で?」
   矢野、笑顔で。
矢野「高いし美味しくないから。違う店に行こ
 う。私も行く!」
   松木も笑顔。
松木「ははっ、分かったよ」

〇居酒屋(夜)
   矢野と松木が呑んでいる。ガヤガヤした店
   内。
松木「呑み過ぎだから」
矢野「呑み過ぎてない!!どう思う?結婚したら
 辞めるんだろって言われたんだよ!?こっちは 
 本気なんだけど!面白いことがしたい、漫才や   
 コントでお客さんもテレビの向こうの人も腹抱
 えて笑わせたいと思って毎日毎日ネタ書いてん
 の!!ふざけんなっ!!」
松木「あのさ……それ言われたの、たぶん結婚とか
 関係ないよ」 
矢野「え?」
松木「そのバイトの人、漫才見に来たことあるだ
 ろ?」
矢野「ある……よ」 
松木「面白くなかったから。だから本気じゃない
 って思われたんだよ」
   矢野、泣き出してしまう
松木「違う違う違う!舞台での!お前は!面白く
 ない!なんかちょっと明るい感じに無理して話
 してさ。普通に喋ってる時のほうが嫌な奴で、
 もっと面白いんだって」
矢野「(泣きながら)酷いー」
松木「(溜息)俺は素人だからあんまり分かんない
 けどさ……笑わせて黙らせたら?」
矢野「……そうする」
松木「おしぼり。顔拭け」
   松木、おしぼりを矢野に渡す。
矢野「松木が口拭いたやつとか罰ゲームなんだけ
 ど」
松木「もう通常運転じゃん」
   矢野、笑顔。

〇アパートまでの帰り道 路上(深夜)
   徒歩で帰る矢野と松木。
松木「夜風が気持良いわ」
矢野「松木が言うと気持ち悪いね!」
松木「そんな事笑顔で言うなよ」
   矢野、ハハハと笑ったあと。
矢野「……あのさ、真面目なお願いがあるんだ
 けど」
   矢野と、松木は立ち止まる。
松木「なに?」
矢野「次、また一ヶ月後にオーディションライブ
 があるんだよね……また一緒に出てくれない?あ
 の……そのあともずっと」
松木「……コンビに誘ってんの?」
矢野「うん」
松木「芸人なってほしいってこと?」
矢野「うん。正直、前に舞台に立った時、才能が 
 あるって思った。養成所代も払ってないのに」松木「(笑いながら)悔しかったんだ」
矢野「ふふふ、うん。やりたくない?」
松木「やりたい」
矢野「えっ」
松木「すっげぇ面白かったから」
矢野「本当に?!」
松木「やってみようかなってくらいでもいい?
矢野「良い!良い!やったー!もらった!!」
  矢野は空に向けてガッツポーズ。
  松木も、嬉しそうに笑う。
  心から楽しそうな二人。 

〇矢野の部屋(昼)
   矢野と松木はノートパソコンを前にネタ作
   りをしている。二人は爆笑。
矢野「あっはは!こんなに笑いながらネタ作りし
 たの初めてなんだけど」
松木「ははっ、笑わずにどうやって笑えるものを
 作ってたんだよ」
矢野「あー……そうだね。今までがおかしかったの
 かも」
   矢野の横側を慈愛の目で見る松木。
松木「……楽しんでこうな」
矢野「うん!もうすでにめっちゃ面白いし楽し 
 い!」
松木「俺も楽しい。(少し小声)ありがとうな」
矢野「ん?」
松木「なんにもない」

〇矢野の部屋 風呂(夜)
   矢野、お風呂に入り顔にお湯をかける。
矢野「最高だ……」
   水面に写る自分を見つめ。
矢野「もっと良くなる……松木にあうようにしなき
 ゃ……」
   矢野はドブン!と頭を湯船につっこむ。

〇矢野の部屋 ベランダ(朝)
   静かな朝、松木のベランダの窓をデ
   ッキブラシの柄でバンバン叩く矢野の手。
矢野「おい!松木!」
   ベランダの窓を開ける松木。
松木「な!!物で叩くなよ!普通に連絡し……」
   松木、柵から乗り出して矢野を見て驚いた
   顔。
矢野「えへへ」
   矢野、女性らしい雰囲気から、緑色の短髪
   に変わっている。
松木「どうした?!髪!短っ!!それ何色?!」
   矢野はいたずらに笑う。松木も笑ってしま
   う。
矢野「合わせたくて、二人の雰囲気に。思い切っ
 てやっちゃった」
松木「いいよ。すごい良い。なんか芸人してん
 な!」
矢野「最高の褒め言葉なんだけど!良いネタもで
 きたからさ。こっち来て」
松木「(笑う)やっぱり連絡だけで良かったじゃね 
 ぇか」

〇矢野の部屋
   矢野、松木にノートパソコンを見せる。
矢野「どう?」
松木「うーん、いいと思う」
矢野「私はこれまでと全くキャラを変える。松木
 も少しキャラ作ってやってほしいかな」
松木「分かった。これ。俺に送って、ちょっと書
 き足したりしたいから」
矢野「分かった、一旦家帰る?」
松木「いや、ここでやる。なんか食べながらしよ」

〇矢野の家(夕方)
   矢野、部屋に入ってくる。
矢野「買ってきたよー」
   コンビニで買ってきたものをビニール袋か
   らだして机に並べる。
松木「ありがとう。やった!チキンある!分かっ
 てんなぁ」
矢野「書きなおせた?」
松木「おう。見て」
矢野「早いなぁ」
   松木はキチンを頬張る、矢野はノートパソ
   コンを見る。
松木「チキンうま。どう?」
矢野「え、めっちゃ良いよ、こっちのほうが良く
 なってる」
松木「やった」
矢野「一回やってみよ。ちょっと待って、三脚取 
 ってくる」
松木「三脚?」
矢野「スマホで録画するから。よいしょっ」
   三脚にスマホをたてて、録画ボタンを押す
   矢野。
矢野「録画回ったよ」
   緊張しはじめる松木。
松木「あっあっ、ど、どうもー」
矢野「あ、コンビ名考えてなかった」
松木「おーコンビ名」
矢野「何にする?」
松木「うーん、煙は?」
矢野「煙?」
松木「いつもベランダで煙草吸って話すから」
矢野「いいかも。なんかエモいし……でも検索とかに引っかかりづらいから、そこは微妙かな」
松木「検索か……」
矢野「うーん……馬鹿……フール……フールフィールドは?」
松木「おお、格好いい。どっから出てきた」
矢野「ベランダがアホみたいな事話す場所になっ
 てるから」
松木「(笑って)な、ベランダは……特別だよ
 な……」
矢野「一旦オーディションのライブにはそれで申請しよっか」
松木「任せまーす」
矢野「じゃあ録画しなおして、合わせよう!」
松木「へーい!」

〇劇場 楽屋
   多くの芸人達が話し、準備やネタ合わせを
   している。
   松木と矢野は椅子に座って話す。
松木「また来ちゃったなー」
矢野「(ボソッと)なんか前のコンビの時とは違う
 や」
松木「ん?」
矢野「なんにもないよ」
   松木、周りを見渡して。
松木「皆、真剣だな」
矢野「うん。あ!松木、ちょっとこっち来て」
松木「何?」
矢野「髪、綺麗にするよ。汚いとそっちに目がい
 って笑いにくいから」
松木「おう、ありがとう」
   二人はすぐ近くの鏡の前に移動する。
   矢野、鏡越しに。
矢野「頑張ろうね」
松木「おう、楽しもう。舞台もフール、フィール
 ド……だろ?」
  松木、わざとニヒルな顔。
矢野「ふふ、さむいって」

〇劇場 舞台袖
   舞台から、前のコンビの話し声と客席の笑
   い声が聞こえる。
   松木は手汗をスーツで拭く、顔からも汗
   が噴き出す。
   矢野は松木の背中をパンッ!と叩く。
松木「痛って!!」
矢野「何緊張してんの?松木はできるでしょ」
松木「……ありがとう」
   「ありがとうございました」と言い、前のコ
   ンビがブリッジと共に戻ってくる。
   出囃子が鳴る。
矢野「いくよ」
   二人はセンターマイクに向かって駆け足。

〇劇場 舞台
   出囃子、客席から拍手。
松木「どうもーフールフィールドでーす」
   矢野は不貞腐れた顔。
矢野「……っす……ふぅ」
松木「挨拶はちゃんとだろ」
矢野「……ね……まぁ……」
松木「態度悪いなぁ」
矢野「ごめん……これが精……一杯……」
松木「え?」
矢野「実は昨日もうー……」
松木「もうー?」
矢野「盲腸切ったとこでさ」
   客席から笑い。
松木「(大袈裟に)バカなの?!病室に帰ろ
 う?!」
  矢野、格好つけて。
矢野「舞台でお客さん笑かす方が……大事じゃ
 ん?」
松木「こいつ熱い奴だー!!!」
   客席から笑い声。

 〇劇場 舞台袖〜舞台
   舞台ではMCがオーディションの結果発表を
   している。
   舞台袖で祈る矢野と松木。
矢野「(小声)通れ!受かれ!」
MC「これで最後のコンビです!フールフィール
 ド!!」
  二人は驚きと喜びの表情でお互いを見合う。
矢野「きゃー!!!」
松木「……まじかよ……!」
   舞台に駆けていく二人。
MC「以上10組が次のランクに上がれます」
   客席から大きな拍手。 

〇焼き鳥屋 カウンター
   客席と店員の声で賑わう店内。
   外にいた松木が矢野の隣の席に戻る。
松木「お待たせ。おっ、もう食べてる」
矢野「松木が頼んでた分も来てるよ」
松木「ありがとう。あれ?俺のやつ一本食べた?」矢野「(クスクス笑って)うん」
松木「くそ、一本一本計算して会計するからな」矢野「執念やば、ウケる」
   店員・徳田将暉(27)が串を追加で持っ  
   てくる。
徳田「お待たせしました!ぼんじりニ本とネギま
 ニ本です」
矢野「はーい」
   徳田は矢野と松木に少し近づいて。
徳田「(小声)あの、俺さっきまで、ライブ見に行
 ってました」
矢野・松木「えっ?!」
徳田「めっちゃ面白かったです」
矢野「あ、ありがとう……ございます」
徳田「あと2回勝ったら劇場のメンバーですよ
 ね」
矢野「はい」
徳田「次も見に行くんで頑張って下さい」
松木「うっす……」
   徳田、会釈をして去る。
   矢野、横目で徳田を見る。
松木「何ぼーっとして。ムラムラしてるならつく
 ねでも頼もうか?」
矢野「やめて!ふふ、じゃあチーズ入りのにしよ」   
   松木笑う。
   満腹になった二人はレジへ。
矢野「ごちそうさまでした」
徳田「ありがとうございます。お会計、四千五百
 九十円です」
矢野「カードで」
松木「俺、paypayでお前に払うな」
徳田「レシートと、あの良かったらこれ、俺の連
 絡先です」
   徳田、レシートと共に小さな紙を矢野に手
   渡す。
矢野「えっ、あっどうも」
徳田「俺、徳田って言います。今度飯でもどうで
 すか?」
   矢野、嬉しさが隠せない顔で。
矢野「はい」

〇劇場 事務所
  担当マネージャーはデスク前に座っている。
  矢野と松木はその前に立ち、話を聞いてい    
  る。
担当者「勝ち上がりおめでとう。じゃあ来月から 
 正式メンバーだから、出番はまた連絡するわ
 ね。頑張って」
矢野「はい……!」
松木「ありがとうございます」
   二人は一礼をして廊下に出る。
矢野「信じられない!私達、劇場のメンバーだ
   よ!漫才が仕事になるの!!」
松木「全然実感分かねー」
矢野「プロだよ!プロ!あ!徳田さんに連絡しな
 きゃ」
松木「また徳田」
   矢野、徳田に電話。
矢野「あ!徳田さん?見に来てたよね?……うん、
 ありがとう。いい報告になって本当に良かっ 
 た」
   電車する矢野を心配そうにみる松木。
松木「(小声)俺は心配だよ」   
矢野「お祝い?嬉しい……!」

〇松木の部屋(夜)
   松木、棚の写真立てを手に取ると、あぐら
   をかいて座る。
松木「奈緒、俺芸人になっちゃた。ははっ、ちょ
 っと前の俺じゃ考えられないよな……奈緒はどう
 思う?嬉しいか??」

〇矢野の部屋 ベランダ(夜)
   鼻歌を歌いながら矢野がベランダに出て   
   くる。 
   隣のベランダには松木がいる。
   矢野、煙草に火をつける。
矢野「あー今日も煙草がうまい」
松木「ご機嫌だな」
矢野「えへへ、彼氏できたんだ」
松木「あの焼き鳥屋の?」
矢野「うん、めっちゃ良い人なんだよ」
松木「そうか……おめでとう」
矢野「ありがとう」
   矢野はニコニコ、松木は遠くを見つめてい
   る。

〇矢野の部屋
   スマホを三脚に置き、YouTubeの撮影をし
   ている矢野と松木。
矢野「録画するよ」
   矢野、録画ボタンを押し、すぐに机の前に
   座る。隣には松木。
矢野「フールフィールドのYouTubeがはじまりま
 した!いよっ!記念すべき第一回目の企画
 は!!お互いのキモいエピソードをクイズにし
 て出題しまーす!よいしょー!」
   矢野は笑顔で拍手。
松木「誰が特するんだよ!」

〇徳田の部屋
矢野N「私は恋愛も仕事も、並行して上手く楽し
 んでたつもりだった」
   矢野と徳田が並んでソファに座ってい
   る。
矢野「男の人の家に来たの初めて」
徳田「初めてが俺で嬉しい」
   矢野をじっと見つめる徳田。
矢野「もーそんな見られたら緊張するから!」
徳田「可愛いから見るんだって。あとさ、舞台で 
 見る子が自分の家にいるってのもなんか嬉しく
 て」
矢野「あはは!芸能人と付き合ってる的な?」
徳田「うん……的な」
   二人はゆっくり近づき、キスをする。
矢野「もっと自慢の彼女になれるように頑張る」
   矢野は徳田の首に抱きつく。
矢野N「あの日までは」

〇アパート 松木の部屋の前(夜・雨)
   ドンドンと松木の部屋のドアを叩く矢野。
   松木がドアを開ける。
松木「だーかーら!叩くんじゃなくて連絡しろっ
 て……」
   矢野の顔は涙でぐちゃぐちゃ。
松木「どうした?」
矢野「(泣いて)ごめんなさい!!」
松木「あっ……とりあえず入りな?」
   松木、戸惑いながらも矢野を中に入るよう
   に促す。ふらふらと入る矢野。

〇松木の部屋(夜)
   松木、冷蔵庫からペットボトルのお茶を出
   して矢野に渡す。
松木「大丈夫か?飲む?」
矢野「(泣きながら)あ、ありがとう」
   矢野ごくごく、飲む。
松木「何があった?」
矢野「に、妊娠じだ……!」
松木「はぁ?!」
矢野「(泣きながら)ごめんなさい、今度の賞レー
 ス……までにって頑張ってたのに!!松木ネタ合 
 わせも真剣にいっぱいして!いっぱいネタ書い
 てくれてたのに!私本当に馬鹿で!!」
松木「俺はいいから!!身体は大丈夫か?!」
矢野「(泣きながら)良くない!!松木の努力が無
 駄になる!それに私、馬鹿だから……お酒も飲ん
 でたし煙草も吸ってたんだよ!子供にも申し訳
 なさ過ぎて!!」
松木「だ、大丈夫だよ!彼氏はなんて?」
矢野「おろせって」
松木「は?」
矢野「そんな(また泣きだす)そんなつもりじゃ
 なかったんだって!!付き合ってるつもりもな
 かったって!!迷惑なんだって!!」
   矢野、号泣。松木、驚きで硬直したあと、
   矢野の顔に痣がある事に気づく。
松木「え、お前……顔、なにそれ?」
矢野「え?」
   松木、少し考えたあと。
松木「とりあえず、部屋に戻ってろ。赤ちゃんい
 るんだし安静にしないと」
矢野「そうか、赤ちゃん……」
松木「賞レースなんてこれからいくらでも出れる 
 から、な?気にすんな、帰って横になろ?」
矢野「分かった(鼻をすすって)じゃあ一旦帰る
 ね、ごめん」
   矢野、松木に支えられながら立ち上がる。
松木「うん、暖かくしとけ〜」

〇矢野の部屋 洗面所(夜)
   矢野、顔をザブザブ洗い、蛇口をしめる。
   鏡を見て腫れて青くなった顔に驚く。
矢野「何これ?!えっ?!……あっ…………松木……や
 ばい!!」
   矢野、バタバタと慌てて家を飛び出す。

〇居酒屋の前(夜・雨)
   夜の喧騒の中、松木がへっぴり腰で徳田を
   殴る。通行人が振り返る。
徳田「何すんだよ!!」
松木「さっき自分の女殴ったんだろ?!なんで平
 気でバイト行こうとしてんだお前は!!」
   松木、手が震えている。
徳田「……お前に関係ないだろ」
松木「関係ないわけないだろ!!どれだけ矢野が
 大事だと思ってんだよ!!」
   パトカーで警官がやってくる。
   警官は二人の間に入って。
警官「はい、止まって。警察です。連絡あったの
 君等ね」
松木「あっ…… 」
   矢野、駆けてくる。
矢野「やめて!違う!!違います!!」
松木「矢野、なんで……身体は?」
警官「関係者の方ですか?」
矢野「はい、この人が(徳田を指す)私をいっぱい
 殴って」
   松木、怒りの表情。
松木「いっぱい?」
徳田「最悪、黙ってろよ 」
矢野「ここ!顔を見て下さい!これを見て、こい
 つが(松木を指して)私の代わりに怒りに行って 
 くれて!!だから何も悪くないんです、連れて
 かないでください!」
松木「矢野……」
警官「(溜息)とりあえず三人とも署まで、もう一
 台パトカーを呼びますから」

〇警察署 前(夜・雨上がり)
   矢野と松木並んで警察署から出てくる。
   松木、事務所に電話をしている。
松木「はい、はい……分かりました。また連絡しま
 す」
   松木、電話を切る。
矢野「マネージャー、なんて?」
松木「捕まってなくても、二ヶ月は謹慎処分だっ
 て」
矢野「だよね」
松木「どうせ謹慎ならもう一回殴れば良かった。
 お前、腹も殴られたんだろ?」
矢野「良くないよ。気持ちは嬉しいけどさ、謹慎
 が長引いたら一緒に漫才できないじゃん」
松木「そうだな……あー手めっちゃ痛い。幼稚園以 
 来のパンチだったんだけど(笑う)」
矢野「うん、遠目だったけど、なんか子供みたい
 だった」
松木「うるさ。ほら今は身体が一番大事だろ?休
 め休め、おんぶしてやるから」
矢野「えー!おんぶ!嬉しい!」
   松木は膝をつき、矢野は背中に乗る。
松木「重っ。そこのタクシー乗り場までな」
矢野「近っか……でも……ありがとう」
松木「おう」

〇矢野の部屋(昼)
   つけっぱなしのパソコンの画面の中、フー
   ルフィールドのYouTubeがはじまる。
矢野「謹慎処分中の松木の、更生企画を考えよう  
 ー!いえー!(拍手)」
   マジックでフリップに提案を書く矢野。
矢野「はい!一つ目!朝からゴミ拾いをさせ、タ
 バコを拾えば変顔、空き缶を拾えば新ギャグと
 いうね、地獄みたいな企画です!とことん追い
 詰めましょう!いいですね、まだまだヤバイ企
 画を書きまーす」

〇寺院(夕方)
   松木、墓に向かって寺院内の砂利道を歩
   く。手には仏花。
   砂利道を更に進むと、矢野が水子供養の地
   蔵の前でしゃがみ、手を合わせて泣いてい
   る。
   松木急いで近づいて。
松木「矢野?!ど、どうした?」
   矢野、気力なさ気に驚く。
矢野「えっ……なんで寺?凄い偶然じゃない?」
松木「あ……たまたまだよ。友達……の墓に手を合わ
 せに来ただけで。そっちは?」
矢野「昨日、赤ちゃん、自然流産しちゃってさ」松木「えっ?」
矢野「遺伝子がどうのこうので仕方なかったっ 
 て」
松木「身体は?」
矢野「だるいなってくらいだから大丈夫。ほんと     
 心配しいだよね」
松木「そりゃあ、心配するだろ」
   松木、矢野の隣にしゃがむ。
矢野「さっきね、ここで赤ちゃんの供養してもら
 ったの……でね(涙ぐんで)赤ちゃん、本当はも    
 っと生きたかったかな?って思っちゃって。そ
 したら涙が止まんなくて」
   矢野、涙を拭う。
松木「……そっか。医者が仕方なかったって言って
 たんならさ、子供は自分で考えて天国に帰った 
 んだって俺は思うよ……だから、タイミング考え
 てまたお前んとこに戻って来るよ」
矢野「そう……かな」
松木「うん、良い芸人なって売れて、金があった
 時に帰ってきたほうが得だって思ったんじゃな
 い?」
  矢野少し笑う。
矢野「私の子供ゲスいなぁー」
松木「子供が納得するくらい売れるまで、俺も頑
 張るわ」
   松木、矢野に仏花を手渡す。
矢野「ありがとう……なんか、ありがとうばっかり
 だ」 
   花を大事そうにもつ矢野。

〇街中(朝)

矢野N「二ヶ月後。松木の謹慎がとけ私達は
 YouTubeの撮影をした。あの馬鹿馬鹿しい企画 
 を本当にやることにしたんだ」
   道路脇の歩道でゴミ拾いをしている矢野と 
   松木。
松木「疲れたぁー」
矢野「拾って街は綺麗になるし、更生企画にはも
 ってこいじゃん」
松木「わ!!煙草!タバコ見つけちゃった!」
   松木、タバコをトングで拾ってゴミ袋へ。
矢野「ほら、変顔」
   松木、変顔。
矢野「おもんなぁ……さっきと何が違うの」
松木「もう拾いたくねーよー」
矢野「あ!缶!缶!」
   松木、すごく嫌そうに缶を拾ってゴミ袋
   へ。
矢野「よし、新ギャグどうぞ!」
   松木、面白い動きで。
松木「……私はあの時のトーテムポール!」
矢野「どの時だよ!ふふっちょっと面白い」
松木「今ギャグ何個目?」
矢野「二十三個目」
松木「俺死んじゃうよ」

〇矢野の部屋 ベランダ(朝)
   矢野、こけそうなほど急いでベランダの窓
   をあけ、デッキブラシで松木のベランダの
   窓をバンバン叩く。
矢野「松木!!」
   松木、ガラガラとベランダの窓を開ける。松木「だから、連絡にしろって!」
   矢野、満面の笑み。
矢野「興奮しちゃって!」
松木「(笑う)ムラムラしたら窓叩くタイプだっ
 け?」
矢野「違う!YouTube見た?!」
松木「何?俺等の?」
矢野「めちゃくちゃバズってるよ!!」
松木「えっ?!すぐ見るわ」
   松木、部屋にはいる。声だけが聞こえる。
松木「(声だけ)三十万再生?!嘘だろ?!」
矢野「俳優の道沖祐介がXで紹介してくれてたん
 だって!どうしよう、嬉し過ぎるー!」
   松木、部屋から出てきてまた柵から矢野を
   見る。 
松木「これ、すごいんじゃない?」
矢野「すごいよ!」 
松木「だめだ、次の動画のストックがない」
矢野「今の内ってこと?」
松木「うん、すぐ考えよう」
矢野「松木って頭の回転が早いよね」
   松木、少し顔を曇らせ。
松木「大学中退のしょーもない頭だよ」
矢野「なんで中退したの?」
松木「あぁ……鬱になったから……彼女が自殺し
 て」
   矢野、驚愕の表情。
矢野「えっ……」
松木「(悲しく鼻で笑う)理由が理由だからな。中
 退しても、親も何も言わなかったわ」
矢野「今は……?大丈夫なの?」
松木「まだ薬飲んでるよ……でも、良くなったのは
 薬より矢野のおかげだから」
矢野「えっ、私?」
松木「鬱がましになってきて、バイトしたりやめ
 たりしてる時にさ、舞台に連れ出してくれて……
 俺に生きる場所をくれたから。お前のおかげで
 今すげえ楽しいよ」
矢野「知らなかった」
松木「言ってねえもん」
矢野「言ってよ。あ、相方じゃん」
   矢野は少し泣きそう。
松木「相方、な。まぁもう大丈夫だから。心の整
 理ついて、彼女の墓参りもできるようになった
 し。ありがとうな」
矢野「なんもしてないよ」
松木「してるしてる。キモいかもしんないけど  
 な、俺、お前に恩返しがしたいってよく思って
 るよ。(笑う)口に出すと本当にキモいな」
矢野「今で十分だよ」
松木「いや、もっと上に行こう」
矢野「上……」
松木「とりあえず次の動画だなー何にする?」
   矢野、少し考えて。
矢野「……注目されてるうちに見て欲しいもの
 は………ネタ?」
松木「(ひょうきんに)そう!ネタだねー!!」
矢野「(笑う)キっモい!」
   二人は笑う。

◯劇場、ラジオ局スタジオ、テレビ局スタジオの
 で奮闘する矢野と松木のモンタージュ。
矢野N「この後撮影してすぐあげた漫才の動画は、二十万再生だった。バズった動画には及ばなかったけど、それでも劇場への集客効果はあったし、名前を売るには十分だった。劇場の出番も増え、遠征もこなすうちにラジオの番組もはじまり、トントン拍子にテレビも。私の毒舌キャラはテレビで良くウケたし、松木のツッコミも重宝された。早く売れた事で大変なこともいっぱいあったけど、めげずに二人で突き進んでいった」

〇劇場 舞台袖
  単独ライブ当日。
  客席からはザワザワとした声が聞こえる。
  松木と矢野は舞台袖から見ている。 
松木「(小声)見える?すごい客入り」
矢野「(小声)大入りでちゃうね、ふふ」
   松木、しみじみと。
松木「テレビも楽しいけどさ、俺等が帰ってくる
 所はやっぱここだな」
矢野「ふふ、ベランダじゃなくて?」
  出囃子がなる。
矢野「いこ!」
   矢野が松木の肩を叩く。
   二人は舞台のセンターマイクめがけて駆け   
   る。客席から大きな拍手。
松木「どうもーフールフィールドですー」
   客席から歓声。
矢野「ありがとうございます〜あーもーヒキガエ
 ルには勿体無い」
松木「皆ヒキガエルを見に来てるから」

〇矢野の新居
T「五年後」
   ベビーベッドで赤ちゃんが泣いている。
   キッチンから、楽な部屋着で髪はボサボ
   サな矢野が駆けつける。
矢野「はいはい、あ、おもちゃ投げちゃったの」
   矢野、ベッドの中にあるおもちゃを赤ちゃ
   んに握らせる。 
   インターフォンの音がする。
矢野「おっ、きた。陽菜ちゃん、ちょっとここで
 待っててね」
   矢野が玄関を開ける。
   そわそわした松木がいる。
松木「お邪魔します」
矢野「(笑って)そわそわしてる」
松木「するよ」
   矢野、松木、パタパタとリビングに入る。松木「旦那さんは?」
矢野「買い物に行ってる、今日仕事は?」
松木「朝ロケしてきて、晩にトークライブとラジ
   オの収録」
矢野「いいなぁー私も早く芸人したい」
   松木、キョロキョロしている。
松木「あ、赤ちゃん……赤ちゃんは?」
矢野「緊張し過ぎだって、そこのベッドにいる
 よ」
   松木、赤ちゃんを少しだけ覗き込んで。
松木「わわわ、ヤバイ。手、手洗っていい?水道
 かして!」
   矢野、愉快そうに笑って。
矢野「キッチンそこだよ」
   松木、キッチンで手をじゃぶじゃぶ洗う。
   矢野、それを見て。
矢野「洗いすぎだって」
松木「いや、洗い過ぎでいいんだよ、なんかあっ 
 たら嫌だし」
矢野「大丈夫だよ」
松木「大丈夫じゃない!お前の子だぞ?!大事だ
 から……めっちゃ大事」
矢野「ありがとう……」
   松木はソファに座る。
   矢野は赤ちゃんを抱っこしてくる。
矢野「はーい」
松木「うわ〜小さい。抱っこしてもいい? 」 
矢野「はい、どうぞ」
   松木、赤ちゃんを抱っこする。
矢野「へへ、可愛いでしょ」
松木「(涙ぐんで)ゔん、可愛い」
矢野「泣いてんの」
松木「可愛過ぎて」
   松木を見る矢野、目線を床に落として話
   す。
矢野「ねぇ、私が流産した時に松木が言ってくれ
 た話覚えてる?」
松木「……うん」
   矢野、赤ちゃんの小さな手を握って。
矢野「帰ってきてくれてありがとう。だよね」
松木「うん、良い時に帰ってきたよな」
矢野「本当に……」
   矢野、松木の手から赤ちゃんを貰い、抱っ
   こして見つめる。
矢野「陽菜ちゃん、この世界はね、馬鹿なことい
 っぱいしていい所なんだよ。何回失敗しても良 
 いの。やりたい事をする所なんだよ。いっぱい
 楽しいことしようね」
松木「世界全部がフールフィールドだからな」
矢野「はっっずかしい!」
   松木、笑う。
矢野「あ、でも……私も恥ずかしいこと言う!」
松木「何?」
矢野「あのね、私、最高の相方を持ったって思っ
 てる……もう二度と言わないけど松木を親友だと
 も思ってる……」
   松木、泣き出してしまう
松木「俺も。ベランダで煙草吸ってた時からそう
 思ってるよ」
   矢野、笑って。 
矢野「泣き顔きったないなぁ!」
   矢野、笑いが止まらなくなる。
   松木、つられて泣き笑い。
松木「本当、めっちゃ幸せだわ。俺」

             〈了〉

 最後までお読み頂きありがとうございました。

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