『メルとカラスのクロ』
ある朝、風の谷のふもとにある小川のほとりを、
ふわふわのポメラニアン・メルは、飼い主のまいと一緒にお散歩していました。
「ほらメル、あひるの親子がいるよ」
「ちいさくてかわいいね!」
メルは楽しそうにしっぽをふりふり、小さなヒナたちのそばへ駆けていきました。
そのとき――
バサバサバサッ!
空から黒い影がすべりこんできました。
それは、谷で有名ないじわるカラス。
名前はクロ。
彼はいつも、弱いものをからかっては笑いものにしてばかりいました。
「おいおい、こんなちっこいヒナたち、ビビらせたら面白いだろうな〜」
そう言って、クロは空から枯れ枝や石ころをヒナたちに向かって落とし始めました。
「やめてよ!怖がってるじゃないか!」
メルが前に立ちはだかります。
でもクロは、くすくす笑いながら言いました。
「なんだよポメラニアン風情が。毛がふわふわなだけのくせに!」
そのときでした――
ふわり……
メルの体が宙に浮かび、ふんわりとした風がまわりに広がっていきました。
それは、優しさの力が満ちたときにだけ発動する、メルの特別な力。
「いじわるな風は、やさしい風で包んであげるんだよ」
メルの声なき想いが空にのぼり、あひるの親子はふわりと宙に浮かび、やさしく安全な茂みのなかへ運ばれていきました。
ところがそのとき、突風がふいて――
カラスのクロの体も、ふわっと浮かびあがったのです。
「な、なに!?なんでオレまで!?」
浮かんだクロの体は、ふらふらと風に流され、遠くの森の上空へ。
そして――
ボチャーン!!
クロは池のど真ん中に落ちました。
びしょぬれでバタバタと羽ばたきながら岸に上がると、池のほとりにはたくさんの動物たち。
ウサギ、カメ、リス、そして以前クロがからかって泣かせたカモの子どもたちが、静かに見ていました。
クロはびしょ濡れのまま、肩を落としてぽつりとつぶやきます。
「……わかってなかったな。オレがしてきたこと、みんな、ちゃんと見てたんだな」
その声に、通りがかったメルがやさしく言いました。
「わかってくれたら、大丈夫だよ。次は、やさしい風を起こしてみよう」
クロははずかしそうにうなずき、ゆっくり池の水を払いながら、ヒナたちのもとへ歩いて行き、これまでしてきたいじわるをあやまりました。
その日から、クロは少しずつ変わっていきました。
時々失敗もしたけれど、誰かを笑わせるときは、一緒に笑える笑顔になっていきました。
メルとまいは丘の上からそれを見て、やさしくうなずきます。
「いじわるは風みたいにめぐって、自分に戻ってくる。
でも、優しさも風みたいに、もっともっと広がっていくんだね」
