秋のまたたき
田園
赤子の産毛が
汗ばんだ肌に逆立ち
きらめいている
ここは
どこだろう
光を放ちながら
続いてきた
田園の
眩しさに目醒めれば
濡れた足
渇いたまなざし
ひとつぶの籾ほどの重さで
今が揺れている
その群集を
風が強く吹き抜ければ
いっせいに
同じほうへ傾く稲穂
打ち寄せてくる波のように
足跡を奪ってゆく
その恐ろしさに
赤子だけが泣いている
大人たちは
毅然としたそぶりで
頷いて
冷えていく胸の奥で
飲み込んだ言葉が
研がれてゆく
わたしたちの溜息が
赤子の寝息と
ぶつかるたび
波に散乱する光は
その先へゆこうと
足先を濡らす
それぞれの重さに
沈みながら
絶え間ない波の
ひとつぶとして
涙も息も
いつかこの肉体も
風になるまで
わたしは
わたしのままで
ここにいよう
プラネタリウム
秋の空気を纏った人々が
ぞろぞろと
吸い込まれていく
プラネタリウムの場内
投影機を取り囲んだ席の
どこが特等席かわからず
心許ない気持ちのまま
みな散り散りに腰をおろしてゆく
丸天井の
無機質な白を見上げる
瞳の無垢さ
子供は少し大人びて
大人は少し子供に戻って
待ちわびている
日常の眠るとき
ふっとこぼれた
溜息とともに照明が消え
浮かび上がってくる
いつかの空
早送りされてしまう
夕暮れの寂しさを
見つめながら
居場所は心地よく見失われてゆく
そうしてふわりと放り出される
数多の星のなか
解説員の
ゆったりとした声は
霧雨のように
しずかにしずかに
しみてくる
胸底は
どこまでも続いていく夜道へ 繋がり
大昔のあなたを想像し
大昔のわたしを巡る
神々の物語は
わたしたちの欲や罪を引き受けて
燃えつづけるだろうか
星をなぞる視線は
ペガスス座に吸い込まれ
瞼の閉じ方を忘れそうになる
そのままなにもかもを忘れそうで
なにもかもを思い出しそうな
そのとき
傍らから聞こえてくる
見知らぬ人のいびき
なんて安らかな震え
なんて微笑ましい響き
ふぅと
ふたたびついた溜息が合図のように
パッと照明が灯される
浮かび上がってくる
あたたかく重たげな体
弓も槍も持たない無防備な
けれどもまだ
どこかで星の瞬きを感じながら
ゆっくり立ち上がると
人々は少しやわらいだ影を連れて
また日常へと
溶けてゆく
秋へ
白く静謐な詩集の
一頁目をめくるように
秋という季節はやってくる
銀杏並木のベンチに
そっと腰をおろし
読み耽るひととき
行間からこぼれる祈りは
沈澱し
惧れと自由に疼くつま先を
微かにあたためている
あらゆるものが
風に輪郭を研がれながら
凛と立つ世界で
足元の影に
潜ってゆく
頁をめくるたび
立ちあがる風景へ
木々の余白で揺れる
小鳥の夢へ
深む銀杏の葉を
そっと挿して
※掲載時より一部表現を改めています。
-詩人会議2023年11月号掲載-

