高階洋太という少年
━━━━『孤高の天才』って、コイツみたいな人間の事を言うんだろうな。
俺は、橘一平(27)。子供の頃から絵を描くのが好きで、まわりの大人たちに上手だと褒められ、市の防火のポスターや小学生のコンクールなどに入選する事もあって、その気になって親を拝み倒し、芸大受験専門の塾にも通い、芸大を目指し、なんとか地方の某芸大に入学出来た。
ずっと、『何者か』になれると信じていたのだが、所詮は市のポスターレベル。
画家になれるほどの才能もなく、とりあえず教員免許を取ってはいたので、それで高校の美術教師になった。
教師になって5年目、とある1年生のクラスの男子が、一人でいつも窓の外を眺めていた事に気が付いた。
名前は高階洋太。複雑な家庭事情があったらしく、学年主任の山川先生に聞いてみたところ、幼い頃に父親と死別して数年後に母親が再婚してから数年後に継父に虐待されていたことが判明して、施設から通学しているらしい。
成績はギリギリだが、なんとか進級はできそうなレベルらしい。
長い前髪で表情がわからないが、自閉症気味なところもあるようで、クラスに関わることもなく、常に一人でいるらしい。
美術の授業で校庭で写生をする授業をした。
高階は相変わらず一人離れた場所で座っていた。
「どうだ、ちゃんと描けてる━━━」
と後ろから声をかけて覗き込んで絶句した。
それは、彼がいつも窓から見ていた風景を正しく「切り取った」ものだった。
「え・・・?これ、高階が描いたの??ちょっと見せてもらってもいいかな?」
校庭の桜の木、モミジの木、グラウンド、桜の木の下の池の鯉まで・・・。
そこにあるものがモノクロ写真で撮ったように、そこに描かれていた。
━━━前に刑事ドラマで観たことあるけど、コイツ…もしかしてサヴァン症候群てやつか?
「・・・高階、美術部に入らないか?先生で出来る限りサポートするから、お前は絶対日本の芸術界に名前を残せる人間になれるよ!」
それから、美術部に入部した高階に、初めて油絵の具を使わせてみたが、油絵なのに、驚く程の透明感で、池の鯉が今にも泳ぎ出しそうなくらいのタッチで━━━━。
これは次の全日本美術展に出そうと決めた。
それからは、あっと言う間に、高階は時の人になっていった。
全日本美術展で今までなかった最優秀賞を受賞して、彼の作品に心酔した某大手企業の会長がスポンサーになり、高校を卒業する時に俺も教師を辞めて、彼のマネージャーになった。
自閉的の高階がコミュニケーションを取れるのが俺だけだったのもあるが、高階に俺の夢を託したかったのだ。
それからしばらくして、二科展に入選し、着々とキャリアを重ねていき、作品も5年先まで買い手が付いている。
「なあ、高階。もうちょっと顧客のニーズに合った絵を描く事は出来ないのか?お前が気に入った場所だけじゃなくさ。」
高階は答えない。
「せっかくスポンサーまで付いてるんだから、もっと、色々描けたら、お前も作品の幅も広がるぞ?」
「━━━━━━━。ハァ」
「もう、いいや。サヴァンのふりするのも疲れたしね。僕さ、サヴァン症候群なんかじゃないんだよね。僕のはギフテッドの方。僕が5歳の時に亡くなった父さんと二人だけの秘密だったんだよね。」
「え??た、高階・・・?」
「鳩が豆鉄砲食らうような顔って、先生の今の顔なんだろうね、可笑しい。」
ふふふと笑って長い前髪をかき上げた。
陰気臭い少年だと思っていた高階は、切れ長の奥二重の美少年だった。
「騙してたみたいで、ゴメンね先生。僕のギフテッドはさ、回りにバラしたら利用する奴らしか湧いてこないし、録なことがないからさ、自閉的の振りしてたんだよね。継父にはバレそうになって焦ったけど、自閉的の振りして、ストレスのはけ口になってやり過ごして、自分から通報して、施設に入ったんだよね。先生には絵の才能あるのバレちゃったから、サヴァンの振りしてたんだよね。その方が都合がいいから。誰が僕を利用しようとするか見極めやすいからね。」
「先生は、利用というより、自分の叶わなかった夢を僕に預けてたんだよね?悪い人間ではなかったから、だからマネージャーもお願いしたし。僕がギフテッドなのは、先生と僕の二人だけの秘密だからね。」
無表情だと思っていた少年は、悪戯っぽく笑って右手を出した。
俺も右手を出して握手した。
「これからも宜しくね。孤高の天才に憧れる、孤高の天才未満の先生♪」
