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Sora2が問う「創作の尊厳」ーー日本のコンテンツをどう守り育てるか

「やられました。このままでは日本のコンテンツ産業が危うい。」

10月1日。漫画やアニメの権利関係に詳しい友人から届いた悲鳴のようなメッセージが、すべての始まりでした。

リンク先に貼られていたのは、その日OpenAIが新たに公開した動画生成AI「Sora2」で作られたアニメクリップ。日本のアニメやゲームのキャラクターが、権利者の許諾なしに自由に生成・改変できてしまう——驚くべき事態が現実に起きていました。

あまりの再現度に、最初はフェイクニュースを疑いました。

自分でも試しにSora2にプロンプトを入力してみると、本物と見分けがつかないほどのクオリティで、人気アニメキャラクターの映像が次々と生成されていく。一方で、なぜかミッキーマウスやスーパーマンなど、米国大手が権利を持つキャラクターは出てこない。

これは明らかに不均衡であり、著作権法上の重大な問題ではないか。

世界をリードしてきた日本のクリエイターたちの努力や感性が、ないがしろにされかねない。驚きを通り越して、背筋が冷たくなるような感覚と深い憤りを覚えました。

Sora2で「猿型超人と猫型ロボットが街角格闘ゲームで戦っている様子」を生成したサンプル

水面下の初動ー対立ではなく解決へ

直ちに、知的財産権に詳しい弁護士に相談。既存キャラクターに実質的に類似する映像を無断で生成・公衆送信することは、少なくとも翻案権(著作権法27条)、複製権(21条)、公衆送信権(23条)侵害に該当し得ること、そして法的救済手段の限界などを確認しました。

同時に、関係省庁のメンバーともオンラインで緊急協議を実施。事態の深刻性を共有し、政府として何ができるか、知財権利者として何をすべきかを整理した上で、省庁横断での迅速な対応をお願いしました。

開発企業側とも複数のレベルで懸念を共有し、建設的な議論を重ねました。日本法上の懸念、国民感情への影響、政府との信頼関係——そうした点を率直に伝え、早期の改善を求めました。

しかしその間にも、Sora2を使った改変アニメ動画は世界中で拡散。ネット上では「AIが日本文化を食い荒らしている」との声が高まり、クリエイターの焦りと怒りがひしひしと伝わってきました。

「切り札」としてのAI推進法第16条(調査権)

強力なAIプラットフォームによる国民の権利侵害。

こうした問題は、まさに今年の通常国会で成立した「AI推進法」が想定していた局面でもあります。第16条は、国が「不適切なAI活用により国民の権利利益が侵害された場合」に、政府が関係事業者に調査・報告を求め、必要な指導・助言を行う法的権限を定めています。

この条文は、昨年、私たち自民党のAIプロジェクトチームが法案骨子を策定した際に、「いざという時に政府が動けるように」との思いで盛り込んだものです。AIの自由な研究開発を妨げず、しかし社会的影響が大きい場合には国家として責任を果たす。まさにその「ブレーキとアクセルの両立」を実現する条文です。

一連の対応の中で、私は、事態が早急に改善されなければ、政府はこの調査権の発動を検討すべきとの立場を明らかにしました。しかし、法的権限を発動することなく、政府と開発企業が建設的な対話と協力により問題を解決できる方が望ましいことは言うまでもありません。

OpenAIの決断:方針変更とフィルタリング強化

10月4日朝、開発企業の幹部から連絡が入りました。

「色々ありがとう。まもなく発表を行う。」

その10分後、OpenAIのサム・アルトマンCEOが声明を発表。2つの方針転換を明らかにしました。

ひとつは、権利者がキャラクターの生成をより細かく制御できる機能の導入。「不許可設定」も可能にし、権利者が自らの意思で関与の可否を決められる仕組みへ。

もうひとつは、許諾を与えた権利者に対して収益を分配するモデルの試行です。ユーザーがキャラクターを生成して楽しむ際、その一部が創作者に還元される——単なる「禁止/許可」ではなく、共創への一歩となる可能性を秘めています。

また事前の約束通り、発表後まもなくして、問題とされていた日本のアニメやゲームのキャラクターの無断生成が次々とブロックされるようになり、フィルタリングの大幅強化が確認。小さく「よし!」と声が出ました。

4日より強化されたフィルタリング

声明の中でアルトマン氏は、あえて日本のコンテンツ文化に触れ、こう述べました。

“In particular, we'd like to acknowledge the remarkable creative output of Japan--we are struck by how deep the connection between users and Japanese content is.”
(特に、日本のクリエイティブ作品の素晴らしさについて触れたい。私たちは、日本のコンテンツがいかにユーザーと深く結びついているかに強い感銘を受けている)

Sam Altman “Sora Update #1” (25.10. 4)

同社の方針変更が日本からの強い懸念表明を踏まえたものであることは明らかです。そして、その姿勢の変化を引き出せことができたのは、関係者の粘り強い働きかけと、これまでの信頼関係の積み重ねがあってこそだと感じます。

Soraが問うもの。AIは文化を壊すか、支えるか

アルトマンCEOが日本を初の訪問先に選んだのは2年前の春。
自民党本部で開かれたAIプロジェクトチーム(平将明座長)の場で、彼はこう語りました。

「AIを通じてクリエイターにより報いる仕組みを考えたい。それが正しいことだと思うから。」

Sora2の登場で、AIと著作権の課題が改めて浮き彫りになりました。
解決への道は始まったばかりです。
無断生成をどこまで防げるのか。
オプトアウトは権利者にとって使いやすい仕組みになっているのか。
技術の進歩に応じてルールやガイドラインを見直す必要はないのか。
——いずれも、関係者の誠実な協議と検証が欠かせません。

しかし、ピンチはチャンスでもあります。
Sora2の一件は、AI時代の新しい知的財産の議論を始める契機になりました。

「Sora」という製品名の由来は、日本語の「空(そら)」。
空のように開かれた創造の世界で、AIと人間がどう共に生きるかが問われています。

アニメ、ゲーム、音楽——創造の力で世界を魅了してきた国だからこそ、
日本にはルールづくりをリードする責任があります。
技術の進化を恐れず、しかし人間の尊厳を見失わない社会を描くこと。

AIと文化産業の関係を“対立”から“共創”へ。
日本を起点にAI時代の新たな共創ルールを確立し、クリエイターの努力や才能に、より公正で広い報酬が還元される仕組みを築く。その挑戦に、引き続き取り組んでまいります。

皆さまのご意見やアイデアもぜひお聞かせください。

今回の一連の対応にあたり、多大なご指導とご協力を頂いた平大臣、関係省庁の皆さま、コンテンツや法律の専門家の皆さま、開発企業の皆さま、そのほか全ての関係者の皆さまに心から感謝申し上げます。

自民党AIの進化と実装に関するPT(2023.4.10)


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