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実践編4:Bow Tie Framework STEP2 企業価値に影響を与えるステークホルダーを見極める

Identify & Prioritize Stakeholders

Strategic Objectiveが定まったら、次に考えるべきは、その実現に関わるステークホルダーを特定することである。ここで重要なのは、このステップで行うのは、企業を取り巻くステークホルダーを網羅的に列挙することではなく、誰とのエンゲージメントを設計すべきなのかを明らかにすることである。

本書の第一部で紹介したように、フリーマンは、企業を株主だけではなく、多様なステークホルダーとの関係の中で存在する組織として捉えた。
その後、ミッチェルらは、ステークホルダーの重要性は、影響力(Power)、正当性(Legitimacy)、緊急性(Urgency)によって変化すると論じた。また、実務では、メンデローのPower-Interest Matrixや、サベージらのThreat–Cooperation Matrixなど、ステークホルダーを分類し、優先順位を考えるためのさまざまなフレームワークが用いられている。

これらはいずれも有用である。しかし、戦略課題対応型マルチステークホルダー・エンゲージメントでは、それだけでは十分ではない。

なぜなら、重要なのは「株主」「顧客」「従業員」といったカテゴリーではなく、その戦略課題において、誰が企業価値の実現に影響を与えるのかだからである。

イシューごとにステークホルダーは変わる

実はこれは忘れがちで重要なポイントである。企業にとって一般的に大事なステークホルダーはいるであろう、ただし、戦略的なマルチステークホルダー・エンゲージメントにおいては、その対応するイシュー、そして達成したい戦略的な目標に応じて、ステークホルダーは大きく変化する。

例えば、「株主」と一言で言っても、その中には長期保有を前提とする機関投資家、アクティビスト、パッシブファンド、個人株主など、多様な主体が存在する。それぞれ投資目的も、企業への期待も、意思決定のプロセスも異なる。さらに実際の案件では、「株主全体」を相手にすることはほとんどない。重要なのは、その戦略課題に最も影響を与える数社であり、しかも、その数社も独立して意思決定しているわけではない。議決権行使助言会社、他の主要投資家、アナリスト、メディアなど、さまざまな情報を参考にしながら判断している。つまり、「株主」というカテゴリーを分析するだけでは十分ではない。誰が意思決定を行い、誰がその意思決定へ影響を与えているのかを理解しなければならない。

これは株主だけの話ではない。以前、食品企業があるNGOから厳しい批判を受けた案件を支援したことがある。当初は「NGOへの対応」が課題のように見えた。しかし、Strategic Objectiveに立ち返って考えると、本当に重要なのはNGOそのものではなかった。NGOの主張によって、企業価値に影響を与える重要なステークホルダーが、どのような意思決定を行う可能性があるのかであった。そこで私たちは、その企業の商品を扱う小売企業を整理した。もちろん、すべての小売企業が同じようにNGOの主張を重視するわけではない。ESGへの関心が高く、企業に説明を求める小売企業もあれば、現時点では大きな影響を受けない企業もある。重要なのは、「小売」というカテゴリーではなく、どの企業が実際に企業価値へ影響を与える意思決定を行う可能性があるのかを見極めることであった。さらに、それぞれの企業に対して、どのような事実を説明し、どのような懸念に答えるべきかを整理した。この案件で重要だったのは、NGOを説得することではない。NGOの主張によって影響を受ける重要な取引先との関係を維持し、企業価値への影響を最小化することであった。

インフルエンサーとして重要なステークホルダー

戦略課題対応型マルチステークホルダー・エンゲージメントでは、直接対話する相手だけではなく、「誰が誰に影響を与えるのか」という関係まで理解する必要がある。

ステークホルダーは独立して存在しているのではない。互いに影響し合うネットワークの中で存在しているのである。特定の主体が、相手や状況によって、いわゆるステークホルダーにも、ステークホルダーに影響を与えるインフルエンサーともなりうるのである。先の例であれば、メディアで何が報道されるかは、小売企業の意思決定に影響をしうる。また、メディアの報道が消費者に影響を与え、その行動が小売り企業の意思決定に影響を与えることもありうる。

多くの例でメディアは重要なステークホルダーとして取り組みが行われる。メディアが企業価値の実現に直接的な関与を持つことはほとんどない。にもかかわらずメディアが重要なステークホルダーとされるのはまさに、他の重要ステークホルダーに強く影響を及ぼし得る存在だからである。昨今ではメディアのみならず、生成AIもステークホルダー化する傾向がみられており、ステークホルダーは人とも限られなくなってきた。

ステークホルダー分析は「カテゴリー」から「人物」へ

戦略課題対応型マルチステークホルダーエンゲージメントでは、ステークホルダーをどの単位で捉えるかが極めて重要である。

最初は、「株主」「顧客」「従業員」「行政」「地域社会」といったカテゴリーで整理すればよい。企業を俯瞰し、重要な関係者を漏れなく把握するためには、この視点が有効である。しかし、実務ではそれだけでは不十分である。次に、それぞれのカテゴリーの中で、実際に意思決定を行う主体まで具体化する必要がある。例えば「株主」であれば、長期保有を前提とする機関投資家、アクティビスト、パッシブファンドなどに分けられる。「小売」であれば、主要取引先ごとに経営方針やESGへの考え方、企業との関係性は異なる。そして最後に、実際にエンゲージメントを行う相手、すなわち「人物」まで落とし込む。担当ファンドマネージャーなのか、ESG責任者なのか、購買責任者なのか、あるいはCEOなのか。実際のエンゲージメントは組織ではなく、人との間で行われるからである。

このように、戦略課題対応型マルチステークホルダーエンゲージメントでは、カテゴリー → 主体 → 人物という三つの階層でステークホルダーを整理することが重要になる。

ステークホルダー分析の目的は、一覧表を作ることではない。企業価値の実現に向けて、「誰と対話し、誰の理解と協力を得ることが成功の鍵になるのか」を具体的に明らかにすることである。


Strategic Stakeholdersを見極めるための中核となる問い

  • この戦略目標の実現に最も大きな影響を与える主体は誰か。

  • その主体とのエンゲージメントによって、結果を変えうるか。

  • その主体は、誰から影響を受け、誰へ影響を与えているか。

  • 実際に対話すべき主体(個人名)は誰か。

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