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そんなお前に惚れている【せりふ三題噺】【第二ボタンたい焼き駐輪場】

「ねぇ、学生の時の制服て学ランだった?」
たまたま帰りの時間が一緒になった妻と自転車を押し、家路をゆっくりめに歩く。
「何だよ、唐突に。うん、俺たちの代まで学ランだったな。後の代からはブレザーに変わったよ。」
「へー、じゃあ、さぁ。卒業の時、第二ボタンとかあげたりした?」
「いや、ないなー。俺モテなかったし。」
ふーん、と口を尖らす妻に、
「お前こそ、どうだったんだよ。その・・、第二ボタンとか?もらいに行ったりしたの?」
「私は、ほら。女子校だったし、何なら後輩達が私のボタン貰いに来たり。」
あぁ、そうだ。学生時代の彼女は陸上部キャプテンやってて、学校内だけでなく県内でもトップクラスの記録を持つ有名人だった。今は、ガーデニングとお菓子作りをこよなく愛す、フンワリ雰囲気の奥様然としてるけど。
高校時代のハードルを跳ぶ彼女の写真の、凛とした表情と筋肉の美しい流動を思い出しながら、改めて何で冴えない俺を選んだのかと思う。
「私自身が自然体でいられるからよ、あなたの前だと。でも、それは気を抜いてだらしなく出来るとかじゃなくて。好きな映画とか、本とか、景色とか、絵とか、たとえそれがお互いの好みが違っても、それを伝え合って、共有し合って。それが苦じゃないてことかな。そう思わせてくれるあなたの懐の深さに惚れたの。」
私の考えていたことが分かったかのように妻が言うので、ビックリしていると、
心の声、口から出てたよ、と妻が笑った。
ちょっと気まずくなって横を向く。
ムフフと笑う妻。
そんなとこも可愛くて好き、なんて言うからますます恥ずかしい。
マンションに着き、自転車のタイヤの空気抜けてることに気づいた。駐輪場に置いてある手動の空気入れで、2人がかりでシュコシュコと空気を入れていたら、
「なーにイチャイチャしてるの。」
バイト帰りの娘だ。
コホンと咳払いし、いつも通りだろと言うと、
空気が甘いのよと返された。
「そんな甘い2人にお土産でーす。」
紙袋を渡された。中にはまだ温かいピンク色の鯛焼きだった。
「春の新作。桜あんのたい焼き。」
バイト先のたい焼き屋は、なかなかの繁盛振りで、看板娘がいいから、と得意気に言う自画自賛の娘。
「熱いお茶入れて、早速食べましょう。」
とウキウキ嬉しそうな妻であった。


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