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帰省【せりふ三題噺】【カイロ確定申告始発】

平日の朝5時半、始発を待つ通勤通学の人々の列は思ったよりも長い。
休みを取った。消化しなければならない有給休暇があり、せっかくだから実家に帰ることにした。年始にも顔見せはしたけど、日帰りだったし、母はもっとゆっくりして行けばいいのに、と愚痴ったっけ。
電車を乗り継ぎ3時間程かけて実家に着いた。
おう、早かったなぁ、とのんびりと朝の情報番組を見ながら父が言った。母は疲れたでしょ?と温かいお茶を出す。
2ヶ月弱ぶりの実家は久々ではない。兄夫婦も帰って来る年始の賑やかさがないせいもあってか、父と母もゆったりとして、普段の家の様子が垣間見えた。
二人とも体調は悪くないといい、天気のいい日は近所でグランドゴルフを楽しんでいると言う。クロの散歩もしているし健康的な毎日を過ごしているのよ、と母が笑う。
その声が聞こえたのか、カツカツカツ・•と隣りの部屋からクロが小走りでやって来た。黒柴のクロは、人間の年齢で言えば80歳くらいのおばあちゃんだ。若い頃はヤンチャなギャル柴だったが、今は年相応に落ち着いた性格のマダム柴になっていた。それでも飼い主の手入れがいいので、若々しい毛艶を保っていた。
クロが私の隣に来て身体を寄せてきたので、元気してたかと顎の下をコチョコチョすると、気持ち良さげに目を閉じ、まるで猫の様に丸まって眠ってしまった。
お茶を啜りながら、何か困っていることとかないか聞くと、父が確定申告をするのを手伝ってほしいと言う。顔を突き合わせながら、あぁでもないこうでもないと言いながら、スマホを使ってどうにか済ませることが出来た。時間にして30分足らず、今まで税務署まで脚を運んでいたのに便利な世の中になったな、と感嘆の声をもらす父。
さっき隣で寝ていたクロが目を覚まし、ふわぁと欠伸をしてストレッチを始めたので、クロと散歩に行こうかなと言うと、母も一緒に近くの公園まで行くにことにした。
外に出ると、だいぶ日は高く登って思ったより気温が上昇し暖かかった。母とたわいもない話をしながら、クロのゆっくりした歩調に合わせて歩いた。公園に着くと、梅の花が上品ないい香りを漂わせていた。クロも香りを追うように鼻をクンクンさせている。
ふとダウンジャケットのポケットに手をいれると、カチカチになったいつぞやの使い捨てカイロが手に触れた。最近はだいぶ寒さも緩みカイロの出番もなくなっていた。いつの間にか春も近づいているんだなと思う。
散歩から帰ると、父お得意のぜんざいが出来上がっていた。甘い物好きな父がよく作るぜんざいは、ほど良い甘さで小豆たっぷり、焼いたお餅が香ばしくて、小さい時から食べている懐かしの家庭の味の一つだ。ハフハフしながら食べると、やさしい甘さが沁みた。二杯もおかわりしてしまった。
しばらく団欒しながら、クロと戯れたりして夕方までゆっくり過ごし、そろそろ帰らなければならない時間となった。
体調に気をつけなさいよ、食事も疎かにしないようにと母に言われ、お父さんお母さんも気をつけてと返す。間際に母から、電車の中ででも食べてとお弁当を渡された。ありがとう、また来るよと言って、帰路につく。
帰りの新幹線、席に着いてお弁当を開けた。豚肉の生姜焼きときれいに巻かれた卵焼きに、大きめのおにぎりが入っていて、高校生の頃毎日作ってもらっていたお弁当を思い出した。看護師をしていた母は、家事に仕事に日々忙しくしていたが、毎日お弁当を作ってくれていた。家を出て社会人になった後、それがどんなに大変なことだったか気付いた。改めて感謝しながら、お弁当を食べる。相変わらず美味しく、懐かしい味だった。
暗くなった車窓を眺めながら、今日一日を振り返る。ただただ実家でのんびりと、父母に甘えた幸せな一日だった。
エネルギーの補充は満タンに出来た。明日からまた忙しい日常が始まる。

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