辻咄 異郷の旅/ダラガン『エコーと共に異郷荒野で旅をする』 第5話
第5話【 追い剥ぎ 】
柳緑は、ちらっとサイドカーの座席ホールに突っ込んである12.7mm弾使用の対物ライフルを見た。
座席内での収納の為に伏射用の2脚は取り外してある。
ライフルは米国で開発されたバレットM82の後継機らしいが柳緑はよくしらない。
知っているのはその操作方法と残弾が4発という事と、弾があるのをないとのではライフルの取引価格がぐんと違ってくるという程度のことだった。
「駄目だよ、りゅうり、そんなの使っちゃ!」
花紅が大きな声を出した。
「なあ かこう。精神治療プログラムのお前に言うのはなんだが、人間生きててナンボだろ?俺が死んだら治療もくそもないんだぜ。健康になる為なら病気も厭いません、てなもんだ。それにプロテクを完全装着したからって俺がスーパーマンになる訳じゃない。実際に相手する人数は減らしておきたいんだよ。」
柳緑はサイドカーの座席ホールから対物ライフルを引き出すと、それを肩付けして迫り来る敵に標準を定めた。
もちろん、反動の大きい対物ライフルを肩付けして使用するなど常識ではあり得ないが、今の柳緑はプロテクで全身を固めている。
柳緑の頭部を覆っているプロテクのゴーグル部分にはめ込んである視覚支援システムが自動的にズームモードに切り替わる。
敵の構成は、軍用装甲トラックらしき大型車両を中心にして、数台のオートバイで成り立っているようだ。
柳緑は装甲トラックに向けていきなり初弾をはなった。
バンッ!
オートバイの群れから少し遅れて迫ってくる装甲トラックの数メートル前に大きな土煙が上がる。
初弾が外れるのは想定内だった。
それで柳緑の視認感覚とプロテクのライフル操作感覚が完全にシンクロする。
柳緑はなんの躊躇もなく第2弾を放った。
今度の対物ライフルの弾は装甲トラックのエンジンを完全にぶち抜き、おまけに出がけの駄賃で鉄甲弾はどこかの駆動シャフトも破壊したようで、装甲トラックは激しく横転して停止した。
『今で2発、もう一発使ってみるか、』
柳緑は肩付けした対物ライフルの銃口を迫ってくるオートバイ群に向けた。
先ほどよりも随分距離が縮まっている。
二台のオートバイが先鋭として前後に並んだのを見て取った柳緑は、先頭のオートバイに第三弾を送り込む。
人間を標的にした訳ではない。
被弾したオートバイは派手に吹き飛び、後ろからやって来たオートバイにぶつかった。
『上出来だ。のこりは1発、』
だが柳緑はその弾を使わず、対物ライフルを肩付けしたまま敵の到来を待った。
この残弾数ではライフルの値段は多少下がるが、一発でも残っていれば、それが見本になるので価値の暴落は下げられる。
敵は柳緑とカブを遠巻きに囲むようにしてバイクを止めた。
5人が、対物ライフルを肩付けしたままの柳緑を中心にして、浅い扇形に散らばっている。
彼らも自分たちの仲間がこのライフルでやられたのを知っているから、迂闊に近寄ってこようとはしない。
だが既にやられた仲間達を助けに戻るでもなく、一直線にここにやって来た人間だから、その本性が凶暴極まりないのは明らかだった。
「いいカブに乗ってるな!それとお前が付けてるプロテクも上物だ!みんなここに置いていくなら命だけは助けてやる!」
扇形の中心にいた髭面の男が吠えた。
手に散弾銃を構えている。
言葉は判らないが、言っている意味は判った。
これは柳緑のプロテクトスーツやヘルメットの機能ではない。
並行世界が隣接混濁した地域に起こす超自然現象のユニバーサルフォース(統一の力)の一つである"言語ブリッジ"が働いているのだ。
煮売屋の親父との会話とはかなり質が違う。
いわば生理的な現象だ。だから肉体的な反応を伴う。
だがそれ程酷い頭痛もなく、単なる微熱感程度しか変化を感じないので、柳緑はそれほどかけ離れた異時空の住人を相手どっている訳ではない。
第一、何処かで聞いたような定番のセリフ、これは今まで柳緑が生きてきた時空の文明文化に登場する強盗の仕草であり、この人間達はそれを真似ているのだ。
長いにらみ合いが続く。
柳緑が見たところ、銃をひけらかしているのは髭面の男だけで、あとは山刀や西洋刀の類しか身に付けていない。
服装も垢染みていて貧相だ。
常に生活に疲弊していて、おそらく手に入れた高性能の重火器や刃物の類は、直ぐにファイヤービーンズなどに変えて食いつないでいるのだろう。
年季の入ったプロの強盗なら、この局面ではもう少しましな陣容で望んでいる筈だ。
要するに、粗暴さと気合いだけで、ようやくここまでのし上がって来たというレベルの強盗集団なのだろう、と柳緑は思った。
もし相手の銃器が散弾銃だけなら、柳緑は5人相手でも、プロテクで充分な筈だと…。
「叔父さん達。ここは引き下がった方が良いよ!こいつ、こう見えても今まで何人も人を殺してるんだ!でなきゃ、こんな場所、一人でうろついたりしてないよ!」
花紅が突然叫びだした。
・・・かこうめ、何が何でも俺に「殺し」をさせない積もりでいる。
それに何が"一人でうろついている"だ。
コイツらには、 かこう…。お前含めてきっちり俺達"二人分"が目に入っているんだぞ。
「うへぇ!こいつ可愛いな!俺が戴いた!」
花紅の言葉に反応する形で、扇形の左端、つまり一番、花紅に近い男がいきなり動いた。
柳緑はライフルの銃身を下から支えていた左手を外すと、その手首を動き出した男に向けた。
プロテクの裏手首にある穴から、いきなり細いワイヤーのようなものが飛び出す。
その先端にはマニピュレーターが取り付けられてあるのだが、今はソレが閉じていて、尖った槍の穂の形になっている。
その槍の穂が見事に花紅に飛びかかろうとしていた脇腹にめり込んだ。
男は自分を襲ってきた痛みの正体を探ろうとしたのだが、次ぎに来たワイヤーの電撃によって一瞬に意識を失ってしまった。
本格的な肉弾戦はこれを切っ掛けに始まった。
いくら何でも、対物ライフルをこの距離でしかも片手では撃てまいと、残りの4人の男達が一斉に判断し、動いたのだ。
柳緑の方も、対物ライフルの弾は残しておくつもりでいた。虎の子の弾丸だ。ちょこまかと動く人間相手に使っても仕方が無い。
ただし弾は残すが、ライフル自体を使わないと決めた訳ではない。
柳緑はライフルを棍棒代わりに使って、一番最初に柳緑につかみかかろうとした男の頭部を薙いだ。
プロテクの腕力でそれをやったのだ。
男は少し空に飛ばされながら、地面にぶっ倒れていた。
柳緑は短時間で、すでに二人の男を倒した事になるのだが、そこから先はそう上手くは行かなかった。
残った3三人は、見事な連携を見せて、それぞれのナタ等の獲物を手にして柳緑に斬りかかってきた。
柳緑が彼らの攻撃に押されて隙を見せたとき、髭面男の散弾銃で仕留めるという作戦なのだろう。
確かに今は4人が接近しすぎていて、相手も散弾銃が使える状況ではない。
柳緑は、相手の剣戟攻撃に合わせて、手に持ったライフルを棍棒から剣に見立て直して、それを使った。
やがて柳緑は相手の本当の強さが判ってきた。
貧相な見かけ通りではない。
筋肉強化剤・興奮剤の常用、身体の部分的なバイオボーク化、このコラプス世界の荒野で強盗働きを続ける裏付けは、そこにありそうだった。
ついに柳緑に隙が生まれた。
剣代わりに使っていた対物ライフルを、左手から右手に移し替え終わったその瞬間、髭面男の振り落とした剣が、柳緑の左の肘裏部分にまともに入ったのだ。
プロテクは基本的に関節の可動部分が少ない方向に、強化や様々な工夫が凝らしてあるのだが、柔らかく動く部分は極力元の状態に近づけてある。
だがもちろん、プロテクのシェル部分は、いかに柔軟性を保持するからと言って、振り下ろされた剣程度の衝撃に耐えられない筈はない。
ただし、その中にある人間の腕は別だった。
「くそっ、やられた!」
柳緑は無我夢中で、そのまま身体を回転させ、右手一本で重量のある対物ライフルを髭面男の後頭部に打ち込んだ。
この展開は結果的に「肉を切らせて骨を断つ」形になった。髭男は即座に地面に崩れ落ちた。
同時に、柳緑の左肘関節が自動的に硬化しプロテク腕内部に薬剤が充填されるのが判った。
プロテクが柳緑が受けた激烈な痛みを感知したのだ。
このダメージで、普通なら柳緑の戦闘意欲が半減される筈だったが、彼の場合は逆だった。
……。火が付いたのだ。
その後始まった3人の男と柳緑との闘いは、狂人と化した柳緑の圧勝で結果を迎えた。
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「よく頑張ったね、 りゅうり。暴走モードになりかかってたのに、みんな殺してない。」
「馬鹿を言え、さっきのは暴走モードじゃないぞ。"ちょっと普通の本気"を出しただけだ。」
柳緑は、昏倒した男達の所持品を探りながら、隣から喋りかけてくる花紅に言葉を返した。
『・・正確には・・・暴走モードじゃない、ソノ、一歩手前だ。』
四人まで調べた。
めぼしいものはなかった。
男達が持っていた武器は売れないこともなかったが、これからも長旅を続けなくてはいけないカブにそれらを積み込む事を考えると、その重さやカサの大きさのデメリットの方が大きかった。
柳緑は最後に髭面の身体を調べた。
首から懐の内側に隠すように革袋をぶら下げていて、その中にファイヤービーンズが五十ほど入っていた。
「こりゃいいな。」
そう呟いた柳緑は、髭面男の首にもう一つ掛かっているロケットを見つけて、何気なくそれを開けてみた。
中には、髭のない若い表情の髭面男と女性、その間に抱き上げられた幼子の写真があった。
「、、、、、。」
柳緑は黙ってそのロケットを男に戻すと、彼の腰巻きから散弾銃の弾を見つけ出し、それをポケットにしまい、彼らが乗っていたオートバイの方に歩み出した。
「なんだい?カブを乗り換えるの?」
「いやパーツに良いのがあれば、もぎ取るだけだ。三十石は気に入ってる。三十石がアイツの代わりに旅をしてるんだ。それに移動の事だけを考えるなら、二輪より四輪を奪って乗り換える方が良いだろ?」
「って事は、あの軍用トラックには、手を出さないんだ?」
「ああ、覗くつもりもない。多分、奴らのトラックには、今までの略奪品が山ほどあるだろうが、ものによってはソレを見るだけで気分が悪くなるのがあるだろうからな。、俺は強盗じゃない。ただ襲ってきた奴らからは、それなりの慰謝料は頂くってだけの話だ。」
柳緑は一通りオートバイの検分を終えて結局、髭面男の乗っていたオートバイに取りついた。
「たぶん、コイツがリーダーだったんだな。いいのに乗ってる。最新のカスタマイズだ。」
「最新型?」
「エンジンとバッテリーだよ。誰が仕上げたのか知らないが予備エネルギーとして、ファイヤービーンズが使える仕様になっている。こいつを三十石に積み替えれば、特別な充電の心配なしに走り続けられる。」
柳緑は自分の腕をオートバイのエンジン部分に突き出すと、最初の敵を倒すのに使ったマニピュレーターのワイヤーを手首から放出して、解体作業を始めた。
「でもこういう改造バイクを見てると、つくづく人間の適応力って凄いなって思うよね。ファイヤービーンズだって、最近出回り始めたものだよ。」
「、、、その凄いはずの人間様の世界が、今はズタズタだ。多分、コラプスが起こらなくっても、俺達が住んでた国は、いや他もそうだろうが、早々に滅んでたさ。」
柳緑は取り外したエンジンとバッテリーを軽々と持ち上げた。
もちろんプロテクの力だ。
「さあ、行くぞ。コイツらだって、何時までもおねんねしてないだろうからな。」
柳緑はエンジンとバッテリーを両肩にそれぞれ担いで、カブへと戻った。
