辻咄 異郷の旅/ダラガン『エコーと共に異郷荒野で旅をする』 第7話
第7話【 友への手紙 】
「儂ら十五人は、始めは、あんたらみたいな旅の流れ者だった。皆、それなりの事情持ちだったって事だな。しかしどんな事にも終わりは来る。旅の目的を果たせた者、挫折した者。しかし皆、旅の魅力からは逃れられなかった。そこである人間が、、、つまりそれが、ポストマン一号なんだが。どうせなら、まだ旅に意義を感じて流れて歩いている人間達の為に、自分が役に立ってやりたいと考えた訳だな。それで見つけたのが、この郵便配達って仕事さ。このポストマン一号が、仲間を集めて現在の、人間側の郵便ネットワークを造り上げた。一号から十五号まで、それぞれ自分が長い間、彷徨ったエリアの知識を持っている。それを繋ぎ合わせて、郵便物を目的の場所まで運ぶって仕組みだ。」
話している間中でも男の顔からは笑みが絶えない。
しかし柳緑は違う。
これは只の"良い話"ではないと思っている。
『人間側って、どういう意味だ?お前らにはこの破綻世界を引き起こした側の存在が見えるってのか?』…柳緑には目の前の男がポロリと漏らした言葉の背景にあるものが想像出来なかった。
『それともこいつも又、コラプスキング等というヨタ話を信じているのか?そんな筈はないだろ…見たところ異郷の旅の辛さは骨身に染みて判っている筈なのだが、もう少し聞いてみるか。』…目の前の男に気を許し始めていた柳緑は、その場に座り込もうとする男と共に地面に腰を下ろした。
「それって、凄いよね。十五人の記憶や知識を集めたら、きっと凄い地図ができるんじゃない?」
花紅があどけなく会話に入って来る。
「凄い地図?いやいや、それは無理だよ、可愛い弟君。幻野はそんなに甘いもんじゃない。儂ら一人一人のポストマンが知っているコラプス世界は、そのほんの一部分にしかすぎないんだよ。」
「だったら、郵便配達とは言ってるけど、その中身は相当いい加減なもんだろ?俺達のやる旅と、そう変わらない筈だ。」
ここまで旅を続けてきた柳緑には、コラプス後の世界の苛烈さを嫌と言うほど判っているし、コラプスの複雑さも理解している。
その中で、郵便業務など成り立たつ筈がないと思っていた。
「そうだよ、否定はしないね。だから儂らは、一つの手紙を届けるのに命を張ってる。余裕でやれてる訳じゃない。手紙の差出人が、自分の故郷に手紙を送って、自分の故郷に帰ってきたら、そこから数ヶ月送れて我々ポストマンが、ようやくその手紙を配達できたって笑えない話もある。だが、それで文句を言った差出人は、今まで一人もいなかったがね。皆、旅の苦労を骨身に染みて知っている。」
柳緑はその言葉を聞き終わって、対物ライフルを元の場所に戻してから、再び男と向き合った。
「…話は大体判った。話はな。で、手紙一通の配達料金は、幾らだ?」
男は太い指を目一杯広げて、柳緑の前に突きだした。
「ファイヤービーンズ、5個。専用用紙、筆記用具付きだせ。そんなのを持ってる旅人は、まずいないからな。」
「、、、あんたら、たったファイヤービーンズ5個で、命をかけてるのか?」
男の言った事が、もし本当だったらそういう事だ。
「そうだ。儂らが運ぶのは手紙だからな。これでもふっかけてると思ってる。人の思いを、遠くの人間に運ぶんだ。それで、人が払えないような値段を付けてどうする?しかし、運ぶ我々も、楽な旅をするわけじゃない。これでギリギリだ。」
「登場した時から、馬鹿だろって思ってたけど、あんたほんとに馬鹿だ。」
柳緑が呆れたように言った。
「りゅうり が値段を聞いた!出すんだ?故郷に手紙をだすんだよね!りゅうり!」
そう嬉しげに言う花紅に柳緑は頷き、苦く笑った。
それが柳緑に出来る精一杯の強がりだった。
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我が良き友よ。
俺は、こんな事に慣れてないから、手紙の作法も何も知らない。
博学なお前からすると、お笑いなのかも知れないが、そこんところは我慢して読んでくれ。
俺は今、行けども行けども大草原っていう破綻地点にいる。
俺はここで、なんとイヌワシのつがいを、今日まででなんと4組も見てしまった。
とにかく、だだ広いんだ。
かと思うと、この前は山寺で狐みたいな化け物に騙されて酷い目にあった。
で、この狂った世界で手紙を運んでくれるっていう奇特な郵便屋に出会って、この手紙を書いてるって訳だ。
お前は別れ際に、『俺の想像力は、この三十石のサイドカーに乗って、柳緑と一緒に旅をしてるんだ』って言ってくれたけど、あれから随分経つな。
いくら頭の良いお前の想像力だって、そろそろバテてきた頃じゃないのか?
だから俺は、そんなお前に活を入れるために、この手紙を書いてる。
鍛冶屋の外は広いぞ!そして想像以上に、無茶苦茶だ。
俺には、訳の判らないことが多すぎて頭がパンクしそうだが、きっとお前がいたなら面白くて仕方がないと思うぞ。
俺がテロメア解を見つけて旅を終え鍛冶屋に帰ったら、又、元気になったお前を旅に誘うさ。
その頃には、お前の親父も、お袋も家に戻ってるかも知れないしな。
それともし、俺が外界で、お前の両親の情報を掴むような事があったら、俺がお前の代わりに、必ず二人を見つけ出して連れて帰ってやる。
だから家で、大人しくして待ってろ。
色々な事を楽しみにな!
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「おい!もう書けないじゃないか!?」
柳緑はサイドカーのボンネットの上に広げたハンカチのような布から目を外して、近くにいたポストマンに文句を言った。
その姿勢で、柳緑は今まで手紙を書いていたのだ。
白い布の表面には、もう余白がほとんど残っていなかった。
「そりゃ、あんたの字が大きすぎるんだよ。それに、思いのタケを手紙に全部書こうなんて思ったら、時間も紙も、幾つあっても足りないもんだ。でも、それで良い。それで充分、相手に伝わる。手紙ってのは、そういうものなんだよ。読んだ相手は、全員例外なく泣く。だから儂らは、この仕事が好きなんだ。」
「ちっ、一々、それらしい事を言いやがって。第一、これどうやって字を消すんだ。?ちょっと訂正したいとこがあるんだよ。」
柳緑が、料金込みだというペンを、ポストマンに突き出して言った。
「最初に言わなかったか?そのペンで一旦書いたものは、消せない、消えない。そういう紙とインクなんだよ。そして丈夫だ。これからその手紙は、このコラプス世界を旅するんだからな。判るだろ?さあ書けたなら、最後に署名をして、この筒に入れて、封印だ。どうせ、他人に読まれたら恥ずかしくって仕方ないような内容なんだろ?」
ポストマンは笑いながら、自分の肩に掛けていた革袋から、銀色の小さな筒を一本取り出して柳緑に手渡した。
「手紙を入れて蓋を閉めたら、その筒の表面に縦のつや消し部分があるだろ。そこに手紙を書いたそのペンで、宛先と、自分の名前を書いてくれ。それで手続きは終わりだ。」
「、、、こうか。」
柳緑がポストマンが言ったとおりの作業を終えた。
「普通に宛先を書いたぞ。俺の友人がいる鍛冶屋市の住所だ。こんなので、本当に届けられるのか?俺だって、ここから鍛冶屋に帰るとなりゃ、相当な覚悟がいる、それと苦難の道が待ってるんだぞ?」
柳緑がポストマンに、銀の筒を渡しながら言った。
「それを届けるんだよ。それが、儂らの仕事だ。」
ポストマンは、空の銀の筒が入っていた革鞄の反対側のポケットに柳緑からの筒を丁寧にしまった。
「、、なあ。その手紙を持ってアンタが俺の前から姿を消した後、アンタは道ばたでこっそり手紙を捨てる、、そんな事も出来るんだろ?」
柳緑の余計な疑いの一言だが、それがこの世界の常である事に間違いはなかった。
「ああ出来るさ。やろうと思えばな。さあ、ファイヤービーンズ、五つだ。出すのか、出さないのか?」
ポストマンは、こういうやり取りに慣れているのか、笑いながらそう言った。
「判ったよ。」
雷は首に掛けた革袋からファイヤービーンズを5つ取り出すと、それをポストマンに渡した。
「まかしておけ。この手紙は必ず儂らが送り届ける。それともし、あんたが他の人間にであったら、この幻野には便利な郵便屋がいるって宣伝しておいてくれ。頼むよ。」
柳緑は、何故かこの時、この前自分が倒した髭面男の事を思い出した。
もし奴が、このポストマンの存在を知っていて、自分の家族と手紙のやりとりをしていたらなら、奴の人生も少しは変わっていたのだろうか?と。
ポストマン3号は、登場した時のように、実に当たり前に、実に強引に、バギーに乗り込み立ち去ってしまった。
「いい人だったね。ああは言ったけど、ホントは りゅうり、あの人の事、信用したんでしょ?」
「、、、まあな。でもポストマンとやらが、この破綻地を抜けて本当に手紙を届けられられるかどうかは、又、別の話だがな。それは相当厳しい筈だ。、、それでも本人が、それに命をかけてるって言ったんだ、信じるしかないよな。俺は、手紙が、たとえ届かなくても、俺が奴に手紙を出したという事実だけで充分だと思ってるのさ。」
柳緑と花紅は、平原を走り去っていくポストマン3号の三輪バギーをしばらく見送っていた。
