【掌編】第一印象を売る自販機
今年の春入社した営業部の新人が、第一印象を売る自販機の前に立っていた。真面目、愛嬌、リッチ、清潔感、壮健など、多種多様な”第一印象”が売られている。
新人は缶を一本買い、こちらに小走りできた。
「お待たせしました先輩!」
男と新人は車に乗り、取引先へ向かった。
新人は助手席で、男が作った資料に目を通しながら、先ほど自販機で買った”頼りがいがある”の缶を飲んだ。
「それ、どうなんだ?」
「これですか?エナドリみたいな味です!」
「味じゃなくて、これから大事なプレゼンなのにそういうの飲んでいいのかって話だ」
営業部の人間が第一印象をドーピングする。お取引先様に対する敬意の欠如だ。そう言いたかったが、新人には伝わらないようだ。
「え?逆でしょ。大事なプレゼンだからこそ、しっかり第一印象固めておくんじゃないですか」
新人は自信ありげに言った。
「お取引先様に失礼だろう。第一印象というのは姿勢や話し方、服装や振る舞いで示し、どう感じていただくかをお相手様に委ねるものだ。プライベートじゃあるまいし、仕事の場でそんなズルみたいなもの使ってはダメだろう」
「スーツや靴だって自分に取り付けて印象作る道具じゃないですか。それにこれはあくまで香水みたいなものですよ。会社の規則に違反してないですし、つまり問題ないってことですよね?」
男は深くため息を吐いた。仕事を何だと思っているんだ。
努力や実績ではなく安易な手段で自分を良く見せる。そんなものを仕事に持ち込めば痛い目を見る。そう考えている自分に、ああ、俺も老害の仲間入りかと、自分にブレーキを掛けた。
*
取引先の希望で、お相手様の会社近くのカフェに二人は着いた。予定の15分前にテーブル席に着いて、到着の連絡を送った。
ややあって取引先の社員が二名到着した。片方は顔なじみの商品部部長、もう一人は若い新顔だ。おそらくこちらの新人と同期くらいの若手だろう。その若手をみて、ああ、と思った。
「お疲れ様ですS商事さん。こちら、今年の四月入社の新人で、もしご迷惑でなければ見学させていただければと」
取引先が切り出し、こちらも応じる。
「こちらこそ、うちの新人を連れてきておりまして、お顔見せがてら、勉強させていただければ幸いです」
新人を連れてきて見学させる、お互い様だと男は思った。もう一つの”お互い様”は一目で分かった。
取引先の若手は体躯が逞しく、スポーツ刈りで日焼けしている。ネクタイの結びが荒く、少し乱雑とさえ見えるのに、この若手がどうしようもなく”知的”に見えるのだ。
まるで頭の中の自分が、この男は賢明であると呼びかけているようだ。見た目の印象と第一印象がズレている。
彼が何の缶を買ったのか、おおよそ分かった。
そんな様子を察したのか、取引先は気まずそうに目を伏せる。隣の”頼もしい”新人を横目で見ながら、男も同じく申し訳ない顔をする。
どうやら俺も取引先様も、老害ではないようだ。
