【せりふ三題噺】サバンな会社
「なんか社長の実家が火山農家らしくて」
同僚の言葉で、そういえば会社の屋上に火山が生えていたことを思い出した。十階のビルの屋上にそびえる火山が熱気を吐き出していた。
私と同僚は込み合った社員食堂で昼食を選んでいる。
「火山を屋上に植え付けて、ビルの熱気と湿気を吸い取って上空に吐き出してるらしいんだよ。おかげで冷房が節約できてるらしいんだ」
同僚の言う通り、この社食に冷房は動いていない。それなのに冷たい風が天井から床に降っているのを感じる。
二人は開いている机を見つけ、席に着いた。私はオムライス、同僚はシマウマステーキだ。
「あ、シマウマで思い出したんだけど」
かつてS県でシマウマが大量発生したことがあった。異常気象により隣県から大移動してきた大群がS県に適応し、水や草木を食い尽くす勢いで増殖した。
その時我が社はシマウマを大量に捕獲し、餌付けして社用車や重機の代わりに活用したことがあった。
「シマウマ計画だっけ?そんなこともあったな」
同僚はステーキを齧りながら言った。社食のカウンターの方を見ると、S県がPRのために作ったキャラクター”シマウマ娘”がステーキを宣伝している。君はどんな気持ちでそのステーキを勧めているんだい?
「そうそう、馬力が強くて縄張り意識が弱く、亜熱帯のS県の気候に適した体質。でも餌を食べるのに時間がかかってほとんど働かないのよね」
「お前が世話してた風鈴丸、役員の送迎があるのに水飲んでて動かなかったよな」
「きっと毎日喉乾いてたんだよね。乾燥地帯出身の子だし、走行中の糞の処理も大変で——」
「おい、食事中」
「はいはい失礼」
結局大量発生したシマウマは食べて減らした。シマウマという潤沢な馬力資源を事業に活かせると、シマウマ計画に参加したのだ。しかし結局シマウマは勝ち馬ではなかった。
「ここ空いているかしら?」
私の隣に掛けようとする声があった。声の主を見て驚いた。
「し、社長!?」
カーキ色のスラックスに半袖の白シャツ、長身で褐色肌、凛々しくて気骨に満ちた女社長が隣にいた。
「ど、どうぞ」
「失礼するわ、ほんとに混むわねこの時間」
私の隣に社長が座る。同僚もフォークを置いて深く頭を下げる。社長のお盆には、一杯の水と見慣れない何かが皿に乗っていた。
リンゴくらいの丸いもので、岩のようなザラザラした表面、中央にヘタの付いた果物にも見えるが、いったい何なのだろうか。
「社長、それは何ですか?」
私は恐れながら聞いてみたら、社長はフォークとナイフで切り分けて一口分の欠片を私と同僚に分けてくれた。
「ちょうど感想を聞きたかったの。味わってみて」
切り分けられたそれを口に運ぶと、肉と果物の中間のような触感がした。味は肉に近い、しかし脂の代わりにサラサラした果汁が零れる。不思議な食べ物に、私と同僚は目を丸くする。
「これはね、火山の実よ」
「火山の実?」
社長はリンゴでも齧るように火山の実を丸ごと齧る。
「会社の屋上に火山を植えたでしょ?あれが実を実らせたの」
「火山って、実を作るんですか?」
農作物の知識に疎い私でも、火山は畑で作るものであって果樹ではないことは知っている。火山は地中に網のような根を張り、芋のように火山の赤ちゃんを地中に残すのだ。
「火山は条件しだいで実を作ることが分かったの。それに私が植えたのは親戚が品種改良した物でね、ビルの熱気と湿気を炭水同化し、肉に匹敵する栄養の塊を作る」
ということは、私も同僚も自分の食事を忘れて社長の話に聞き入っていた。
「とはいえ肉じゃないから、ヒトはもちろん草食動物でも食べれる。これ以上ない飼料よ。言っている意味が分かるかしら?」
「じゃあ、風鈴丸は…!」
「もし飼い主の貴女が許してくれたら、再び我が社で働いてほしいわ」
私は即答した。あの子の背で夏の涼風を感じる、そんな仕事を再開できる。胸が躍った。
*
やがて会社は火山を用いたゼロコスト冷房の設置と販売、そして火山の実で新事業を立ち上げた。商品の運搬は風鈴丸を始めとするシマウマたちを登用。
環境に配慮された事業につき公的援助金が手に入り、県のシマウマ娘の宣伝効果も相乗的に向上。会社はみるみる潤っていった。
私はやはり勝ち馬に乗っていた、いや、この子を勝ち馬にする努力を会社がしてくれた。私は風鈴丸の背に乗って、得意先から帰社している。
ビル群のてっぺんに大小の火山が植えられ、夏の熱気を盛んに空に逃がしている。シマウマに乗って闊歩するビジネスマンたち。これがS県の日常である。
そんなS県がどこにあるかって?
「調べないほうがいいよ」
■セリフ
「喉乾いてたんだよね」
■三題
・火山
・シマウマ
・風鈴
▼参加させていただいた企画
