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【せりふ三題噺】藤の下の入社式

  四月×日、正午。県立公園にて、県内最大の広さの藤棚の下で、D坂は文庫本を読みながら待機していた。藤棚の下には木製の長ベンチが並んであり、花の香を楽しみながら休憩できる。
 県立公園の中央に小高い丘があり、その丘の冠を飾るように藤の花が広がっている。

 ややあってサンダルの足音が迫り、D坂は呼ばれた。

「おう、D坂。今日もお前が一番乗りか」

「お疲れ様です。人事部長」

 恰幅のいい人事部長が階段を上ってきた。

「さて、新米たちは集まっているか?」

「分かりやすく来るとは思えません。条件が条件ですから」

 弊社の入社式は二種類ある。本社に集まって行う通常の入社式。もう片方は、毎年恒例の——。

「おっと」

 D坂は手にしていた文庫本で飛来する何かを白羽取りした。鋭い矢だった。

「ナイスD坂」

「部長、うしろ」

 紺のスーツを着た新入社員が鎌を振りかざして部長の首を狙う。しかし部長は日焼け止めの蓋を取るついでに裏拳で阻止。クリームを塗りながら足払いで新入社員を転がす。

 毎年恒例、人事部長を倒したらボーナス貰える入社式。今年の希望者は新入社員の約四割。去年より集まっている。

「ほらほら頑張れ!そう、いいぞ!もう一回!」

「楽しんでますね部長」

 通りかかった老夫婦が「今年も元気ねぇ」と微笑むので、D坂は軽く会釈する。
 まさに七転八倒。スーツを着た若芽たちが汗にまみれながら部長に挑み続け、投げられたり飛ばされたりしている。

「はぁ、はぁ、もう駄目…」

 女子社員の一人が長椅子に座った。D坂は彼女にハンディファンを差し出す。

「お疲れ様」

「あ、お疲れ様です。えっと、先輩」

「D坂、よろしくね」

 D坂は名乗った。そして彼女はD坂に問うた。

「あの、本当なんですか?ここで部長を倒せば、社内でなんでも叶うって」

「うーん、ここだけの話だよ

 D坂は彼女の耳元で囁いた。

「あたし入社式で部長に勝って、オフィスで猫を飼うことを許してくれたの。今は7匹いる」

 新入社員は彼女を見つめて目を丸くした。

「じゃあ、ホームページで見た猫オフィスって」

 D坂は指を唇に当てて言葉を制した。

「私、リトライします!」

 新入社員はハンディファンをD坂に返し、一礼して部長の死角を狙いに行った。

「若いっていいわねぇ」

 D坂は藤の香りに笑みをこぼした。二本目の流れ矢は素手で止めた。


▼参加させていただいた企画

#せりふ三題噺
#サンダル日焼け止め藤棚

感想:なんやこれ。

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