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ラージャ、デパートへ行く #童話

ユミは今日、どうぶつえんに来ています。お母さんがトイレへ行っているあいだに、ユミはラージャのおりへ戻りました。

ラージャは先月、インドのジャングルからこのどうぶつえんへ来たばかりの、若いオスのトラです。ネコが大好きなユミは、大きなトラネコみたいなラージャに、どうしてももういちど会いたかったのです。

ラージャったら、大きなあくびをしたあと床にごろんところがって、くねくねして、本当に大きなネコみたいにかわいい。

ユミがじっとみていると、ラージャと目が合いました。

「そこのおじょうさん。その小さい手なら、さくに入れるだろう。とびらのかんぬきを外してくれないかい。自分でもなんどもためしたけど、外せないんだ」

おどろいたことに、ラージャがしゃべりかけてきたのでした。

「こんな小さいおりに閉じこめられて、きゅうくつだ。ぼくは、あの建物のてっぺんでくるくる回っているあれに、乗ってみたい」

どうぶつえんの前にデパートがあり、その屋上でかんらんしゃが回っていました。

「トラをおりの外に出すなんて、だめよ」
「だれもおそったりしないよ。おねがいだ」

たしかにジャングル生まれのラージャには、このおりはきゅうくつでしょう。ユミはラージャがかわいそうになり、さくに手を入れてかんぬきを外してあげました。そうっととびらをおして、ラージャが出てきました。

「きゃあああ」

まわりのお客さんがおどろいて逃げ出しました。ラージャとユミは走ってどうぶつえんの外に出ました。歩道にも人がたくさんいましたが、ラージャのすがたをみて、ちりぢりに走り去っていきました。

ラージャとユミはデパートに入りました。さわぎを聞きつけたのか、人っ子一人いません。

「お。下からとてもいいにおいがする」

ラージャがかいだんを下りていきます。ユミも後を追いました。そこは食品売りばで、食べ物のおいしそうなにおいに満ちていました。

「あの黄色くて平べったいものはなんだ」

近づくと、お肉屋さんのトンカツが山もりになっています。ラージャは大きな口でトンカツをがつがつ食べはじめました。

「ラージャ、こっちにはコロッケもあるよ」

ユミはいけないこととわかっていましたが、だれもいないし、トンカツやコロッケがあんまりおいしそうなので、ラージャといっしょになってがつがつ食べました。

お肉屋さんを出て少し歩くと、今度は甘いにおいがただよってきます。ケーキ屋さんの店先に、いちごとクリームがたっぷり乗ったケーキが置かれていました。

ラージャとユミは、えんりょなくケーキもがつがつ食べました。

「君たちはいつも、こんなうまいものを食っているのかい?」
「うん。だけど、デパートのはいつも食べてるのより、ずっとおいしいよ」

おなかいっぱいになったラージャとユミは、屋上に行きました。ここにもだれもいません。じどううんてんのかんらんしゃだけが回りつづけており、人がおりた後のゴンドラのとびらが開いていました。ラージャとユミはそれに乗りこみました。

ゴンドラがゆっくりとのぼっていきます。ゴンドラがてっぺんに着くちょうどその時、山のむこうに夕日がかくれようとしていました。

「わあ、きれいな夕日ね」
「ジャングルの夕日の方が、ずうっと大きくてきれいだよ」
「ラージャ、ジャングルにかえりたい?」
「かえりたいけど、まあ、いいさ」

ラージャが少しさびしそうな顔をしました。

「さあ、遊びはおわりだ。おりに戻ろう」

ラージャとユミは来た道を引きかえし、おりの前に着きました。

「ラージャ、たのしかった。また、来るね」
「おじょうさん。今日はありがとうな」

そのとき、バアン、と大きな音がして、ラージャがたおれました。白目をむき、口から泡をふいています。

「ラージャ、ラージャ!」

わめきながら、ユミはラージャにおおいかぶさりました。そこへ、お母さんと銃を手にしたおまわりさんが走ってきました。

「ユミ! ああ、ぶじでよかった!」
「ユミちゃん、ケガはないかい?」

二人をふりはらい、ユミは泣き叫びました。

「撃つなんてひどいよ! 私はラージャと遊んでいただけなのに!」

その時、お母さんがあっと声を上げました。よこたわったラージャの傷から、血ではなく、黄色い液体が流れ出ています。そうして、そこからバターのいいにおいがするのです。

みなの目の前で、ラージャがとけて、みるみるうちにバターの海に変わっていきました。

「バターをすくって、早く!」

そばにいた全員でバケツにバターをすくうと、なんと八十杯ぶんにもなりました。ユミとお母さんは、バケツをデパートの食品売りばへ持っていきました。

「これで、おいしいトンカツやケーキを作ってください」
「これは、草のかおりがする上等のバターだ」

店の主人たちはよろこんで、バターになったラージャで揚げものやおかしをたくさん作りました。それはとてもおいしくて、お客さんたちはわれさきにと買っていきました。

「ラージャ、とびらを開けてしまったせいで、ごめんね。ジャングルには帰れなかったけど、みんな、おいしいってよろこんでるよ」

ラージャを撃ったおまわりさんも、奥さんのために、ラージャのトンカツやケーキをたくさん買いました。

「トラは死してバターを残すって、本当だね」