第十五話 「今日の一打」
今日の一打
未来のことを考える日もある。
72歳。
エージシュート。
―――
だが、彼は知っている。
それは、
今日の一打とは関係がない。
―――
どれだけ先を思い描いても、
変わるのは、
目の前の一打だけだ。
―――
ある日のラウンド。
特別な日ではない。
スコアも意識していない。
―――
ただ、
一打一打を打っていく。
―――
ドライバー。
振りすぎない。
―――
フェアウェイ。
―――
アイアン。
ピンは見ない。
―――
グリーン中央。
―――
パター。
距離だけを見る。
―――
2パット。
―――
それだけ。
―――
次のホールも同じ。
―――
何も変わらない。
―――
だがそれが、
すべてだった。
―――
彼は思う。
未来は、
積み重ねでしかない。
―――
特別な一日があるわけではない。
―――
特別にする必要もない。
―――
今日の一打。
―――
それをどう扱うか。
―――
それだけで、
未来は決まっていく。
―――
ミスをする日もある。
―――
だが、それも一打。
―――
ナイスショットも、
同じ一打。
―――
すべては等価。
―――
だから、
特別にしない。
―――
ただ、
丁寧に扱う。
―――
それだけでいい。
―――
ラウンドの途中。
ふと空を見上げる。
―――
風が吹いている。
―――
何も変わらない。
―――
ゴルフも、
同じだと思った。
―――
外の状況は、
どうにもならない。
―――
変えられるのは、
自分の一打だけ。
―――
だから彼は、
今日も打つ。
―――
未来のためではない。
―――
誰かのためでもない。
―――
ただ、
この一打のために。
―――
静かに。
確実に。
―――
それが、
彼のゴルフだった。
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