14番H その日のイメージ
彼は、まだ見ぬ一日を思い描くことがあります。
―――
72歳。
その年齢で、
自分のスコアを超える。
―――
エージシュート。
―――
ですが不思議と、
その言葉に強い高揚感はありません。
―――
どこか静かで、
当たり前のような感覚でした。
―――
「いつか、そうなるだろう」
―――
そんな距離感です。
―――
ある日の帰り道。
ふと、
その日のことを想像してみました。
―――
朝は、いつも通り。
特別な準備もありません。
―――
少し早く起きて、
静かな時間を過ごします。
―――
コースへ向かう道でも、
特に何かを考えるわけではありません。
―――
ただ、
今日もゴルフをする。
―――
それだけです。
―――
スタートホール。
ドライバーは振りすぎません。
―――
フェアウェイへ運ぶ。
―――
アイアンでは、
ピンを狙いすぎない。
―――
グリーン中央。
―――
パー。
―――
特別なことではありません。
いつも通りです。
―――
その繰り返し。
―――
もちろん、
ミスも出ます。
―――
ですが、
広げません。
―――
ボギーで止める。
―――
パーもあります。
―――
ですが、
追いかけません。
―――
ただ、
一打一打を重ねていく。
―――
気がつけば、
終盤。
―――
スコアは、
意識しません。
―――
見ません。
―――
ただ、
いつも通り。
―――
最終ホール。
―――
何も変わりません。
―――
最後のパット。
―――
静かに打つ。
―――
カップイン。
―――
そこで初めて、
少しだけ確認します。
―――
年齢と、スコア。
―――
同じか、
それ以下か。
―――
彼は、
たぶん笑いません。
―――
ガッツポーズもしないでしょう。
―――
ただ、
少しだけ頷く。
―――
「そうか」
―――
それだけです。
―――
そして、
また次のラウンドへ向かう。
―――
何も変わらない顔で。
―――
ですが一つだけ、
確かなものを持って。
―――
彼は知っています。
その一日は、
特別な一日ではない。
―――
これまでの、
すべての積み重ねの結果なのだと。
―――
だからこそ、
特別にする必要はない。
―――
ただ、
そこにあるだけでいい。
―――
その日のイメージは、
静かに、
ですが確実に、
彼の中に存在していました。
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