【短編小説】作家の無駄遣い
あらすじ
AIの台頭により、作家である私は危機感を覚えていた
これまで無駄を嫌い、依頼された確実な仕事しかして来なかったが
一念発起して読まれる見込みのないオリジナル作品に着手する
本編
「作家など使い捨てだ」
それはもちろん、わかっている
私には才能などないことも、言われなくとも、わかっている
しかし、いくら何でも適材適所というものがあるだろう…
例えば、私は今レストランで、午前中から女性編集者の愚痴を聞かせられている
どうやら彼女は、子どもが通う学校やその親と揉めているらしい
また、それを夫に相談した際に、家庭内にも火種が飛んだという話だ
実にどうでもいい…
ここには、私にとって、何の創造性もない
なにしろ、私は話をまったく聞いてはおらず、ただただ相槌を打っているのだから
下手に意見など言おうものなら、こちらにも飛び火する可能性が高い
編集者の彼女とは長い付き合いだったが、
今日のような打ち合わせの席で仕事の話は、1割にも満たない
ほとんどの時間は彼女の日頃の愚痴に付き合うだけに消耗される
日頃、人付き合いもなく会話下手な私のような存在は、
噂を広める危険性もなく、安全だと彼女は考えているようだ
従順な”赤べこ”のような壁打ち相手は、実に都合が良いだろう
給料をもらい、食事代も会社持ちで、好きなだけ愚痴を言い放題な時間
彼女はこれを作家との“1on1ミーティング”と称しているのだと、いつかの忘年会で別の作家から聞いたことがある
もちろん私はそれを受け入れる
作家など他にいくらでもいるのだ
創造性はなくとも、このような関係作り自体には意味がある
故に、今日も私はヘラヘラと笑い、彼女が語尾を強めたタイミングを見計らって頷いてみせる
それだけで、この“1on1ミーティング”は充実したコミュニケーションを行なったことになるようなのだ
私自身、今ではそういうルールの”耐久ゲーム”だと思っている
しかし、そのように理解しても、私にとって、そう割り切ることは大変な事だった
私は意味を感じない事を続けられない性分だった
無駄時間だと考えてしまうと、やる気が起こらず、向上心が生まれない
「何も考えなければ、いいんだよ」
というありがたい教えをもらったこともある
しかし、そんなことが器用にできる人間であれば、今のような不安定な職業になどついていないだろう
源泉ないところから無理やり湯水を引き上げるには実に多くのエネルギーを要するのだ
よって、いつまでも”コツ”を見出すことができず、“ゲーム“は上達せずに、私はいつも曖昧な表情とタイミングが合わない相槌を繰り返してしまう
しかし、昨今のAI技術の台頭によりこのような仕事(?)すら無くなるかもしれない
なにしろAIならば時間も場所も選ばず、文句も言わずに長時間の会話にいくらでも付き合ってくれるのだから
相手の顔を好みのイケメン俳優にでもすれば、さぞ充実な時間を送れるだろう
彼女が私に仕事をくれるのは、既に習慣となっているこの時間が持てるというメリットがあるからに違いない
なぜなら、作家の代わりも、聞き役もいくらでもいるのだから
ネガティブすぎる考えだろうか?
しかし、私はそうは捉えていない
故に、私は今日もここで彼女のゲームに参加し、無駄時間を消費している
断れば人間関係にヒビが入る可能性がある
人間関係にヒビが入れば、仕事を失うかもしれない
そんなバッドエンドは避けなければならなかった
しかし、よくよく考えてみれば、
私がしがみ付くこの作家としての仕事すらAIの台頭により…
コホン!
…まったく
グルグルと同じような思考の繰り返しもまた、無駄ではないか
私は、考えを切り替えることにした
きっと、今の私にとっては、
”ブレークスルー”となるような
何かウルトラC級のアイデアや突破口が必要なようだ
そこで私は、
自身のオリジナル作品に取り掛かる決意をした
原稿料も入らなければ、読んでくれる人がいるかもわからない
これが何かにつながれば良いのだが…
そんな希望も打ち砕かれ、無駄に終わる可能性も高い
まさに、ギャンブルだ
私はギャンブルには、一切手を出さない
あのような行為は人生の無駄遣い以外の何ものでもない
よって、これまでは利益が確定した案件しか引き受けることはなかった
オリジナル作品の制作については、これまで何度も考えたことがあるものの、挑戦した経験はない
”道は安全でなければならない”
”可能性は常に100%、確実でなければならない”
というのが私の信条だった
しかし、安全な選択を続けていたはずの私の前の道は、なぜかどんどん狭くなり、今では綱渡のような細さとなっている
私は気づくのが遅すぎた…
現状を打破するには、無駄に終わる可能性があっても、BETする(賭ける)しかない
オリジナル作品の制作は私にとって
人生をかけた、人生初のギャンブルだった
…しかし
いざオリジナル作品を書こうにもアイデアが浮かばない
私は既に女性編集者が去ったレストランから場所を変え、気分を切り替えることにした
次に向かったのはレストランの近所にあったカラオケボックス
意外に仕事でも使えると、知り合いの作家から聞いていたのだが、
隣の部屋の歌声や歓声が気になって私には集中できなかった
私はカラオケボックスを出て、喫茶店に入った
香りのいいコーヒーと、大好きなチョコレートケーキのセットを頼んだ
しかし、アイデアは浮かばず、原稿は真っ白のまま
次に本屋へ向かった
何かしらの新鮮な情報を得られれば、アイデアが浮かぶのではと考えたのだ
しかし、別の作家が書いた作品を一気にあとがきまで読み切ってしまう
焦燥感を得ただけで、小一時間をあっという間に無駄に使ってしまった
それからも電車に乗り、タクシーに乗り、ついには飛行機にまで乗って移動と思考を繰り返した
明確な行き先もないまま、様々な場所で新しい刺激を求めに求めた
見て、聞いて、食って、飲んで、移動して、寝る…
ひらすらこれらを繰り返すだけの時間を続けた
すると、ある日
私の頭に革新的なアイデアが浮かび上がる
私は、すぐ帰路につき、数日間引き篭もって長編作品を書き上げた
そして、それを“NOTE“というサイトで投稿してみる
投稿から1週間
まだ“ハート“はつかない
なお、私の作品ができるまでの”無駄遣い”は以下の通り
<費用>
- 交通費:約40,000円
- 宿泊費:約50,000円
- 食費:約20,000円
- 観光費:約20,000円
<時間>
- 移動時間:約10時間
- 宿泊時間:72時間
- 散歩時間:約8時間
<エネルギー>
- 飛行機:約300MJ(燃料消費量)
- 新幹線:約 50,000kWh(電力消費量)
- タクシー:約200MJ(燃料消費量)
- 宿泊施設:約1,000kWh(電力消費量)
おわり
最後までお読みいただきありがとうございました!
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