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曼殊沙華は恋をする【毎週ショートショートnote】

その人はいつも独りきりで現れた。まだ若い男性だ。
古ぼけた手桶の水を柄杓ですくい、丹念にかける。生気の残る花を惜しげもなく抜き取り、新しい花に取り替える。
細かに震える手を合わせ、こうべを垂れる姿は哀れで、息を呑むほどに切なげだ。私はひとめで心を奪われた。

「梨香子……どうして僕を置いて……」

汚れるのも構わず石畳の上に膝をつき、頬にはとめどなく涙が光る。
秋の初めの風が前髪を払うその横顔はあまりに美しく、私は彼の髪を撫でたその風にうっとりと身を委ねた。

ああ、どうか次の秋まで彼女を想い続けて。
あなたの心に哀しみが宿る限り、私たちはまた逢えるのだから。



「梨香子、来たよ……早いねえ、もうあれから1年経つんだ……」

1年ぶりに見る彼は、少し痩せたようだ。

「ああ、ヒガンバナがたくさん咲いてるね。ちょうど命日がお彼岸だもんな。去年は気づかなかった……梨香子にも見えるかい? すごく綺麗だよ」

彼の視線が花弁を撫でる悦びに、私は恍惚として紅く燃え上がる。
あなたはかすかに微笑んだ。愛する彼女が地の下で私の放つ毒に侵されていることを知らぬまま。

(452字)


【あとがき】
たまには真面目に書いてみました(笑) 
ただいま「狂気」を描く練習中なんですが、なかなか難しいものですね。
それにしても曼沙華と曼沙華、どちらが正しいのかよく判りません💦

*この記事は、以下の企画に参加しております。


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