りんご右折【毎週ショートショートnote】
「次、右折な」
助手席の誠の声に、俺はウィンカーを出して流れるように右折車線へ入った。
「よかった、右折信号のある交差点で……って、何あれ!」
右折待ちに並んだ俺は思わず声を上げた。
通常、青い矢印の右折信号は、信号機本体の右下にある。
だが目の前の信号からぶら下がっているのは……
「あれ、りんごじゃん!」
「あ、ここ『りんご右折』だから」
誠は澄ました顔で言った。
「ああ、大樹は知らないか。この辺では珍しくないよ。あれが生ってる間は赤なんだ。落ちたら右折可」
あり得ん。
「いくらおまえの地元がりんごの産地だからって、信号からりんごが生るか? しかもでかいぞ」
「それもあるけど、地名がな」
「地名?『新富町』だろ?」
「いや、『しんとみちょう』じゃないの、ここ」
その時ぷちりとりんごが離れ、俺は反射的にアクセルを踏んだ。
――どこんっ!!!
突然、車の屋根に鈍い音が響く。
「あーあ、当たりやがった。やっぱ他所モンは鈍くさいな。地元の奴ならうまく避けるのによ」
「そもそもなんで信号からりんごが落ちてくんだよっ!!!」
誠は呆れたように肩をすくめた。
「だからこの町は『新富』なんだってば」
(477字)
【あとがき】
”とん” って意外に少ない音なんですよね。
いかにも的な当て字も面白くないな、と思っていろいろ変換してたら「富田林」を見つけたので、しめしめとばかりに採用しました。
でも実際に信号からリンゴが生っては落ちる、を繰り返してたら面白いですね。今年はリンゴが(も)高かったなあ……(遠い目)
*この記事は、以下の企画に参加しております。
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