月夜の寝ぐせ【毎週ショートショートnote】
仔ぎつねは母親を知らない。
乳の味を覚える前に、母親が巣穴へ戻らなくなったのだ。崖から落ちたか、熊にやられたのか。母親を求めて啼くきょうだいたちも、一匹、また一匹と動かなくなっていく。
仔ぎつねは、こやんと小さく啼いた。とにかくお腹が空いていた。
「腹が減ってるのかい」
ふいに落ちてきた声の主は、空の月。
「可哀想に。せめておまえの毛が私と同じ色になる日まで、生きる術を教えてあげよう」
水のありか。餌の獲り方。天敵の存在。
晴れた晩を心待ちにするうちに、黒っぽかった仔ぎつねの毛並みは、いつしか金色になっていた。どうやら別れの時が来たようだ。
だが今夜も空は厚い雲に覆われている。
諦めきれずに暗い空を見上げていると、やがてもやもやした雲の隙間から月がうっすら顔を出した。
「久しぶり――ふむ、いい色になったね」
仔ぎつねは、すんと鼻をすすった。
「泣いてるのかい」
「違うよ。星っくずが目に入っただけさ」
ふふ、と月が笑うと、雲がゆらゆらと漂った。
「お月様に絡まってる雲、寝ぐせみたいだ」
「おや、そんな口を利くようになったか――達者で暮らせよ」
澄んだ狐の鳴き声が、こやんと高く夜の空を昇っていった。
(488字)
【あとがき】
きつねは生後半年ほどで独り立ちするんだそうです。大変。
エブリスタ・妄コン 『振り返る』の締切が日曜だったので、毎ショに出遅れてしまいました。今週は「ポエマーたらはさん」の登場。意表を突かれて秋しば大苦戦でした(笑)
よかったらエブリスタの方もお運びいただけたら嬉しいです!!
*この記事は、以下の企画に参加しております。
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