見出し画像

「くどううたへ宛てて」(詩群)

赤い猫

赤い猫はきちんと座る
まるい尻をおさめて
しっぽをくるめて

にゃあ

信じているものは赤
その瞳を物語る
目は痛みを吸い取って

にゃあ

赤い猫の尻がむずりとうごく


かがやき

青はまどうことを知らない
青はまじりあうことがないと言いながら
濃淡だけで会話する

植物が香り立つ
静かな犬の鼻が満ちた朝をうがつ
青は流れるものに似ていく

ひとつ
しずくより濃い港
朝へ染みる空は広く


まどろむ

かくれんぼ
猫の勝ち
先を揺らす草
鳴らす毛並み
陽向のはメロディー
土の匂い
うとうとと額を撫でる風
かみさま
おやすみなさい


金よ繁れ

その金色はつよくうねる
たちまちに伸びる
うつくしい原を彩る
またたくまの夢
覚まされる山里
意気地を試されている
ひかりだす緑
小さな虫たちも織り成していく


いのち

手を組んで
輪を築き
その名を編んで
ためらいを沈め
輝きに満ちたよう
うつつのまたたきは
示されてつかまえられる


二羽よ

風は速い
ありったけの押し込めを叫ぶ
その翼の自由が
足りないものか 満ちたものか
心より迎えるべきものか

そんなことは知らぬ
満たぬ
軽く
重い身のひとはばたきで行く

照る一点 暗く眼に沈む


犬は目をひらき

あなたには本がある
ひらけたうつくしい頭の虚がある
ありあまり遠くへと伸びる愛が灯る

ほんらい翼の自由も重さもあったのかもしれない
君よ ほら
うるんだ瞳に鳴いておくれ


植物

待てぬものがある
ああ 得てきたものの
ああ 湧き出るものへ
たきつけられる両手
はらいあう両手
さらさらと歩かせる 先鋭をそよがせる


天使

右を撃てば 嵐が割れ
右を飛べば 兵士の泪がこぼれる


天使

並列に
並列に
正しさから重たさをとりはらう

並列に
並列に
魂を軽くして舞いひらいている


天使

耳を持った
まだもともとの声をきかない

天使
耳を裂く日を待つよりなく祈る


天使

足場が溜まっていく

行くべきの
浮くべきの

あらたな翼の あかるさに
ひらめいている あかるさに


天使

若い
まだ焦がれる器に
まだ羽をむずがる
背を伸ばす

若い天使


天使

あの地へは
誰の足が浸される

あの地へは
この足も浸るべきだ

あきらめている幾多の声に
先だって


みどりの緑

あれはそう
あれはそう
たぎられた渦

あれはもう
どうしたって
かたどるための秘密の棺

生きることは次第に分かれてゆく
生きることはとうとつに去られてゆく

あなたは正しいと在れるひとの方
あなたとは別れて生きるこの身の辛さ

緑が生きる糧に揺れる


ねこ

青いな
と 猫が云う

青いな
と 猫も云う

云いながら
光る水面のなめらかさを放つ

青いな
青いな
そして時折り白く光る


あなたは可愛く咲くよ
そっとは無理よ
あなたは真っ赤
世界は未だそのひとかけらに平伏したがることを
知らない


黒猫

くるくると黒い
くるくると黒い

前を向き
そっと顔を出し
そっぽを向いて
丸い尻尾を巻き付けている

くるくると黒い
明るさに溶ける
猫の肌がとける


とり

低く鳴く
あらたまる空を向く
うた声をまるく
たまらずにあける空気に
ひたらせようとする
色に引き寄せて突き抜ける


犬は白く

犬は向く
あなたが 指す

犬はくいと向く
一線を向く

犬が向く
ひとすじの辛苦を惜しまない


てんてん

てんてん
白は
てんてん
白は

白は与えられる
白はむかえられる

てんてんと
白は
さだめ ひとつに
降ってくる


黒々と

黒い影が
静かに揺れる

ほろほろと
沈んでゆくよ

黒い河にうつる
細々として 生きる草先にしたる


白く流れ

流れる
流れてゆく
せせらぎにうたう

流れる
流れてまつりあう
さささりと流れとう


月と犬

半月よりまるい
あてがなくうつくしい
姿なく恋しい

犬は哭いて
赤子も鳴らす


赤の穂

垂れた穂を
口でうける
あなたの前触れ
頬 染める
あたらしい眺め
あめあらしを望みこむ


白と草

枯れてゆくのに
白は晴れ晴れ

剥がれて まみれてゆくのに
白は晴れ晴れ


黒い犬

黒色の犬
向こうを耕す

黒色の犬
つややぐ瞳は虚にこもる

黒々とした犬の
うつむかんばかりの重い耳 悟る


上へ咲く草

伸びてゆく
あらあ
雨が
めぐみを
うたったのね

咲いていく
あらあ
灯る
秘密が
照らされて 揺らぐ


白い蝶

ひらく
ひらく
ひらひらと
ひらめいて
ひとめといて

ひらく
ひらく
ひとときの
ひたむきは
ひきとめず

ひらく


あたらしい

あたらしい
のみこんだ
あつめこんだ
吐き出した虚は
手をすくいだす
みどり


赤い猫

まるく猫が
まるくなる

さまよえない猫のこと
陽の与えられた恵みのこと
闇でこらえる咳込み

まるいまるい
とめどない愛の至りの猫


三つの黒は鳥

つづく
つづくこと

つづく
つづくこと

翼が折れる
外を切り裂いて

黒い切っ先
そろえるのは命


かえす

そっと波がうたう
きこえる
さらさらとゆれる

そっと水面が寄せる
きこえる
ひたひた返す


とん、とん、とん

黒が
とんと
現れて

とんと
黒が
あがって

現れる
とん とん とん


白い空

咲いている

咲いている

ものほしい空

咲いている

咲いている

のぞき込む空

咲いている

咲いている

うつりこむ空



あなたにともり
おとす

ほろん

あなたに もたれ
よせる

ほろと

はあ


赤い鳥

咲くように飛んでいく
しなやかに

赤々とした流れが見える
しとやかに

足りることを腹にこめ
とびちってゆく


草々、黒

君が
ゆれる

夏の影の
ほとり

君が
ふれる

あたりは明るく
闇に濡れている



ときめき

火花がしずかに胸に咲いていくのを
待っていたのかもしれない

遠く遠く
鳴いていた私のうたが冷めていくより先に

両手があった

見せてあげよう

両手の火花は放たれていく


こもれび

ほころんでいく風
並べられていく道
そっとささやかれる香り
草を分け入っていくうちに
あなたは受け入れた
去っていっても影のぬくもりを留めた光
ひとつにうもれていく花
ここがあたたかだったと耳は覚えた


ただよう

うたわれてゆくことよ
さいさきを祈る
どこまでも透明は広がり
とどまることのできない性を揺らす

あなたが連なれるのは
ときのとらわれないとばり
ありありと光る
わたしの胸の貝はそっと両手に宿っている




いつまでも心惹かれる画家のくどううたさんへ


いいなと思ったら応援しよう!