第304回: にしさんの教え
≡ はじめに
連載「ALTAのテキストをつくろう」を1回お休みして、今週は、2024/10/18に発売したばかりの『にしさんの教え』という本の紹介をします。
ASTERの理事長だった西康晴氏がお亡くなりになったのは、一年前の2023年10月18日のことです。
私がnoteに思い出話を書いたのは翌月の11月12日と19日でした。
その時に、『あ、にしさんのテクい話が思い出せない。やばい!』と思ったんです。
「テスト観点の整理の仕方」とか、「テスト観点を中心に据えたテスト開発」といった断片的な知識はあるとしても、それすらどんどん忘れていくばかりだと焦りました。
しかも、「にしさんのパワポ(講演資料)はたくさんあっても、にしさんのワード(論文)は少ない」と思い込んでいました。
本書の業績一覧を見ますと、論文もたくさんあることが分かります。
「スライドだけでは、話者の考えは伝わらない」というK2氏(岸田孝一氏)の言葉が脳裏をかすめ「やばっ。やばいっー!」と思ったものの、日々の雑事に追われ、すっかり忘れていました。
そのことを思い出したのは、2024年2月29日のことです。
「そろそろASTER教育事業の2024年度の活動計画をたてろやコラ」(意訳)というSlackの超ありがたい書き込みを眺めて、「そうだ、本をつくりたい」って思って活動計画リストに書き込んだのがこれです。
にしさんの知見をまとめた同人誌の発行(散逸する前に。記憶に残っているうちに。みなの記憶)。テクいやつ『にしさんに教えてもらったこと』(仮称)です。
こういうのができたらいいなーって願望。でも、願望は、くちに出さないとね。
追悼本?と聞かれることがあります。
もちろん、生前のにしさんを偲ぶ要素も大切なことと思います。でも、悼み悲しむだけではなく、読んだら、気持ちも技術も一歩前に進む本にしたいと思いました。
石川馨先生の「人間石川馨と品質管理」のように、エピソード集にするというのもありかなと思ったのですが、今を生きる技術者の役に立つ本にするほうを、にしさんは望まれるような気がしたのです。
そこで、「生前のエピソードよりも、にしさんから教わった技術を中心に置いた本」というコンセプトにしたいと、寄稿者に無理なお願いをしました。なお、それとは別に、エピソードについても読みたいので、みんな、SNSやブログに、にしさんとのエピソードトークを書いてほしいです。
その後、3/16(土)13:00~、ASTER教育事業のZoomによる打ち合わせがあったのですが、特に反対もなく、むしろ賛成しかなく、、、。やるかーってなりました。
あと、書き忘れる前に明確にしておかないといけないことがひとつあります。
それは、この本は寄稿者の寄稿によって成り立っているということです。
そりゃあ、編集者だって大変でしたよ。なかでも河野さんと鈴木さんは大変でした。
でもね。それは調理の最後に加えるスパイスやハーブのようなものということです。もしも、この本が読者のみなさんに愛読されたなら99%は寄稿者のおかげです。
きちんとお礼を言えていなくてごめんなさい。
ご寄稿、本当にありがとうございました。
≡ 本書の入手方法
AmazonのKindleで購入できます。購入したらKindleアプリやウェブブラウザ(Kindle for Web)で読めます。
<2024/10/29訂正>
Kindle for Webは、リフロー型の書籍には対応していないので、本書は読めません。Kindleアプリから読んでください。
詳細は、この辺りをご参照ください。
紙で読みたい人は、数週間後にリリース予定のKindleペーパーバックを購入できます。
こちらは、オンデマンド(Amazonが注文を受けてからプリンターでコピーして製本)するのでAmazonで購入しても手元に届くまで時間がかかります(最長で1か月と言うものの、私の経験では1週間以内に届くことが多かったです)。ただし、電子版よりも、お値段が10倍くらいします。
この金額差ですが、約400ページのフルカラー本ということで、オンデマンドプリント版が正常な価格となっています。
Kindle版については、にしさんなら「現場の技術者のために、現場の技術者が入手しやすい価格設定にしなさい」というに違いないと思ったからです。
※ 実は、安い価格設定には「(それが)価値がないもの」というメッセージを購入者に与えかねないリスクがあります。
それでもこの価格にしたのは、読まれた方がAmazonのレビューやブログやSNSなどで本の感想や正当な評価を述べてくれると信じているからです。本書を必要とされる方に届くように、お読みになった方は何らかのアウトプット(同僚に「読んだ?」と聞いてみるとか)をしていただけると本当にありがたいです。
※ 無料にする、あるいはPDF版をウェブに置くことも考えたのですが、無料にしてしまうと、とりあえずKindleを購入して、暇が来たら読もうっていう人(暇など来ない……)が増えるだけの気がしますし、ウェブにPDFを置くことは寄稿者との合意が取れていませんので、著作権法上できないという事情があります。
※ 売上は寄稿者や編集者には1円も入らず、いったんはASTERのにしさん基金に入り、にしさんの何かに使われます。
≡ 本の内容
にしさんと親交があった72名による寄稿集です。複数人でまとめた寄稿文がありますので、全部で54編です。
この54編が以下のように4部+業績一覧に分かれて収集されています。
第一部: 研究者 西康晴(研究活動: 13編)
第二部: お世話係 にしやすはる(コミュニティ活動: 26編)
第三部: 電通大 にし先生(学生指導: 6編)
第四部: 種を蒔く人 にしさん(産業界やビジョン: 9編)
付録: 業績一覧
寄稿文ですので、研究論文のように演繹的に事実を積み上げてロジカルに書かれたものではありません。寄稿者一人一人が、にしさんから受け取ったことを真摯に文章化したものを編纂したものです。
ですから、ひょっとしたら寄稿文と寄稿文の間に矛盾があるかもしれません。
それは、にしさんから聞いた時期が違っていることが原因かもしれませんし、理解が違うということだってありえます。
本書の読み方としては、本書にある多くの寄稿文を自分の中に取り入れて、帰納的に読者のみなさんの心の中にある【イマジナリーにしさん】を育ててもらうのが良いのではないかと考えています。
■ 第一部: 研究者 西康晴(研究活動: 13編)

上記は、以下のツールを使用して第一部の原稿を読み込ませて作成したものです。(ツールを使用するときには、テキスト入力エリアの右下にある「文字数上限を増やす」をクリックするといいです)
第一部のワードクラウドの図から「観点」、「VSTeP」、「アーキテクチャ」、「QA」、「ソフトウェアテスト」の研究が寄稿者へ影響を与えたことが分かります。
第一部は、湯本さんを皮切りに技術面についての寄稿を集めたものです。テスト、レビュー、不具合解析、モデリング等々の技術が年代順にならんでいます。みな易しく書いてあるのですが、深い話題が多く、個人的にはとても勉強になりました。
私は、寄稿文について「受け取ったとき」、「レビュー・校正時」、「一冊のWordにするとき」、「プリントして紙で確認」、「入稿用のPDF作成後」のそれぞれのタイミングで2回ずつは読んでいますので、全ての原稿を少なくとも10回は目を通しています。
「完成版」は間違えを見つけるのが嫌なので読まないかも。
と、思ったのですが、Kindle版を購入して受け入れテストをしていました。(笑)
■ 第二部: お世話係 にしやすはる(コミュニティ活動: 26編)

第二部はコミュニティ活動です。ワードクラウドでは「JaSST」、「ASTER」、「SESSAME」、「ICST」、「Kyushu」が大きな文字となっています。
「TEF」についてワードクラウドで小さな文字となっているのは、少々残念だなと思いました。TEFはこれらの活動の根っこにあるようなものなので、表には出にくいのかもしれません。
(TEFという単語は、本書のなかに21か所あらわれます)
昔は、JaSSTなどの懇親会で「あなたが、TEFで○○の話題を書いていらっしゃった方でしたか」なんてやりとりがありました。
会社のアドレスで実名でやり取りされる方の方が多かったにも関わらず、炎上することもなく、初心者の疑問にも誰かが丁寧に答え、エキスパートの悩みが投稿されれば一緒に考えようと部会が立ち上がり、各地域での勉強会のメンバー集めに使われ、、、というように、TEFは良いコミュニティでした。
私はTEFがにしさんのコミュニティ活動の原点であり、その後誕生した数々のソフトウェアテストコミュニティの母体だと思っています。
第二部ですが、寄稿数が26編と最多で、全体の48%です。
本書の副題は「日本のテストコミュニティを作った男」なのですが、実はギリギリまでこちらが書名で「にしさんの教え」がサブタイトルでした。
内輪で「テクい本」と呼んでいた時もありました。
書籍のタイトルは最終的には、「この書籍は「にしさんの教えをまとめた」という部分がメインでは?と思いつつあります。つまり「作った男」の方が副題であるべきかもと。」という意見があり、「にしさんの教え」に決まりました。
そういえば、にしさんは「ブタ本」、「バリ本」など、本の愛称を付けるのが上手かったですね。この本には何というニックネームをつけてくれるかなあ。夢に出てきて教えてください。
第二部では、にしさんが様々なコミュニティを立ち上げたことも興味深いのですが、それぞれのコミュニティでのにしさんの振る舞いについて、より多くのことを学ばせていただきました。
■ 第三部: 電通大 にし先生(学生指導: 6編)

こちらのワードクラウドは他と大きく変わっていて、眺めていると楽しいです。実際、第三部の寄稿文が一番ニヤニヤできるかもしれません。
社会にでたときに困らない「(一生モノの)役に立つ知恵」を教えようとされていたのかもしれません。
■ 第四部: 種を蒔く人 にしさん(産業界やビジョン: 9編)

にしさんのビジョンや考え方、そして、技術になる前のアイデアが書かれた寄稿文がまとめられています。私の寄稿文はこちらに採録されています。
私の寄稿文は、「NHKクローズアップ現代」と言うタイトルで、2008年に、にしさんがテレビ出演した時の動画から司会者とのやり取りを書き起こしたものです。
文字起こしソフトを使わずに、動画を少し再生してはストップして今聴いたことを書き留め、巻き戻し正しく文字起こしできたかを確認する地味な作業でした。
ゆっくり読んでも5分もあれば読めてしまえるやりとりなのに、書き起こしに半日かかっているんですよ。(泣)
けど、いいこと言ってたのでいいかー。
さて、将来に向けて私たちは、第四部にあるにしさんのアイデアや想いをどれほど具現化することができるのでしょうか。
■ 付録: 業績一覧

「業績一覧」については鈴木順仁さんにお願いしていました。
本人には言っていないのですが、「なかなかできてこないなあ?」と不審に思っていました。せいぜい2ページくらい(50個くらい)と思っていたためです。
ところが、303編もあったのですね。これを知っていたら本を作ろうなんて思わなかったかもしれません。
そういえば、私も共著の『ソフトウェアテストHAYST法入門』に推薦の言葉をいただいていたのでした。
こういう檄文も業績のひとつといえるかもしれません。当時は、なかなか原稿が上がってこなくてハラハラしましたが、とてもありがたかったです。
(内容的には、HAYST法に対するものというよりはソフトウェアテスト全体に対してのことです。
あと、“心筋梗塞”とか、、、予言やめて!?)
推薦のことば
画期的な本である. この本は,日本のソフトウェア技術者のテスト設計技術を数段向上させ、ひいては日本のソフトウェア, いやソフトウェアが組み込まれた製品すべての品質保証に大きく寄与するだろう.
最近は、身の回りのありとあらゆる製品やビジネスにソフトウェアが深く関係している. 携帯電話や家電製品、自動車といったハードウェア製品にソフトウェアが組み込まれる量は増加の一途をたどり, 金融や物流, メディアなど企業のビジネスにおいて情報システムは信用と競争力の両面で大きな役割を担っている.ソフトウェアはもはや, われわれの心臓そのものなのだ.
しかし一方で, ソフトウェアの品質低下も社会問題になっている. 組込みソフトウェアの不具合や企業情報システムのトラブルが報道されない日はないといってよい。 われわれの心臓は動脈硬化を起こしており、 いつ心筋梗塞で倒れてもおかしくないのである.
したがってソフトウェアの品質向上は急務であり, 社会的要請となっている。 ソフトウェアの品質向上にはさまざまなアプローチがあるが, 不具合を水際で食い止める最後の砦としてテスト工程がある. テストの質を高めることは,社会を守るための最優先課題にほかならない。
とはいえ, テストの質の向上は一筋縄ではいかない. ソフトウェアのテストはハードウェアの検査ではなく, DR (デザインレビュー) と同等の知的作業だからだ. 味見や検算よろしく場当たり的にこなしていては,不具合をろくに検出できない. 質の高いテストを行うためには, クリエイティブかつ緻密な “テストの設計” が必要となる.
それでも多くの技術者は,テストの設計を深く考えない. その理由の一つが「テストすべき項目は無限にあるので, よくわからない」というものである.日本のソフトウェア技術者はテストの専門書として G. Myersの 『ソフトウェアテストの技法』 (長尾 真訳, 近代科学社) を最初に読むが, そこには「一般に,プログラムのすべてのエラーを見つけることは, 非現実的でもあり, しばしば不可能でもある」と述べられているばかりか, ごていねいにテスト項目が天文学的になる計算例も示されている. そのため, テスト技術の向上を心のどこかで諦めてしまうのだ。
テスト項目が無限になるのはなぜか.それは, 組合せのテストを行わなくてはならないからだ. 本文にもあるが, Webアプリケーションの開発で2種類のOSと2種類の Web ブラウザ, 2種類の解像度の相性をテストする場合, 2×2×2=8通りのテスト項目が必要となる. 最近の携帯電話や家電の機能を思い出せば, 曽呂利新左衛門の褒美のように, すぐに爆発的に増加してしまうことがわかるだろう.
本書は, テスト項目の爆発を防ぐ組合せテストの,日本で初めての専門書である. 著者たちの人となりが反映されていると感じるのは、私だけだろうか.非常に高度な内容が読者におもねることなく真面目に書かれていながら, 必要十分に実践的であり, 実例を用いてわかりやすく説明されている. 硬派でありながら心優しい本だと思う.
この本の読者は,何となく概要を把握するのではなく, きちんと理解してしっかり使いこなすことを心がけてほしい。 そうすれば, 組合せテストの質を向上しながら, 項目数の爆発を防ぐことができるようになる. 言い換えれば,見通しのよい組合せテストの設計が可能になるのだ. テスト設計を担当するソフトウェア技術者には,まさに必携の書である.
実は本書のメリットは, 組合せテストの質の向上だけではない。 自組織のテストプロセスやテスト設計と照らし合わせながら読むと,多くは組合せテスト以前のテスト設計に問題があることがわかるだろう. 言い換えると,本書をきちんと理解してしっかり使いこなそうとすると, いつの間にか自組織のテストプロセスやテスト設計が改善されていくのだ.そのつもりで読んでほしい.
この硬派な良書を活かすも殺すも、読者次第である。 斜め読みをしてむずかしぃと投げ出せば、いつまで経っても不具合で苦しむばかりである. しかし,考えながら読みこなし腹で理解すれば、必ず品質の高いソフトウェアを高い生産性で継続的に生み出すことができる. どちらを選ぶのかは, 読者である. 本書を活用し,自組織のテスト技術を改善し続けることで, 日本の産業競争力の向上を実現していただければ幸いである.
2007年7月
電気通信大学
西 康 晴
≡ 本書作成の苦労話
本書の企画経緯は上に書いたとおりで、54編も集まって10回以上も読み返すほど面白い本に仕上がったので、とてもよかったなーと思っています。
また、今後、この本が多くの人に読まれて、刺激を与えるんじゃないかと思うと、良いプロジェクトだったなあと思います。
でも、大変だったこともあったので、今後、同種の本を作ろうとする人に向けてメモしておきます。
私自身は『JaSST10周年記念誌』をまとめた経験がありました。
さらに、Kindleから2冊も本を出されている河野さんが加わりましたし、河野さんが巻き込んでくださった鈴木さんが超パワフルだったので、夏頃は気持ち的に余裕たっぷりでした。
ところが、よくよく考えてみますと、『JaSST10周年記念誌』は達人出版さんが編集から製本までしてくださったし、表紙は吉澤さんが作ってくださったので、私が何かのノウハウを持っているというアドバンテージはなかったのでした。
持っていたのは「根拠のない自信」だけでした。
■ 企画承認から原稿集め&レビューまで
2月29日に思い立って、3月16日に教育事業を一緒に進めているコアのメンバーに説明し、その結果をもとにつくった企画書がこちらとなります。

ページ数が倍になり、それに伴い、オンデマンドプリントの価格が倍近くになったことを除き、ほぼ計画通りに進んだのですが、予算は大幅に超えてしまいました。(後述)
ASTERの理事会に向けて、同時につくったPFDがこちらです。4月30日に河野さんにTwitterのDMとメールでお願いし快諾を得ていたので、河野さんの名前が入っています。

その後、6月4日(火)の夜に河野さんと食事をとりながら作戦会議をして、6月6日(木)に鈴木さんが加わり、寄稿依頼メールを出したのが、6月23日(日)とスケジュール計画は1週間前倒しでトントン拍子に進みました。このあたりの成功要因はSlackの活用が大きかったように思います。
続々と寄せられる寄稿文の管理とレビューのために、Notionを鈴木さんに用意していただき、原稿が届くと鈴木さんがNotionにアップして、Notionのコメント機能でレビューコメントを書き込んで共有していったことも上手くいきました。(鈴木さんは大変だったと思います)
寄稿文の管理・レビューの成功要因はNotionの活用が大きかったです。
ところで、今回、いただいた寄稿文についてですが、レビューはしっかりとしたものの、レビュー指摘の取り込みは半分くらいでした。
明らかな誤り、例えば、「2024年に、にしさんから頂いたメールに……」のようなものは寄稿者に確認して直しました(このケースでは2004年の誤記でした)。また明確な誤変換の類は勝手に修正しました。
# 数字の全角と半角の混在は悩んだ上、各寄稿文内でどうしても気持ちが悪いものだけ半角に統一しました。
つまり、わかりにくいとか、こういう言い回しの方が良さそうとか、おそらくは書き損じだけれど、ひょっとしたら深い意味がこめられているのかも……というレビュー指摘は寄稿者に確認する必要がありますので、今回は取り込みませんでした。
「ト」は別の意味で残しました。←謎。
早く本を出さないと、みんなのなかにあるにしさんの記憶がどんどん薄れてしまいますから。
もちろん、「この写真を使ってよいか、この論文を引用してもよいかについて著作権確認をしたい」というようなことで、多少、想定外の時間はかかりました。
でも、8月が終わり原稿の追加はほとんどなくなり、レビューが終わり、そろそろ「はじめに」(秋山)、「おわりに」(河野さん)、「編集後記」(鈴木さん)を書いて、仕上げに入るかーというころまでは本当に順調でした。
ちなみに、最後に届いた寄稿文は、9月28日(土) 23:57でした。印刷所に入稿したのは翌日(2024年9月29日 22時08分)ですのでギリギリまで頑張った、といいますか、にしさん関係のプロジェクトなのでそうなることは、覚悟していました。
最後に届いた寄稿文は、どうしてもほしい原稿だったので間に合って本当にうれしかったです。
※ 今回、個名での執筆依頼や催促はほとんどしませんでした。報酬を払えないボランティア活動なので主旨に賛同する人が基本と考えたからです。
さて、こんな様子で、私が「はじめに」を書きあげた9月10日(火)までは怖いくらい順調でした。
そして、河野さんが「おわりに」を書きあげたのは、9月22日(日)です。この間の2週間が一番きつかったです。
■ Kindle
寄稿依頼時に送った「にしさんの書籍:企画趣意書」の通り、
● タイトル:日本のソフトウェアテストコミュニティを作った男 〜にしさんの教え〜
● 出版形式:Kindle(On-demand publishing)
● 価格:Kindle版500円 / 単行本(オンデマンドプリント)2500円
● 発行日:2024年10月18日(金)ご命日の日
● コンテンツ:寄稿文集
● ページ数:200ページ程度
を作ることを想定して進めました。
ここに私のミスがありました。Kindle(On-demand publishing)(以下、ペーパーバックと呼ぶ)を作れば、自動的に、Kindle電子書籍(以下、KDP電子書籍と呼ぶ)はチェックボックスをチェックする程度のことで、何もせず同時に作成できると思い込んでいたのでした。

ところが、ペーパーバックとKDP電子書籍はそこまでシームレスではありませんでした。
簡単に言えば、ペーパーバックはPDF(本文と表紙)を作ればそのままいけるのですが、KDP電子書籍はEPUB形式で作る必要があり、WordをEPUBにざっと変換した後に、図のレイアウトや箇条書きとかを手作業で調整する必要があることが分かりました。(電子書籍は、固定レイアウトは稀で、端末アプリ側でフォントサイズなどを変更できるからです)
それは「はじめに」を書き終えた9月10日の夜のことでした。
Kindle化を外部委託しようとしている先から、40万円弱で希望納品日が2025/1/7という見積もり条件の提示を受けたのでした。
今なら、Kindle化前の原稿の状況を見ずに受注するなら不思議ではない見積もりなのですが、そのときは、「困ったな」というのが正直な気持ちでした。
金額はともかく、納期が一周忌の10/18を3か月近くオーバーしてしまうと、寄稿者との約束を果たせないぞと。
※ なんといっても、超多忙な第一線の72名のエンジニアに無償で書いてもらっているのですから、せめて完成した本くらいは、謝礼品として納期通りにお届けせねばと思ったのです。
■ MVP
「困ったな」と思ってはみたものの、「にしさんプロジェクトはバニーガール先輩の夢を見ない」(アニメネタです。スルーしてください)と思っていましたので、落ち込むことはありませんでした。また、プロジェクトは多少スパイシーでないと退屈ですしーとか思っていました。
逆に、正直なところ、にしさん関係のプロジェクトなのに、中間成果物が計画通りに進んでいることの方が内心不安でした。
なので、「(にしさん)しかけてきやがったな。さて面白くなってきやがった(@次元大介)」と思い、不謹慎ながら、ちょっとワクワクしてしまいました。
それでPOとしてのロールを持つ(河野さんを編集長と呼んでいたら「偉そうな呼称なのでPMがいいです」とやんわり叱られたので、じゃあ、私はPOって)ことにしていた私は、いまさらながら「MVPを決めよう」と思いました。
MVPとはMinimum Viable Productのことで、顧客に価値を提供できる最小限のプロダクトのことを指します。
完璧な製品・サービスを目指すのではなく、顧客が抱える課題を解決できる最低限の状態で提供します。アジャイル開発でよく使われます。
今、お約束しているのは「寄稿者に対して出版時に、紙の書籍を送付する」ということなので、「MVPとしては、Kindleではなく、(寄稿者向けの)同人誌」を作ることにしました。
同人誌の方がスケジュールがよめそうでしたし、印刷会社も素人の取り扱いには慣れているに違いないと思ったからです。
以上のことから「原稿がある状態で1か月もあればなんとかなるっしょ」とお気軽に思いました。(ストレスを抱えない私であった)
ただ、私には同人誌の作成ノウハウが一切なかったので、松谷さんに「テスターちゃん、どこで印刷しているの?」と聞きだし、「株式会社 栄光」と教えてもらい、一安心したのでした。
価格については、同人誌の印刷原価は50ページで千円程度と聞いていたので、まぁ、ページ数が400ページだから、8倍としても8千円か……と予測したのですが、フルカラーのオフセット印刷と言うこともあり、実際には1冊1万円を超えてしまったのでした。
(ASTER理事会に状況説明しました)
※ どうしても、値段を抑えたいなら、本文白黒、ページ数を減らす、オフセットではなくオンデマンドプリントにすれば半額以下になります。
今回は寄稿に対する謝礼品であることと、納期を厳守したかったので、実績のある栄光さんにお願いしました。(Kindleペーパーバックも本文白黒にしたらリーズナブルになりますが、本書のリーズナブル版を作る予定は今のところありません)
※ 栄光さんは、対応がとても良く、納期も守ってくださって、10月8日(火)には印刷完了しました。松谷さん情報ありがとうございます!
お陰様で10月15日には、ASTER事務局から寄稿者への郵送が終わり、なんとか一周忌には寄稿者のお手元に届いたと思います。ギリだけど。🙌
■ Word
寄稿文は原稿依頼時に添付したWordのテンプレートに書いてもらいました。一冊に編纂するときの原稿の並び順(正確にはカテゴリ分け)はNotionの方で調整し、河野さんと鈴木さんで決定してもらいました。
私は原稿の並び順の決定に合わせて、レビュー結果を取り込みつつ、1つのWordファイルにまとめる作業を担当しました。そうしないと、ページ数や目次の自動生成ができないからです。
ひょっとしたら、複数のWordファイルのままで目次を作ったり、ページ数を通番で振ることができるかもしれません。
私はWordのこと詳しくありません。
Wordに詳しくなくても、作業中の疑問のほとんどは、Googleで検索したら何とかなりました。工夫したのは目次に寄稿者名が入るようにしたところくらいかな。
気をつけないといけないのは、寄稿文が案外、凝っていることです。
各寄稿文が独自のスタイルを設定し、脚注をつけるあたりまでは気が付きやすいので良いのですが、マークダウンで文字修飾を指定している人もいました。
また、フォントを微妙に違うやつに変えているのには最後まで気が付きにくかったです。
そのフォント(游明朝)を使ってもよかったのですが、フォントの混在に起因する印刷トラブルをさけるためにベースのフォントはMS明朝に統一してしまいました。
※ 「游明朝」自体は好きなフォントです。優秀なフォントですし、「游ゴシック」ほど問題を起こさないからです。
ただ、今回はMVPを確実に成し遂げて、安心したかったのです。
あと、寄稿文のタイトルを目次にしたのですが、長文のタイトルがいくつかあって、そうすると目次が数行になってしまうので悩みつつ直しました。
他には、脚注として「文末脚注」(最後のページに付く脚注)を指示しているものがあって、最初、どの寄稿文の脚注なのか、わけが分からなくて悩みました。
(文末脚注前の横線がどうしても消えなくて、なぜだー?って……笑)
まぁ、でも大したことはありません。
Wordで作った原稿を印刷所に入稿するためにはPDFに変換する必要があります。今回、原稿のテンプレートはA4で、A5サイズに縮小印刷しています。
今回は、日科技連出版社さんの原稿フォーマットを使用しました。書きやすく読みやすいと思ったからです。
WordにはPDF形式で保存したりエクスポートする機能があります。
しかしながら、A4をA5に縮小する方法が見つかりません。ググってみたところAcrobatを使うしかないようなので購入して使いました。
2024/10/22 追記
探し方が悪かったようで、こちらのサイトによると、「Adobe Acrobat Reader」や、Macにプリインストールされている「プレビュー」を使ってページサイズが変更できるとのことです。
なお、今回は関係ありませんが、カラー原稿を白黒(やグレイスケール)に変換するときにもWordにはその機能はなくAcrobatを使用するしかなさそうです。
なお、表紙については、表紙+背表紙+裏表紙を一枚のPDFにする必要があります。また、そのサイズですが、ページ数によって本の厚さが変わり、それは背表紙の幅(背幅というそうなのですが、今回は、398ページだったので、28.7mmありました。ちょっとした辞典の厚さですね)に影響しますので、印刷所の指示にしたがう必要があります。今回の表紙作成は外部委託していましたので、そちらに依頼しました。自分で作る場合は、それなりのアプリケーションや作成ノウハウが必要そうです。
今回は紺色の背景色がある表紙でしたので、寸法が結構重要でした。
背景色が白の場合は、タイトルや著者名などの配置は同じように大切ですが、寸法は重要でないと思われます。
※ Kindleペーパーバックの場合も案外表紙作成が大変かもしれません。表紙作成のみを請け負ってくれる個人事業主さんもいらっしゃいますので、そちらにデザイン込みで頼む手はあります。
※ ところで、画面と紙では求められる解像度が1桁違います。ディスプレイで見ていい感じでも印刷物をみると「画像が粗くて品質悪いなあ」となる場合があるので、サンプル出力などで確認する必要があります。特に表紙は書籍の顔なので注意します(本書は、元画像が粗いので手の打ちようがありませんでした)
■ KDP電子書籍
こちらは、河野さんに任せっきりでしたが、「EPUBでは図が並ばない」、「日本語版のEPUBにならない」などいろいろあったみたいです。
それでも、10月14日には、KDP予約開始し、10月18日には、KDP出版できました。さすがです。
ということで、MVPなどなくてもよかったのですが、それは結果論というものでしょう。
河野さん、本当にありがとうございました。
■ 師弟愛とツンデレと
最後に、色々あったけれど寄稿者への謝礼品の発送は10/15にできましたし、KDP電子版も10/18に間に合った成功要因を書いておきます。
それは、編集者の河野さんと鈴木さんの頑張りです。
彼らはにしさんの事をディスりもするけれど、「奴のことをディスってもいいのは俺だけだ」(『はみだしっ子』のアンジーが言いそう)というツンデレ気質だと思うんです。
師弟愛とも言えなくもないけれど盲目的な愛じゃなくてちょっとねじれた愛。
もちろん、お二人のスキルの高さが成し得たことです。
河野さんの追い込まれたときに発揮する、やり遂げパワーはにしさん譲りだと思いましたし、鈴木さんのスキルの高さと、リプライの速さと、興味がないことへのスルー力もにしさん譲りだなあと思いました。
いや、本人たちは嫌がるかもしれませんが……。
「彼らがいたから完成した本」であることはいくら強調しても強調しきれません。
≡ おわりに
全部の寄稿文を読み込ませたワードクラウドはこちらです。

目次はKindleのページにあります。本当に面白い本なので、読んでイマジナリーにしさんを育て、困ったことがあったら、なんでもイマジナリーにしさんに相談しましょう。
本プロジェクトの反省としては、「プロセス管理はしたけれど、タスク管理はしていなかった」かな。
納期意識は編集者3名とも高かったと思うのですが、イレギュラーに飛び込んでくるタスクについてSlackの書き込みくらいしかなくて、探すのに苦労をしました。
「課題管理一覧表」とか作ればよかったかなあと少しだけ反省しています。
# 『JaSST10周年記念誌』のときにも反省をした気がするので、自分はタスクについて、あまり興味が無いのだと思います。
二つ目の反省点は、私が冷めきれていなかった点です。POは、ある意味、ずっと、冷めてなければいけないという思いがあります。
さて、次回はALTAに戻り、「4. ソフトウェア品質特性のテスト」の「4.2 ビジネスドメインテストの品質特性」の「4.2.5 使用性評価」の「4.2.5.2 使用性評価手法」です。
