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リーサルマイホーム! 第3話

【本文】

「おおー、こいつはすごいな」
 ようやく俺と朱遠は、新しいマイホームに到着した。
 家は住宅街に囲まれた二階建てのごく普通の一軒家。玄関から中に入れば、新築の匂いがあふれていた。
 広いリビングがあり、二階には寝室もいくつも用意されている。家具は運び込まれて、すぐにでも生活が可能となっていた。
「こんな綺麗な家に住めるなんてな」
 俺は感動して家を眺めていたが、朱遠は玄関の下駄箱の中を確認したり、観葉植物の鉢植えをひっくり返したり、壁をとんとんと拳で叩いていた。
「何やってるんだ?」
 朱遠の不思議な行動を怪訝に思っていると、彼女は鉢植えの裏から何かを見つけて取り出した。見れば、小さな機械のようだった。
「……監視カメラ。盗聴器もあちこち仕掛けられてる」
「監視カメラ!? 誰がそんなものを……?」
 俺が呆然としながら聞けば、朱遠が呆れたように続けた。
「誰が仕掛けたかなんてひとつしかないでしょ」
「……あっ。まさか……」
 答えはすぐにわかった。盗聴器を仕掛けたのは警察だ。朱遠たちは危険な存在だから、見張る必要があるのだろう。
 とはいえ、誰かにのぞき見されながらの生活など、ぞっとしない。
「あたしも盗み見されながらの生活はごめんだから全部処分するわ」
 朱遠は家の中を探し回って、ぬいぐるみの中やテーブルタップなどを全て外して盗聴器や監視カメラを探し出した。
 全部で盗聴器が五つと監視カメラが三つも出てきた。
「また付けられたくないから、あとで重道に頼んでおく。重道に頼んでおけば、なんとかしてくれるし」
「…………」
 頼めばなんとかしてくれるって、ジイさんはどれだけ甘いのか。
 もっとも、ジイさんも親父も朱遠たちに肩入れしているようだから、生活に差し障りがないように、いろいろと手を回してくれるだろう。
 家をひととおり見た後、外からあらためて新しいマイホームを見上げる。
 これから一年間、朱遠たち三人と住むのか。これが殺し屋の女の子たちではなく、恋人とだったらどんなに幸せだったか。
 そんなことを思いながら、俺はため息をこぼした。
「じゃあ、とっとと帰るか。ジイさんも待ちくたびれているだろうし」
 そう声をかけてから家の敷地から出ようとした時、朱遠が叫んだ。
「海道、前!」
 とっさに前を見れば、金属バットを振りかぶった男がいた。
「なっ!?」
 俺は呆然としていたが、背中からシャツを掴まれて後ろに引っ張られた。すんでのところで、金属バットは俺の鼻先をかすめて地面に叩きつけられた。俺の方は倒れそうになりながらも、なんとか踏ん張る。
 気づけば、家の周りを二十人以上の男たちが取り込んでいた。
 覆面をつけているために顔はよくわからないが、それぞれ金属バットやスタンガンを持っている。
「おい、何の真似だ!?」
 俺が呼びかければ、覆面をつけた男のひとりが前へと出てくる。
「大人しくついてこい。そしたら痛い目に遭わずにすむからよ。それとも、新居をめちゃくちゃにされて、半殺しにされてからついてくるか?」
「…………」
 朱遠が懐から拳銃を取り出そうとしたが、その手を俺は止めた。
「やめろ。ここではまずい」
 男たちの物々しい雰囲気に、周囲の家々から住民が何が起きたのかと顔を出してくる。ここで戦えば近所の人にも迷惑がかかる。さらには朱遠の存在も公に知られてしまう。
「……わかった。一緒に行ってやる」
 俺が男たちに返事をすれば、朱遠はため息をこぼした。

 俺たちは両手を縄で縛られて、街の中にある廃倉庫まで連れてこられた。
 広い倉庫には三十人近くの男たちがいた。年齢は全員二十代ぐらいだ。彼らは全員素顔を晒している。金髪やピアス、体にはタトゥーが入っている。いかにも半グレ集団といったところだ。
「おまえたち、俺たちに何の用だ?」
 俺が男たちに声をかければ、リーダー格の金髪の男が前に出てきた。
「てめえらには、落とし前をつけてもらいにきたんだよ。てめえらがガキを拉致るのを邪魔してくれたんだろ?」
「……拉致だと?」
 問い返してから、すぐさまはっと気づいた。
「じゃあ、昼間あの子どもを誘拐しようとしたのは……」
「そうだよ。俺たちだよ。せっかく一ヶ月以上前から計画を立てたのに、てめえらのせいで全部パアじゃねえか。どう責任取ってくれんだよ!?」
「ふざけるな! 誘拐がそもそも犯罪だ!」
 俺が反論すれば、金髪男はちっと鼻を鳴らした。
「あのガキの代わりに、てめえらで身代金を取らせてもらうぜ。まあ、身代金を奪ったら、魚のエサにしてやるがな」
 金髪男と仲間たちは下品な笑い声を上げる。
 俺も警察官としてそれなりに鍛えているつもりだが、さすがに三十人もの相手となると分が悪すぎる。朱遠がいても対抗できるかどうか……。
 その時に、朱遠から小さな声で俺に呼びかけてきた。
「あたしが注意を引きつける。だから、あなたは先に逃げて」
「逃げろって、おまえあの人数を相手にするつもりか?」
 いくら朱遠が強くても、ひとりで三十人もの屈強な男たちを相手にできるわけがない。
「ひとりなんて無茶だ。俺だって警察官だ。俺も一緒に戦う」
「…………」
 俺が真剣な顔で告げると、朱遠は軽く目を見開いた。けれども、すぐにまた無表情に戻ると、冷たい声色で言った。
「あたしはずっとひとりで生きてきた。誰の助けも借りることなく。だから、ここでもひとりでなんとかする。助けなんていらないわ」
 朱遠は突き放すように告げた。その言葉を聞いただけで、彼女がこれまでひとりで戦ってきたことがわかった。
 誰も頼ることはなく、ひとりぼっちで生きてきた。
「おい、てめえら、何をごちゃごちゃ話している?」
 金髪男が朱遠を見下ろしていた。朱遠の方は金髪男に脅されるも、ただ敵意を露わに上目遣いで睨みつけていた。
「なんだよ、その反抗的な目は!? 殴られねえとわからねえのか!」
 金髪男が拳を振り下ろすが、その前に俺は身を乗り出した。
「がっ!」
 朱遠の代わりに、俺が殴られて倒れ込んだ。頬がじんじんと痛みをあげる。そんな俺を見て、朱遠が「海道?」と目を見開いた。
「はっ! てめえから殺されてえのなら殺してやるよ」
 再び金髪男が拳を振り上げた瞬間、朱遠は両手を縛っていた縄をほどいた。そして、男の顔面に回し蹴りを喰らわした。
「がはっ!」
 金髪男は吹き飛んで地面に倒れ込んだ。
 朱遠は懐から拳銃を取り出した。
「こ、こいつ銃を持ってやがるぞ!」
 男たちが声を上げるが、金髪男は鼻血を出しながら叫んだ。
「どうせモデルガンだ! もういい! ふたりとも殺っちまえ!」
 金髪男がヒステリックに叫ぶと、三十人の男たちも金属バットやスタンガンを構えた。そんな男たちの姿を見ながら、朱遠も臨戦態勢に入った。
「海道。もう一度言うわ。あなただけ先に逃げて」
「ふざけるな! おまえひとりを置いて逃げられるか!」
 警察官として、男としてのプライドとして、いくら元殺し屋とはいっても俺は女の子ひとりで戦わせることなど絶対にできなかった。
「ひとりで戦うよりも、誰かと力を合わせた方が楽だって教えてやる」
「……海道」
 朱遠が呆気にとられたようにつぶやいた時、廃倉庫の入口から「ぎゃっ」と男の悲鳴が聞こえてきた。はっとしてそちらに顔を向ければ、レナと真央がいた。
「ねえ、アタシたちもパーティーにまぜてよ」
「……遊軍到着」
 レナも拳銃を取り出して、真央は懐から〝くない〟のようなナイフを二本取り出した。
「レナ? マオ? ふたりともどうして……?」
 朱遠が惚けたように言えば、レナは撃鉄を起こして笑顔を向けた。
「話は後。とっとと片付けるよ」
 戦いの体勢に入った俺たち三人を見て、朱遠はふっと笑った。
「わかった。じゃあ、始めましょ」
 朱遠は敵に向かって引き金を引いた。

 三十分後、俺たちは廃倉庫の外に出ていた。
 廃倉庫の中では男たちが全員伸びている。警察にも連絡をしたし、すぐに警察があの連中を逮捕することだろう。
 まさに一方的な戦いだった。たった三人の少女たちが半グレの男たちに銃弾を撃ち込んで吹き飛ばし、くないを足に突き刺して倒した。俺も警察学校仕込みの防衛術で戦ったが、俺がひとり倒している間に朱遠たちは五人倒していた。俺が出る幕など全くなかった。
 俺はため息をこぼしてすると、朱遠がレナに声をかけた。
「それで、ふたりともどうしてここがわかったの?」
「シゲミチがふたりの帰りが遅いって居場所を調べたら、あそこにいたのがわかってたってわけ。それでアタシたちを助けに行かせたってわけ」
「……重道が?」
 惚けた顔をしている朱遠の肩に、俺は手を置いた。
「どうやらおまえを心配したのは、俺だけじゃなかったな」
 俺が微笑みかけると、朱遠は顔をそむけて、かすかに小さな声で言った。
「士道があなたを選んだ理由が少しわかった気がする……」
「……えっ? 今、何て言ったんだ?」
 俺が問い返すと、朱遠は「なんでもない」と素っ気なく答えた。
「カイドー。コンビニで何か買っていこうよ」
 レナが俺の腕を組んで、横から声をかけてくる。
「ああ、おまえたちのおかげで助かったから、好きなものをおごってやる」
 俺が伝えると、レナと真央は「いえーい!」と手を叩いた。そして、コンビニでコーヒーゼリーだのポテチだの買いたいものを次々と言った。
 さっきまで男たちと戦っていた姿とは、別人のようだ。
 俺は苦笑してから朱遠にも尋ねた。
「朱遠。おまえは何が食べたいんだ?」
「……あたしは……」
 朱遠は少し考え込んでから、ぽつりとつぶやいた。
「シューアイス」
 そう言った朱遠の顔は殺し屋ではなく、普通の女の子の顔だった。
 そんな表情に思わず笑みがこぼれて、俺は「わかった」とうなずいた。

 こうして俺と元殺し屋の女の子たちの生活が始まったのだった。

〈第3話 終わり〉
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