上益城郡の町をめぐる ——恐竜と国宝の橋、そして震災からの再生
熊本市の東どなりに、上益城郡(かみましきぐん)という五つの町が連なるエリアがある。御船町(みふねまち)・嘉島町(かしままち)・益城町(ましきまち)・甲佐町(こうさまち)・山都町(やまとちょう)だ。恐竜化石の町、国宝の石橋がある町、そして平成28年(2016年)の熊本地震でもっとも大きな被害を受けた町——それぞれに個性の異なる五つの町を、まとめて歩いてみよう。
●歴史——化石の里、水の恵み、そして震災の記憶
御船町は「恐竜の里」として知られる。町内では日本で初めて肉食恐竜の化石が発見され、「ミフネリュウ」と名づけられた。町立の御船町恐竜博物館は、九州最大規模の骨格展示数を誇る。
山都町は、江戸時代の水利事業の記憶を今に伝える町だ。嘉永7年(1854年)、水不足に苦しむ白糸台地に水を送るため、矢部の惣庄屋・布田保之助(ふたやすのすけ)によって通潤橋(つうじゅんきょう)が築かれた。令和5年(2023年)には国宝に指定されている。
そして益城町は、平成28年(2016年)4月の熊本地震で、4月14日・16日の両地震で二度にわたり震度7を観測した町だ。町の広い範囲で家屋が倒壊するなど深刻な被害を受け、その後、復興のまちづくりが進められてきた。
それから10年後の令和8年(2026年)7月28日、上益城郡は再び大きな地震に見舞われる。嘉島町では震度6強を観測し、地震発生からおよそ1時間20分後の午後5時50分ごろ、大型商業施設「イオンモール熊本」で爆発が発生。建物2階と外壁が崩落し、7人が亡くなった。爆発は、地震で損傷した配管からガスが漏れ、それに引火した可能性が指摘されている。地震直後に約3,000人の買い物客と1,300〜1,500人の従業員が屋外へ避難していたなかでの、二次災害だった。
●地理的な特徴——平野から山あいへ、五つの町の表情
上益城郡は、熊本平野の東側から九州山地の山あいへと続くエリアだ。御船町・嘉島町・益城町・甲佐町は熊本市に近い平野部、山都町は九州山地の谷あいに位置する。九州自動車道と九州中央自動車道が交わる要地でもあり、熊本市や阿蘇へのアクセスもよい。
●観光スポット
★外国人向け——御船町恐竜博物館
外国人観光客にまずおすすめなのが、御船町恐竜博物館だ。日本初の肉食恐竜化石「ミフネリュウ」をはじめ、九州最大規模の恐竜骨格が展示されている。化石のクリーニング作業を見学できるコーナーや、化石発掘の体験プログラムもあり、子どもから大人まで楽しめる。
○日本人観光客向け——通潤橋(山都町)
日本人観光客には、国宝・通潤橋をすすめたい。全長約78メートル、高さ約21メートルの石造アーチ水路橋で、放水の様子は圧巻だ。江戸時代の土木技術の粋を集めたこの橋は、令和5年(2023年)の国宝指定を機に、あらためて注目を集めている。
◎地元の人向け——益城町の、震災からの歩み
地元の人にとって益城町は、震災の記憶と、そこからの再生の物語が重なる町だ。観光地として大きく取り上げられることは少ないが、復興したまちなみを歩けば、地元の人々の暮らしと強さを感じられる。そして上益城郡には、川と山の恵みを味わえる店が点在している。
【甲佐町やな場】(甲佐町)
緑川の上に畳敷きの座敷が張り出した、鮎料理の名所。寛永10年(1633年)、肥後藩主・細川忠利の命でつくられた水田用水の調節場が起源で、江戸時代には藩主が毎年、落ち鮎を楽しみに訪れたと伝わる。藁葺き屋根のあずま屋で、鮎の刺身や塩焼き、鰻料理を、川の流れを眺めながら味わえる。
https://kumamoto.guide/spots/detail/11099
【ホテル通潤山荘】(山都町)
令和5年(2023年)に土木構造物として全国で初めて国宝に指定された通潤橋から、徒歩3分ほどの温泉宿。館内のレストランはランチが1,000円台の定食からで、山女(やまめ)や鮎の塩焼きなど地元の食材を使う。熊本県産の有機玄米や自然塩を使うなど、素材にこだわった料理を出す。
https://tsujun.jp/
【道の駅 通潤橋】(山都町白糸)
九州中央自動車道・山都通潤橋ICのすぐ前にある道の駅。物産館「オオルリ」には有機野菜、矢部茶、地酒、米、ジビエなどが並び、併設のレストラン「ARCH(アーチ)」——地元・矢部高校の生徒が名づけた——では地産地消をテーマにした季節料理が味わえる。通潤橋の見学とセットで立ち寄りやすい。
https://tsujun-yamato.jp/
嘉島町や甲佐町ののどかな田園風景も、上益城郡らしい素朴な魅力だ。
●恐竜、国宝、そして再生の物語
上益城郡をひとことで言うと、「恐竜と国宝の橋、そして震災からの再生」だ。太古の化石、江戸の土木遺産、そして平成の震災からの歩み——時代を超えた物語が、この五つの町には詰まっている。
