子猫さくら🌸の短編ファンタージー【星を結ぶ郵便屋さん】
【※1300文字程度/読了目安:3〜4分】
七夕の夜。
庭先には、昼間の暑さを忘れさせるような涼しい風が吹いていました。
子猫さくら🌸は、小さな笹飾りを見上げながら、天の川を探しています。
「今年も、織姫さまと彦星さまは会えるのかな。」
そのときでした。
一粒の星が、ゆっくりと空から舞い降ります。
流れ星でもありません。
蛍でもありません。
それは、小さな金色の封筒でした。
封筒には、やさしい文字でこう書かれています。
『星を結ぶ郵便局』
「こんばんは。」
振り返ると、銀色の帽子をかぶった小さな郵便屋さんが立っていました。
「今日は一年に一度だけ開く、特別な郵便局の日です。」
さくら🌸は目を輝かせます。
「お願いごとを書けばいいの?」
郵便屋さんは、そっと首を横に振りました。
「いいえ。 今日は願いごとを届ける日ではありません。」
「えっ?」
「今日は—— 言えなかった言葉を届ける日なのです。」
さくら🌸は、不思議そうに封筒を見つめます。
「言えなかった……言葉?」
「ありがとう。 ごめんね。 元気でいてね。 会いたいよ。そんな一言ほど、心の中で迷子になってしまうものです。」
さくら🌸は少し考えました。
言えなかった言葉……
思い浮かんだのは、お友だちの顔でした。
この前、小さなことでけんかをしてしまった。
仲直りしたかったのに、
「ごめんね。」
その一言が言えなかった。
郵便屋さんは、白い羽根のペンを差し出しました。
「言葉は短くていいのです。本当に大切な言葉ほど、短いものですよ。」
さくら🌸は、小さく深呼吸をして書きます。
『ごめんね。』
それだけでした。
封筒は、ふわりと金色の光に包まれます。
「これで届くの?」
「はい。」
郵便屋さんは優しく微笑みました。
「天の川は、 会いたい人だけを結ぶ橋ではありません。伝えたかった心も結んでくれる橋なのです。」
その言葉が終わると同時に、
封筒は小さな星になって空へ舞い上がりました。
星は、天の川へ溶けるように消えていきます。
さくら🌸は、しばらく夜空を見上げていました。
すると、一筋の流れ星が静かに流れます。
まるで、
『ちゃんと届いたよ。』
そう返事をしてくれたようでした。
翌朝。
笹飾りは昨日と同じ。
庭の景色も変わりません。
けれど、さくら🌸の胸の中だけは少し違っていました。
昨日まで重たかった気持ちが、
朝露のように、そっとほどけていたのです。
郵便屋さんの姿は、もうどこにもありません。
でも、夜空を見上げるたび、
さくら🌸は思い出します。
七夕の夜だけ開く、 小さな郵便局のことを。
そして今日もまた、
どこかで誰かの
「ありがとう。」
「ごめんね。」
「元気でいてね。」
その一言が、
星になって天の川を渡っているのかもしれません。
おしまい…
言えなかった一言は、
星がそっと預かってくれる。
だから夜空は、今日もやさしく輝いている。

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