クソ野郎をやっつける
「じゃあもう、一緒にゴハンは食べない!!」
おいおい。大の大人がなにいじけてんの?
ある休日の昼食。
ギシャリギシャリとスプーンでカレー皿をこさぐ夫。
子どもが食事の手を止め、ポツリとつぶやいた。
「ぼく、この音にがて。」
私はH S Pだ。そして、この時、子どももH S Pなのだと確信した。しかし、夫はちがう。
「こんくらいで嫌なんて言ってると、苦労する。我慢しろ。」
子どもの口がへの字になる。
そこに、トドメをさすように、冒頭のゴハン一緒に食べない宣言。
夫の言っていることは、わかる。
そんなこと?と思われることが、H S Pの人間には耐え難い。
だから周りの人には、わかってもらえない。これからの人生、きっと苦労するだろう。それでも
親とすごす時間くらい安心させてやりたいのだ。
「ぼくのせいで、みんなでゴハンを食べられなくなっちゃった。」
ポロポロと涙がこぼれてゆく。この子の心を救わねば。
「音がたちにくい木のスプーンに替えればいい話じゃないの?」
怒って自室にこもる夫に声をかけに行くも、そういう問題じゃないと追い出された。
知るかクソ野郎。
頭の血管が何本か逝ってしまいそうだったので、私は、あることを始めた。
掃除だ。
夫に対してイラつきまくるママたちに、推し叫びたい。
掃除は、イライラを癒す。
これは心理学でいう、「昇華」だ。
怒りを、別のポジティブな行動や活動に変換するのだ。
というか、すり替え?笑
ありとあらゆる汚れを、脳内で夫に変換し、消しまくる。
結果、どうなるかというと
心も家も、めっちゃスッキリする。
もうひとつ。イライラしている状態は、漢方で「気滞」という。
要は、流れが止まっているということだ。
コップに水をためていたら、だんだんと底がヌルヌルしてくるように
流れが止まると、よろしくないモノがうまれる。
だから、流すのだ。
イライラも、険悪な空気も。
家の中とは打って変わって、外は晴天。風も心地よかったので、早めの窓掃除をすることにした。
私が、ベランダで邪念を抹殺していたら、子どもがやってきて一緒にやり始めた。
これが結構うまい。
水を吹きかけて、スクイージーで上から下へ水滴をきる。垂直に。均等の力で、スムーズに。こんなこともできるようになったんだねーー。
1歳のころ。シールが大好きだった。なかなか剥がれず苦戦してたっけ。それでも諦めず、一生懸命に。剥がれたシールが体のいたるところにつきまくってた。
夢中になっている横顔は、あの頃のまま。
うん。この子はきっと、大丈夫。
心の中がほんわり。あたたかい。
ふたりの声が弾みはじめたころ、夫がスッとどこかへ出かけていった。
ベランダの窓がピカピカになり、部屋に戻って子どもとおやつを食べていると、夫が、ちいさなビニール袋をにぎりしめて帰ってきた。
夫のために、コーヒーを淹れよう。
豆を挽き、湯をわかす。ゆっくり、ゆっくり、ドリップする。
弾んでゆく夫と子どもの声を聞きながら、夫が買ってきてくれた木のスプーンを、やさしく、丁寧に洗いあげた。
